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まじない師、街道を行く
※このテキストは、架空世界カナンの紹介をしています。
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巫女姫が聖都を建設して70年余。
うち続いた戦乱はおさまり、カナンに平和な時代がやってきた。そう言われている。
たしかにトニが女ひとりで旅していられるのだから、カナンは平和になったのだろう。
相変わらず街道に盗賊は出没するし、隣り合った小王国同士が互いの領地を奪ってやろうと戦を繰り返している。
それでも、聖都詣での巡礼者は大神殿をにぎわせているし、そのための街道も整備されている。
「神気が薄い。まあこんなところじゃ仕方ないか」
平石をふいた街道の上でトニはつぶやいた。その手からは怪しい文様を染めた布がなびきもせずにだらりと下がっている。
布に描かれている呪紋は、ある種の神に反応して軽い布をなびかせるようになっているのだ。それがぴくりとも反応しない。
カナンにはあらゆるところ、あらゆる場所に神が在る。
だが、ひとの手が入りすぎた場所は、古くからその地に宿る神には居づらいとみえ、神気を薄めさせ、やがていずこかへ去るか、消え失せてしまう。
いっぽうでひとに近しい別の……トニや神人たちに言わせれば「新しい」……神が、そういう場所には宿るようになるのだが。
「道案内をしてもらおうと思ったのに。道を覚えるのは苦手なのよ」
聖都を旅だって4日目、聖都より東に足を踏み入れるのは初めてのトニだった。だから、目的の場所について知っているだろう神に案内を頼もうと思っていたのだが、どうももくろみ通りにはいかなさそうだ。
誰にでもできることではない。トニのような呪い師だからこそ可能なことだ。
「仕方がないか。街道を辿っていけばどこかにはつくでしょ。途中の宿場で道を聞けば……」
トニは肩がけの荷袋の位置を直してまた歩き始めた。
目指すは古都市ヴェニゲ。カナン中東部の国カヤクタナに属する独立都市だ。
ちょっと長い旅になるだろう。
どんな出来事が待っているにせよ、習い覚えた呪いの技がきっと身を守ってくれるはずだ。
遙かな昔、神々はカナンの支配を巡って長い争いを続けていた。
争いのさなか、敵との間に生まれたのが、ひと。自ら考え、言葉を操るものたちだった。
ひとが神々の側についたことで、長かった争いにもついに終止符が打たれ、敵たちはカナンから逐われた。
神々はひとと親しく交わり、その蜜月は1000年ほども続いたのだが、やがてひとは神々と交わるちからを徐々に失い始めた。
いまでは神々の姿をひとは見ることも触れることもできなくなった。
だが、神々はそこにいる。
ひとがほんのわずかな生を、喜びと憎しみと悲しみと、恐るべき無為とともに過ごして、死の神の馬車に乗るまでの間、ずっと神々はあらゆる場所でそこに在る。
風を吹かせ、火を燃やし、大地を支え、大河の水をたゆたわせ、生き物に、そうでないものに宿り続けている。
ここはカナン。神と人の大地。
大河ゴヌドイルに寄り添って生きる人間たちは、今日も神々を恐れ、敬いながら生きている。
テキストの舞台となっている架空世界カナンについては http://imaginary-fleet.sakura.ne.jp/ca/main.html こちらのサイトをご覧ください。
これからもカナンの情報はじわじわ増えていく予定です。
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