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冷たい雨の後、苗木が育つ〜朗読劇「ワーニャ伯父さん×母がいた書斎」感想〜

 前回、3月に#君もし を感激させていただきましたS H produceさんの6月朗読劇公演

「ワーニャ伯父さん×母がいた書斎」

観劇させていただきました!
(6/22teamB回)

阿佐ヶ谷アルシェに帰りてえなーっ!と叫んで終わった3月から見事伏線回収できました。
やってやりましたよ!
帰ってきましたよ!!

今回の朗読劇も二本立てであり、前回は両作とも脚演を担当されている林 将平 氏による作品でしたが今回は1作品目がチェーホフによる原作を脚演し、二作品目が今回の公演にあたって書き下ろされた新作というスタイル。
古典劇は私今回初めてなんですよね。ドキドキとしてたら林さん自身がラジオで解説してくださってました。流石ァ!

ほんなわけでほんにほんにとアルシェに行きました。前作もでしたが、朗読劇の舞台がとても素敵。光といい音といいめちゃくちゃいいんですよね。アルシェの通路の色味からの劇場に入った瞬間の境目もとても好きなんですよねー。
私普段劇場はいると割と早めに席に座って後ろの機材席だったり観劇友達いるかなーってキョロキョロしてるキッズなんですけど今回は始まるまで劇場と通路を三往復ぐらいしてた気がします。

そして林さんによる前説がおわりいざ観劇。

一作目。「ワーニャ伯父さん」


〜あらすじ〜
ワーニャは、亡くなった妹の夫であるセレブリャコフ教授が羨ましかった。
その妻のエレーナにも惚れていた。
彼は一人苦悩する、若い頃を無駄に過ごしたことを。
ある日、セレブリャコーフはワーニャが大切に管理してきた領地を売ろうと提案し、ワーニャはそれに激怒する。尊敬していた者に裏切られ、今までの人生を嘆く彼を姪のソーニャは優しく見守りいつかくる「一息つけるその時」まで生きていくことを諭す…

〜〜〜

初めて聞きました古典劇名作。
ワーニャ伯父さん。
名作と言われるだけあるといいますか……感涙!とかではないこの作品だからこその余韻というのをすごく感じましたね。
全体的にグレーな色彩といいますか、ロシアの田舎の、ある領地が舞台なんですけどもまあ雨も降るしで重みを持った湿度が体にまとわりついてくるような……。
すっきりとか痛快ではない会話劇がつづいていくんですがこの原作者チェーホフさんて家庭に何か恨みでもあるんですか?て調べてはその経歴とのギャップに驚くことを何回も繰り返すぐらい家族だからこそ余計に嫌な角度に刺さるセリフ選びがすごいんですよね。
まずワーニャ……伯父さん、てタイトルが来るぐらいですしこの作品、これまで生きてきたワーニャとこれから生きていくソーニャのダブル主人公ものですがタイトルにもある通り中心人物であるワーニャ。
自分が憧れていた男であるセレブリャコーフに自分の人生を投影し、それを励みとしてただひたすら仕事に打ち込んできたわけですよね。妹亡き後も、妹に似た、自分にとっては可愛い姪であるソーニャとなにより美しい後妻であるエレーナを迎え入れてるセレブリャコーフをみていいなぁ、て心から思って、思い続けて。

そんなセレブリャコーフってどんな高尚な人物かと思ったらこれまでの経歴はさておき現在は前妻の家族に悪態をつく、田舎dis、エレーナの若さと美しさに対するコンプレックス、自分の体調のことばかり目が行き家族の悩みには寄り添わない……

(言葉にならない苛立ち)

でも人の推しのことを悪く言いたくないですし、ワーニャにとってはこのセレブリャコーフという人物の人生がどれだけ輝いて見えてたんだろうと思うとまさかの今1番のセレブリャコーフアンチがワーニャというなんてこったい。

そりゃ全身全霊自己投影してた男がそんなふうに振る舞ってたら幻滅しちゃうのか???と考えましたが多分ワーニャ的には幻滅というよりもセレブリャコーフのため、ひいては自分のためと頑張ってきたこれまでが全て否定されたような感じなんですかね。
しかも愛しのエレーナも幸せそうじゃ無い。

ここの人間関係の機微がめちゃくちゃ上手くないですか???

