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美術部を救いたい⑥

本帰国して立ち寄った実家

その晩、母が寝室の隅で煙草を吸いながら

どこかの美術館特集の番組を見ていた

クラシックな印象派の絵が映し出される



母: あぁ、、やっぱり絵画がよかねえ
   あぁ、、、しもうたなあ
   やっぱり音楽より絵画やと思わん?

僕: は?なにがよ

母: だってしっかり、きっちり
   目で見て分かる形で残るやん

僕: うん、まあ

母: ったく、、
  あぁ、、絵にしときゃよかったぁ〜

僕: 三味線もなんか意味があったやろ
   なんか残るやろ

母: なんもないやろ笑
   ただ馬鹿んごと金と時間ば使うて
   弾き倒しただけやん

僕: 50年続けたんやけん
   まあ、、凄いっちゃない?

母: 絵で全部出し切れる人、凄かぁ〜
   やっぱり、画家って
   カッコ良か〜
   三味線やなくて、、
   絵にしときゃ良かったぁ〜

僕: なんか途中やってたやん
   本格的に習ってたやん、水彩画
   中学ん時、お母さんの絵の具使ってたら
   美術の先生にびっくりされたとよ
   「え?これキミが使いよるの?😳」
   って
   美術、ずっと3やったけど
   自分では要領良いと思ったけど
   下手やったんかな
   あの時くらいから一切絵描いてないわ

母: 絵より図工が好きやったやろ
   幼稚園のお絵描きの時間あんた、
   全員ニコちゃんマークの絵描いて
   人間の顔めちゃくちゃ適当やったやん

僕: ( ◠‿◠ ) こういうの書いたら
   ゆき先生が喜ぶと思って
   人間の顔全部そうしたんよ
   その方が作業捗るし
   ブロック遊びの時間に充てられるやん
   僕が真剣に書いたって
   不細工な顔になるだけやけん
   やったらニコちゃんマークでいいやんって

母: うん、絵は厳しいなーって思った
   頭良くなるように
   折り紙ばっか折らしたけん
   変な癖ついたっちゃろっか笑

僕: 4才の時やろ?
  刑務所の作業みたいに
  毎日毎日小さい折り紙で
  誰とも喋らずに
  鶴とか狐とか色んなもん折って

母: ゆき先生がね
   「毎日くぼみくんが
    私に折り紙教えてくれるんです!
    しかも毎日違う作品なんですよ!
    天才かもしれません!」
   とか言って褒めちぎりよったわ

僕: ねえ、なんで毎回ミニミニ情報を
   後から後から教えてくるん?

母: あんた、天才やと勘違いしたら
   路頭に迷うやろうもん
   好きなことは好きなことのままでいいんよ

僕: まあ天才やなかったしね
   しかも折り紙あんなに上手かったのに
   もうほとんど忘れとるし
   頭良くなるどころか
   数学でさえ、結局3C取らんかったしね

母: まあ、そんなもんたい

僕: ねえ、なんで絵画教室辞めたん?
   3年くらいは続いてたのに

母: あー
  絵画習っとうだけで調子乗って
  お茶やらなんやらしにきただけの
  馬鹿女がうるさいんよ、田舎は

僕: まあ、絵は1人でやることよね
   絵画で友達作りとか意味わからんわ
   ほんなら1人で先生に習えばいいやん?
   どんな先生やったん?

母: もういいっちゃ、絵なんかどうでも

僕: ふうん
   てかいつまで煙草吸いよるんよ

母: あー、煙たかったろう、消す消す

僕: いや、そうやなくて笑
   何歳まで吸うつもりなんよ

母: 吸えんくなるまでに決まっとろーもん

僕: 寝る

母: あんた音楽しようと?歌は?
   何もやってなさそうな声しとるけど

僕: まあ、そうよ
   何もやってない

母: 歌辞めて、海外に出稼ぎ行って
   次は博打ね?楽しそうでよかたい

僕: 博打やない、投資

母: そう思っとんのは本人だけたい

僕: まあどうでもいいわ、呼び方なんか
   普通に生活しとるだけよ
   投資は趣味にはならん
   それも生活の一部や

母: 普通に生きる、
   その普通が大変なんやから
   上出来たい
   普通が1番難しい

僕: フツーに凄いやん
   フツーに美味いやん
   フツーって若者言葉
   お母さん最近よく使いよるね

母: お母さんは、普通がフツーに好きなんよ

僕: ふうん
   お母さん、美術部入らんかったん?
   なんでなん?

母: 入るわけないやろ
   あんなカビ臭い美術室で描いて
   何が楽しいんよ

僕: なんでフルートやってたん?
   学生の頃、吹奏楽部で

母: だってお母さんが1番可愛かったもん

僕: は?

母: フルートは可愛い子やないと
   吹いたらいかんもんなんよ
   ブスが吹いたらイジメられるけん

僕: めちゃくちゃやん

母: めちゃくちゃやない
   女は単純ってことたい

僕: ふうん
   おやすみ

母: もう1本吸っていい?

僕: 勝手にしたらよかやん



母は煙草を吸いながら

三味線の竿をクロスで丁寧に拭きはじめた

L'Arc〜en〜CielのKenを思い出した

この人の鳴らす音を

胎内にいる時から聴いていたのに

三味線は習わず

何で中2の夏

プレステ本体とソフトを全部売り

ゲーム🎮を引退して

アコースティックギターを買ったんだろう

好きなことは好きなままでいいはずだったのに

何故こうも因果を求めるんだろう

美術部をクサす吹奏楽部の女は

軽音楽部をつくろうとする子を産んで

子どもはやがて美術部の女に発情する

なかなかにキツい字面だ

キツい?



まあうん

かなり

レースまで食い込んでいたデルタ地帯

何であの時僕に

( ◠‿◠ )

こんな顔したんだろう

美術部のくせに

単純な表情しやがって

右手が

水色のJフォンを触るか

肌色のチンコを触るか

決めきれずにいた

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