ブルー・オーシャン戦略-第2章

本稿は、ポパイに出てくる無類のハンバーガー好きなウ太った中年男性「ィンピー」と筆者の対談により、ブルー・オーシャンを分かりやすく解説しています。       

未開のターゲット層

肉量の多いクォーター・パウンダー・チーズを復活させ、さらにボリュームのあるダブル・クォーター・パウンダー・チーズまで新商品デビューさせた狙いとは?

その狙いをウィンピーが解き明かした。


小笠原昭治:ターゲットは君だって言うけど、ナゼ私がターゲットなんだい?

ウィンピー:クォーター・パウンダー・チーズは懐かしい…と言っただろう?そういう年齢を取り込もうという作戦さ。

小笠原昭治:なるほど。だいたいハンバーガー・ショップのメインターゲットはF1層M1層T層だからね。それ以外の層を狙ったというワケか。

ウィンピー:それと、男性さ。だから、ボリュームのある商品をラインナップしたんだよ。

小笠原昭治:そうか。他のハンバーガー・ショップがメインターゲットにしていないM2層に的を絞ったワケか。


ウィンピー:キャンペーン・メッセージを見てごらんよ。明らかに男性向けだ。

       1)ハンバーガーを ナメている すべての人たちへ
       2)ニッポンの ハンバーガーよ もう遊びは終わりだ
       3)ハンバーガーに 常識はいらない
       4)腹から日本を 元気にする
       5)腹も夢も 膨らませろ
       6)食べた?
       7)ジーパンから ハミ出すくらいの 夢を語れ
       8)夢がデカイ
        嘘がデカイ
        足がデカイ
        なんだっていい
       9)口をデカく開けると どんな奴だって 元気に見える
       10)主張せよ

新商品コンセプト

小笠原昭治:大きさを強調して、断定的で、挑発的で、男性向けのメッセージになっているね。

ウィンピー:さらに、イメージキャラクターには、水泳の北島を起用している。北島のイメージで売りたい新商品ってことだね。

小笠原昭治:ヘッドラインは「世界をつかもう」世界を制した北島ならではのコピーだね。

ウィンピー:本格ハンバーガーを追究したら「北島のようなイメージになった」と訴えているわけさ。

小笠原昭治:同じ本格ハンバーガー路線を追究した結果、小さくてシンプルな別品バーガーを開発したコッテリアとは異なる新商品ってトコが面白いね。

ウィンピー:コンセプトが同じでも、ターゲットが異なると、まったく別の新商品になるってことかい?

小笠原昭治:ターゲット別に分類すれば、コッテリアは既存のT・F1・M1層を狙った本格ハンバーガーを開発。


ウィンピー:一方のクォーター・パウンダーは、T・F1・M1層ではない市場を狙った。

小笠原昭治:クォーター・パウンダーは、新しい市場を開拓する商品なんだよ。

ウィンピー:そうか。ブルーオーシャン戦略か?レッドオーシャン戦略か?といえば、スマイル0バーガーは明らかにブルーオーシャン戦略か。

フロンティア戦略

小笠原昭治:スマイル0バーガーは明らかにブルーオーシャン戦略か。確かに、
スマイル0バーガーの過去の商品を見れば分る通り、いつも敵のいない戦場で戦おうとしているね。

ウィンピー:その代わり、失敗も多いんだ。甘いハンバーガーとか。

小笠原昭治:ああ!スマイル・グリドルね?

ウィンピー:甘いソースで肉を食べる食文化は古くから欧米にあったんだけど、それを商品化したんだろう。着眼点はユニーク。

小笠原昭治:でも、あれはマズかったなあ。日本人には馴染まないと思う。

ウィンピー:グリドルだけじゃない、今は無き商品の多さに驚くぜ。

小笠原昭治:たとえば?

ウィンピー:チキンダッタ、カルビバーガー、チキンバーガー、ホームメードバーガー、ダブルスバーガー、ダブルチーズ、フランクバーガー、リブバーガー、トマチキ・フィレオ、ジューシーチキンサンド、スマイルグラン、トマトグラン、BLTバーガー。


小笠原昭治:季節メニューも挙げると、グラタンコロッケサンド、月見サンド、てりたまバーガー、チーズてりたまバーガー、ギガトマト、ギガたまご、ギガてりやき、月見てりやき、ピタスマイル。

ウィンピー:サラダ類などサイドメニューまで含めると、もっとある。

小笠原昭治:ブルーオーシャン戦略は、戦場を探すフロンティア戦略だからね、
まだ誰もやったことがないだけに、失敗例も多いってことか。

ウィンピー:無血勝利を収めるには、失敗を恐れていたらダメなんだよ。

棲み分け

小笠原昭治:新商品の失敗を責める会社にゃブルーオーシャン戦略は採用されにくいだろうね。

ウィンピー:既存の市場を奪うべく、血みどろになって戦い続けるレッドオーシャン戦略にならざるを得ないだろう。

小笠原昭治:そこで面白いのがコッテリア。

ウィンピー:クォーター・パウンダー同様、本格志向の新商品“別品バーガー”を市場導入。

小笠原昭治:それそれ、その別品バーガーが面白い。

ウィンピー:どのように?

