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(ダメだもう遅刻する)
高架下の駐輪場から猛ダッシュで
駅に駆け込んでくのも馬鹿馬鹿しくて
上司に電話して思い切って半休を取った

(ゆっくり普通列車にでも乗るかあ)
駐輪場脇の自販機でオロナミンCを買い
ちょっとコート🧥にこぼしながら
とぽとぽ歩いて駅に向かう
4番線の階段がやけに新鮮だ

(やっぱり、オロナミン、ツェーだよな)
(何でドイツ語なんか履修したんだろ)

駅のホームのベンチに座る
そういえばこのベンチに座るのは初めてだ
ベンチの色は、褪せた水色だと知る
普段は駆け込み乗車ばかりしているから
配色なんかに気を配ってる余裕なんかない

そばのエレベーターが開いて
小学校高学年の女の子と
60代くらいの女性が現れた
(ああ、何かしら障害のある子かな)

少女は右足を少し引きずって
その補助員さんらしき女性と手を繋ぎ
寄り添うように向かいのベンチに座った

補助員さんは少し🤏腰が曲がっていて
ブルージーンズに毛玉だらけの
薄い水色のセーターを着ていた
ベンチの色と完全に同化している

少女は薄紫色のモコモコっとしたフリースに
薄いエメラルドグリーンのスキニーパンツ
(なんか今日は淡い色ばかりだな)

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僕達は目が合った
お互いに無表情で、目を眺めている
補助員さんは熱心に業務メールを打っている

(はっきりめの二重で目尻が下がっているな)
同時に同じことを思ったかもしれない

色白で痩せていて
後ろのポスターが透けそうだった
つまり、強く強く意識してないと
うっかり忘れてしまいそうな顔に思えた

その5秒後に
少女はキョンシーのように
両手をすうっと上げた

(ああ、自力では厳しいんだな)
補助員さんの前で補助するのも変だけど
僕は立ち上がって少女の前に立った

体感で1秒もなかったかもしれない
少女は僕の手をとり、すうっと立った
その際に重みが感じれなかった
どんなマジックを使ったんだろう

(とりあえず会釈でもした方がいいのかな)
少女は立ち上がれたことだし
僕はその役目を終えたことだし
すっと手を離そうとしたら
少女は力いっぱい握り返し
両手の指を全て絡ませ合って
濃厚な恋人繋ぎとなった
そして少女は
僕のお腹に顔を預けて見上げる

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尚、僕らは無表情だ

(え?絵的にまずくない?)
と思った瞬間

「あらあら笑
 さりちゃんどうしたの?笑
 お兄さんに甘えちゃって、、
 ごめんなさいね〜」

と補助員さんが加わる

(大丈夫ですよ、も変だよな)
「いえいえ、お気になさらず」

と、考えこんで更に変な返答になる
さりちゃんは目を閉じて
引き続き濃厚恋人繋ぎを維持する

「、、ねえ、、ドキドキしてるの?笑」

と、さりちゃんが僕に顔を預けたまま
付き合いだしたばかりの
あの時の彼女みたいなことを口にする
風が吹いたら消えるような、小さな声で

数人の会社員からの視線を感じた
だけど
びっくりしたリアクションで
少女側の人間でないことをアピールするほど
僕の心臓はモブじゃない

「、、ちょっとドキドキしたよ
 さりちゃん、ポニーテール、かわいいね」

僕が向井理だったら
どこをどう切り取っても絵になったのになあ

「、、ふふふ」

「今日はどこいくの?」

「さぎょう所に見学に行くんだよ、来る?」

「今日は忙しいから、また会えた時に行くよ」

「ふうん、そっかあ」

痛がらせてはいけないのは分かってるけど
少し力を入れて両手を握った
それでも僕らは無表情で
ただただ、ジッと眺め合った

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5番線のアナウンスが流れる

「さりちゃん電車来るよ!
 すいませんねえ、甘えちゃって笑」

「いえいえ、お気をつけて」

と、不審者の僕が注意喚起する
補助員さんに急かされて
すうっと絡み合った指がほどける

僕の行き先とは逆方向に向かう普通列車に
また少女は右足を少し引きずって向かう
ムーンスターのマジックテープの
可愛らしい真っ白なシューズも
右足だけかなりすり減っていた

(彼女は将来どんな作業をするのだろう)
そんなヤボな疑問は隅にやって
僕は口一文字で2人を見送った

少女が電車に乗り込む時に振り返って
何かぼそっと言った
その距離で聞こえるわけがないのに

(うん、大丈夫だよ)
と、僕は頷いた

少女は、ふふふ🙂と、ちょっと笑った
僕は、へへへ😃と、馬鹿っぽく笑った

僕は笑うとIQが半分になるくらい
馬鹿っぽくなってしまうので
普段は結構これでも気を引き締めている

笑った直後

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また元の顔に戻った

ジッ

自分のいたベンチに戻ったら
SDGsのせいで
空き瓶回収箱が見つからず
苛立っているオロナミンツェーが
めっちゃ睨んでいた



#小児麻痺の少女

というタグ🏷は破棄した
僕は今日、さりちゃんに出会った
さりちゃんは透明な少女で素敵で
ちなみに
さりちゃんは、小児麻痺だった

小児麻痺の少女と出会ってない
さりちゃんと出会ったんだ

手を差し伸べたのは僕じゃない
さりちゃんからだった

補助員さんの腰が少し曲がっているのは
毎日子供たちの手を握り起こしているからだ

よく見たら直ぐにわかることだ

2枚のコンタクトレンズが濡れて曇って
4番線の電光掲示板の文字が潰れた

別に文字が分からなくてもいい
今日は、来た列車🚃に乗るだけだ

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