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美術部を救いたい⑦

うちの高校は文化祭が7月だ

だから入学してから直ぐにバンド結成に奔走

とりあえず家からアコギを持って来て

バンドキッズが集まるよう

放課後は教室で半ばヤケクソで歌った

その甲斐もあって

1年11組の男女2人がある日声を掛けてきた

男がギター、女がキーボードだった

「君が7組のクボミくん?元気いーね笑
 めっちゃ大人しそうな見た目しとーのに
 歌になると変わるっちゃね笑
 荒削りやけどハイトーンすごいね
 ギターはまあ、これからかな笑」

と、キザな感じで色白メガネ男が絡んできた

お父さんがセミプロで活動してるギタリストで

昔はスタジオミュージシャンだった筋金入り

おぼっちゃまな感じが鼻につくけど

べらぼうにギターが上手かった

そしてゲイリームーアのファンだった

何一つ好みが合わなかった

だけど直感で

「コイツ福岡の高1で1番ギターうめえわ」

と、悟ったから

「僕オアシスとグリーンディしか聴かんけん
 洋楽あんま知らんっちゃんね
 一緒にバンドやってく中で教えてくれん?
 英語の歌もいずれやりたいし(嘘)
 ギターもっと頑張るけん(嘘)
 うちの学校で軽音楽部作ろうや!」

と、媚びまくったら

「うーん、、
 くぼちゃんは見た目も声も可愛いけん
 洋楽似合わんっちゃないかなあ
 ふわっとしたポップスが良くない?
 所々ピッチ(音程)下がる癖治してさー
 そういえば
 [うたいびとはね]に似とうよねー」

と、横からキーボードの女がチャチャ入れる

目がクリクリっとして背が低い痩せ型で

ヤリマン感を出しつつもお嬢様なんだろう

高校デビュー感が否めない

そう考えると

中途半端な進学校のバンドなんて

全員高校デビュー組だ

いけすかない女だけど割と的確だから

なんやかんや説き伏せられてしまう

その後、ゴリゴリにUKロックが好きな

ベーシストが加わった

「おめえが噂のクボミかあ
 いきなり文化祭でバンド?
 良い度胸してんじゃん
 なかなかクセのある高い声してんじゃん
 俺はお前の声買ってるぜ
 まともなドラム探してこれんなら
 力貸してやってもいーけどよお」

と、中二病全開のヒョロガリだった

そんな福岡の中二病は[じゃん]をよく使う

[じゃん]を使えば東京都民だと思ってるし

自分という物語の主人公は

いずれは全国区になることを見据え

標準語じゃないといけないからだ

リズム隊の良し悪しは分からなかったけど

確かに調子に乗れるくらいには

こいつのベースは上手かった

めっちゃ腰パンしてて眉毛ほぼないけど

多分ヤンキー高校の奴らが乗ってくる駅では

急いでズボン👖上げて伏し目がちになる奴だ

・ボーカルギター
・リードギター
・ベース
・キーボード

なんだかんだでメンバーが揃い

あとはドラムを引っ張ってくるだけだ

だけど

1週間くらい全クラスに声かけてまわって

ドラム叩ける奴を探したけど見つからなかった

まずい

このままじゃバンドを組めない

在学中にライブハウスに通いまくって

実力をどんどん高めていきながら

[偏差値なんて要らねーぜ]

と、高校中退の肩書きを作りたい

バンドは学歴が低ければ低いほど

行動に説得力があるはずだし

中退したらプロになれんじゃねーかな?

と、童貞がいきなり

アナルセックスから始めようとするくらい

出口と入口を混同していたし

ちょっと🤏前のめりにつんのめってた

どの穴がマンコかもわからなかったくせに



例の如く

ドラムを募集するために

放課後隣のクラスにそーっと

フジタ(ベース)と入ったら

めっちゃ小説読んでる文芸部風の

つまり三軍の陰キャ女子2人が

仲睦まじく静かに喋っていた

そして、おそらくは難関大合格に向けて

せっせとチャート式(数学)を

解きまくってる男子が3.4人いた

僕らにとっては地獄絵図だった

彼らにとっても僕らはきっと鬼だろう

そして

美術部の女がいた

1人ポツンと、現代アート風の雑誌読んでる

スカしやがって、美術部のくせに

それにしても相変わらず個性的な髪型してる

アバンギャルディーさんが

もう少し🤏目を隠して

もう少し髪を明るくして

全く踊れなかったとしたら

美術部の女だ

三軍の陰キャの番長とも言える

苗字、何なんだろ

と思うや否や

サッと雑誌で顔を隠された

ただでさえ髪で顔隠してるのに

紺のニーソックスにミニスカかよ

調子乗んなよ美術部のくせに

あーもう💢

めっちゃパンツ見たい


.
.
.