小笠原昭治:他社で売っている既存の商品であっても、ターゲットを変えれば、立派な新商品になるってことを証明してくれたんだ。


ウィンピー:コッテリアの本格志向のハンバーガー“別品バーガー”が?

小笠原昭治:あれは、ボスバーガーにおける“単なるチーズバーガー”と同じハンバーガーだと私は思っているんだ。

ウィンピー:じゃあ両者は敵対するじゃん?

小笠原昭治:そこが面白いんだ。ターゲットが違うから敵対しないんだよ。味よりも安いハンバーガーを求める選択者はコッテリアへ行く。

小笠原昭治:そ。だから、同じ商品が、別の店で、別の値段で売られていても敵対しない。

ターゲティング

ウィンピー:コッテリアのファンは、全体に値段の高いボスバーガーのチーズバーガーは食べないし、そもそも、ボスバーガーへ行かない。

小笠原昭治:反対に、ボスバーガーのファンは、コッテリアへ行かない。

ウィンピー:たとえば、高校生はボスバーガーへ行かずに、コッテリアへ行く。とうぜん、ボスバーガーのメニューは知らない。


小笠原昭治:ボスバーガーのチーズバーガーが、コッテリアの別品バーガーと同じだってことを知らないんだな。だから商売になる。

ウィンピー:ボスバーガーのターゲットはT・F1・M1層じゃないからね。

小笠原昭治:お互いのターゲットは、お互いのメニューすら知らないかもね。

ウィンピー:そう考えると確かに面白い。クオリティで勝負のボスバーガーのチーズバーガーは250円。

小笠原昭治:それと同じ商品が、コッテリアでは、別品バーガーとして360円で売られている。

ウィンピー:110円の違いがあっても売れるのは、ターゲットが異なるから。

小笠原昭治:それが商品戦略・価格戦略というものさ。ターゲットが異なれば、同じ商品が別の値段で売られていても構わないんだ。

レッドオーシャン戦略

ウィンピー:じゃあ、ボス・バーガーは、クォーター・パウンダーと敵対するんじゃないの?

小笠原昭治:大丈夫。ボス・バーガーは、質で勝負。量で勝負していないから。

ウィンピー:量より質かあ。確かにメニューを見ればわかるぜ。ボスバーガーには、ボリュームを売りにしているメニューが一つもない。

小笠原昭治:昔はあったけどね、ダブルバーガーとか。今は無いけど。

ウィンピー:量より質ということは、わかりやすくF2ターゲットと仮定すると、

  • コッテリアの別品バーガー → F1M1層(20~35歳男女)ターゲット

  • クォーターパウンダーチーズ → M2層(35歳以上男性)ターゲット

  • ボスバーガー → F2層(35歳以上女性)ターゲット

小笠原昭治:そう考えられる。

ウィンピー:じゃあ、コッテリアは、ブルーオーシャン戦略になるんじゃ?

小笠原昭治:ちがう。本格志向の新商品といっても、結局は、ボスバーガーの既存商品と変わらない新商品だし、ターゲットも変更していない。


ウィンピー:結果的に、コッテリアが、ボスバーガーに挑んだ格好になった?

小笠原昭治:そう。コッテリア対ボスバーガーの構図といっていい。

ウィンピー:本物を追究した別品バーガーが、結局、ボスのチーズバーガーと同じ商品なんだもんね。

小笠原昭治:ただし、ターゲットが違うから、全面戦争にはならないけどね。

ウィンピー:でも、コッテリアの別品バーガーひとつだけを取り上げて、ボスバーガーへ挑んだというには、ちょっとムリがあるんじゃ?

小笠原昭治:まだあるんだ。コッテリアは新しく直球バーガーという新商品を出したんだけど、これまたボス・バーガーのボスハンバーガーとそっくりなんだ。厚切りのトマトといい、価格といい。

ウィンピー:コッテリアは、ボスバーガーというライバルのいる市場で戦おうとしているんだね。全面戦争にはならないにしても。


小笠原昭治:そこがコッテリアのユニークなところさ。

ウィンピー:待てよ。じゃあ、ボスバーガーが、F1M1向けの別ブランドを立ち上げて、既存商品をラインナップさせたら、どうなるんだい?

小笠原昭治:血みどろの全面戦争だろうね。だからさ、ブルーか?レッドか?どちらかといえば、コッテリアはレッドオーシャン戦略だと私は見ている。新しい何かを開拓したワケじゃないからね。

バーガー王

ウィンピー:話を戻そう。クォーターパウンダーの勝算はターゲティングだけじゃないだろ?

小笠原昭治:ボリュームたっぷりなギガスマイルの成功が背景にあると思う。

ウィンピー:なるほど。時代背景として、もはや量は心配のタネじゃないと?

小笠原昭治:大きなハンバーガーが特徴のバーガー王が再上陸してきた背景もある。

ウィンピー:バーガー王といえば、シカゴでユニークな販売促進キャンペーンやってたぜ。


小笠原昭治:どんな?

ウィンピー:財布を5,000個もシカゴ中に落としまくったのさ。

小笠原昭治:財布を落とした?

ウィンピー:ああ、本格のドル紙幣が入った財布をね。

小笠原昭治:わざと?

ウィンピー:むふん

小笠原昭治:これはユニークだ!費用対効果よりもパブ狙いかなあ。

ウィンピー:クォーター・パウンダーもプロモーション戦略に力を入れていて、

      ●ティーザーキャンペーン

      ●ファンクラブ会員組織

      ●商品発売記念イベント「QUARTER POUNDER MAGIC!」

      ●オープンキャンペーン

      を展開したよね。

コストリーダシップ

ウィンピー:商品戦略、価格戦略、プロモーション戦略、ターゲットの異なる店舗戦略…うーん、マーケティングだなあ。

小笠原昭治:クォーター・パウンダーがブルーオーシャン戦略に似ているのは他にもあるんだ。たとえば、コストリーダシップ戦略であること。

ウィンピー:Cost Leadership Strategy。ポーター教授の競争理論だね?

小笠原昭治:うん、業界最大のスケールメリットを活かし、製造コスト、調達コスト、流通コスト、販売コストなどの諸コストを徹底的に削ぎ落とし、スリム化し、低価格で優位に立つ戦略。

ウィンピー:ブルーオーシャン戦略も、徹底的にムダを削ぎ落とすことで価値を高めようという戦略理論だったよね。

小笠原昭治:そうなんだ。両者は共通する。だからクォーター・パウンダーはブルーオーシャン戦略といえるんだ。


ウィンピー:でも、ポーターの競争理論によると、安さと高級は並び立たないってコトだったぜ?吉野家の1,000円牛丼が売れなかったように。

小笠原昭治:新しい市場を開拓するブルーオーシャン戦略は、安さと高級路線が並立するらしい。そういう商品を作り出せばいいワケだから。

ウィンピー:それでダブル・クォーター・パウンダー・チーズを商品化した?

小笠原昭治:それが勝算さ。でも、高級路線じゃないよ?

ウィンピー:本格路線であっても、高級路線じゃない?

小笠原昭治:ああ、過去にスマイルグランという高級ハンバーガーで失敗した経験があるから、高級バーガーでは戦わず、本格ハンバーガーの市場を作り出そうとしたんだろう。

ハンバーガーの戦略

ウィンピー:高級バーガーといえば、ハワイアンテイストのクワナイノが成長著しいぞ。

小笠原昭治:クォーター・パウンダーとは値段が倍も違う。

ウィンピー:500円vs1000円って感じだね。

小笠原昭治:クォーター・パウンダーは、それだけコストをカットしたうえで、高級路線とは異なる本格市場を作り出そうとしているワケさ。

ウィンピー:僕は好きでハンバーガーを食べ散らかしてるけど、ハンバーガーにも奥深い戦略があったんだね。


小笠原昭治:うん、マーケティングというと、ビール業界やクルマ業界が例に引用されがちだけど、こういう視点で眺めてみるとハンバーガー業界も面白いだろ?

ウィンピー:これからは観察しながら食べることにするよ。

小笠原昭治:ああ。ところで、他のハンバーガーショップは、どうする?

ウィンピー:いまのハンバーガー群雄割拠も面白いけど、100年後がどうなっているのか興味が沸いてきたぜ。

小笠原昭治:100年後なんて、誰も知らないさ。

ウィンピー:Hey,Hey。僕が時空を超えてやってきたことを忘れたのかい?

小笠原昭治:もしかして、100年後へ行くのかい?

ウィンピー:Yeah!キミの人生は完結しているだろうから、どんな一生を送る人物として今を生きているか、見てきてやるよ。

      Bye!

                 ≪完≫


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