フジタが不意に

「場違いだわ
 帰ろーぜ、くぼみ」

と肩を叩いた

下校中に

「お前なんでアイツの顔ばっか見てんの?
 マジウケるんだけど笑」

と、フジタはしきりにイジってくる

その不自然な標準語が鼻につく

「いやだって、、気になるっちゃんね」

「はあ?くぼみアイツのこと好きなん?
 てかお前ブス専なん?
 見た目に反してファンキーすぎだわ笑」

「いちいちうるせーな
 あの子別にブスじゃないやろ
 よく見たら目がシュッとして
 鼻ちょっと高くて美人やろ
 あと、軽々しくブスとか言うな
 そういうのロックじゃないやん」

「おー怖笑
 めっちゃムキになるやん
 女好きでムッツリのくせに笑
 まさかクボミが美術部にいくとはね〜」

「いや別にいかねーわ
 なんで告る前提なんよ」

「だってお前
 童貞捨てたいからって
 クラスの女に
 片っ端から告ってたんだろ?
 サイコパスだわ笑
 ところでアイツの中学ん時の
 あだ名知ってんの?笑」

「知らんちゃそんなん
 てかフジタお前同じ中学なん?」

「あー同じ三中出身だぜ
 あだ名はなんと、、野口さん笑」

「え?あの、ちびまる子ちゃんの?」

「そう、ちびまる子ちゃんの野口さん笑
 今より髪もっさりして
 スカートめっちゃ長くてよお笑
 全然喋らんから怖かったわ笑
 けど
 野口さんも変わったよなあ
 高校デビューってやつかな?笑
 あははははは🤣」

「おい、、声でけえぞフジタ
 そげん笑わんでもよかろうもん
 勉強で余裕なかったっちゃない?
 お前だって高校デビューやろうが
 喧嘩したことないくせに」

「おー怖!
 やっぱ田舎のヤンキー中学上がりで
 トップ校目指してた秀才は違うわ
 はいはい
 クボミくんは美術部の美人に恋する
 一途なバンドマンでした、と」

「そう思うなら思っときゃいいやん
 やっぱお前とは音楽以外で
 全然話合わんばい」

「別にいいんじゃね?
 音楽だけで繋がるダチもカッコ良くね?
 それはそうと
 お前マジでドラム早く見つけろよ
 もう、楽器屋とかで
 メン募の掲示板にメアド載せとけよ」

「わかっとるってうるせーな
 別にサボってねーし
 今日みたいに毎日声かけとーやんか」

「いや声かけてんのほぼ俺な!
 お前話し声小せえしボソボソだし
 何言ってるか分からねーし
 よくそんなんでボーカル志望するわ
 てかお前そう言えばそれJフォン?
 なんでauじゃねーの?
 周りauなんだから合わせろよ」

「あ、そうJフォン
 うちauダメなんよなー」

「は?なんで?」

「だってauやったら
 メール送ったら次の日届く感じなんよ」

「あははははは🤣
 郵便じゃねーか!
 どんだけ田舎なんだよ笑
 てかなんでそんな遠くから
 わざわざうちの高校来たわけ?笑」

「は?そんなん
 市内デビューしたいからに
 決まっとろーもん」

「なんだよそれ
 高校デビューより深刻じゃね?笑」




結局ドラマーは見つからなかった

だから僕らは強硬策を練った


そして僕は自宅で

中学の時

野口さん扱いされていた美術部の女に

嫌われてないか気になりながらも

水色のJフォンを

肌色のJフォンに持ち換えて

つまり宙に向かって

勢いよくJスカイした

途中

微かにドアが開いて

大学1年生の姉がこっちを見てた気がする

そう言えば姉は

大学入学と同時に

パンツが全部レースになっていた

みんなそれぞれのデビューに向けて

あくせくしていたんだろう

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