セレブリャコーフに対して幻滅したことによって自分自身がこれまで築いてきたものも全部否定してしまうんですけど、それと同時に幸せそうじゃないエレーナをみてもしかして望みがあるんじゃないか……って救いといいますかまるで助けてくださいと言わんばかりの告白するのがずるい。
決して無償の愛ではない……ここまで尽くしたんだから報われなきゃおかしいだろ。っていう焦りだとか渇望も見えたりして。

この作品の特徴としては、そんな見返りを求める関係性ばかりでてきてしまうなー、と感じました。
報いをください!ってそんな気持ちを相手にも隠さず伝えてしまうけどそもそもがみんな相手に対して寛容であるかっていうとそうでもないし。
ワーニャの母であるマリヤも娘婿の過去の功績と、あと都会とのつながりを自分に与えてくれることで優越感に似たものを見出していて、愚直に働いてきた息子が築いたものは毛嫌いしてて。

考えれば考えるほど人間関係が堂々巡りに…‼︎

そしてそんな家族のいざこざを冷ややかにみつつも実は負けず劣らず劣情メラメラなアーストロフ医師。
アーストロフのエレーナに対する迫り方もだけどソーニャから向けられる恋心に対しての遮断の仕方もなかなかエグいんですよね。
もう少しこう……手心というものを……
そのアーストロフの対応によってソーニャがエレーナに対して抱くコンプレックスがより如実になっちゃうのも義母と娘の確執というか、この母娘の曖昧なバランスで成り立ってるとこがとてつもなく心をざらざらさせられる。
全体通してこの心のざらざらが続くのでほんっとーにしんどさはあります。チェーホフさんなに書いてんですかほんとに。

エレーナはセレブリャコーフの小言、ワーニャの泣き言にうんざりし、義娘のソーニャとの関わり方もなんだか冷たい石を抱えているような感じになっていたときにアーストロフからのアプローチを受け、揺らぎを見せる。けどここで靡かないエレーナの強さというか、結局のところアーストロフもエレーナを一人の人間として尊重しているわけではないというかじゃあ愛ってなんだ?て思ってしまう今作。なんでしょうね愛って。

このエレーナって人物すごくいいのはそんな男達の思いを足で払うようにしつつ現実を生きていく強さがあると言いますか、けして誰かに寄りかかる生き方をしてないのがすばらしい。
そりゃワーニャの告白は振られますわ

エレーナも決して善人ではないけど悪女でもない。今作どの人物もそうなんですけどね。こうして生きていくしかないんだ、て思いを飲み込んでいて、セレブリャコーフがワーニャが守ってきた土地のことを持ち出すのもまあ生きていくためではあるし。生きていくことのままならなさ〜。
と、ここまで思ったけど一番年寄りであるマリヤって都会の情報を欲したり活動家の言葉に賛同してたりとか多分あの中では一番生に対して貪欲なのも凄い。皮肉なのかなーとも思えました。

そんな大人たちの思いが雨のように降り注ぐ中、ソーニャが生きていこう。と、声をかけるのが自分の両親や愛していたアーストロフではなくワーニャというのがままならない世界で唯一、兆しにみえるラスト。一番若い子が傷つきながらも、愚直に生きてきた壮年に一息つける日が来る、ていわすのすっごい残酷な社会だなぁ……て思うんですけど現代にも通じちゃうのがまた恐ろしい。
ただ、ここでの演出が巻き戻しのような音声、ソーニャを照らす光だとか、今作を包む全体的な何かは二人をどうにかして前へと向けていくようにみたいな優しさも感じました。

あと朗読劇ですけど向き合う時、向き合わないときの意味合いとかもなんかいいな…‼︎すごく‼︎てなった。朗読劇の可能性無限大。

二作品目。「母がいた書斎」

あらすじ〜

浪人生である香苗は、予備校の講師に恋をしていた。誰にも明かせない気持ちを抱き、夢のために進学したいがそうすれば彼と離れ離れになる状況を悲しんでいた。
そんな中香苗は、勉強のために使っていた書斎で
亡くなった母の日記を見つける…。
そこには、父との出会いから自分が生まれてきたの日々…
そして亡くなる間際に感じていた事が綴られていた。

 ワーニャ伯父さんに対するアンサーなのか?どうか?て思いつつ、深く……心の深いところを包み込んでくれるような一作。ワーニャ伯父さんでうーむ、と心を引き絞られるようなきもちになってたところに温かい毛布をかけてもらえるようなほんっとうに優しくてロマンチックで、人からこんな言葉をもらえたら嬉しいよね‼︎ていう瞬間がたくさんありました。

なぜそうおもうかって、ワーニャ伯父さんて最後の最後には優しい兆しがやや見えて終わる作品なんですけど出てくる言葉の殆どが相手に対する労りのない言葉というか、私がこんなに辛いんだからあなたも辛いよね‼︎みたいな痛みを押し付け合うような、それこそ嫌な言葉が雨のように降り注ぐ作品だったんです。
 
チェーホフさん……

人間らしいといえば人間らしい。ていう、なんか人間て嫌だよねー‼︎‼︎て飲み会の時だけ肩組んでくる普段は物静かで私を無茶苦茶嫌っているバイト先の先輩みたいな立ち位置。
私人間の嫌な部分こそ本質‼︎みたいな定義、まあありはありですしワーニャ伯父さんはその代表といえますが実際目の前の人に「まあ人間なんて悪だよww」みたいなこと言われるとうるせえやい!て言いたくなるタイプなんで多分ワーニャ伯父さんだけの公演だったら一回劇場出た後で「いや、まてまてまて」ともう一回入場していたかもしれません。
この、母のいた書斎ってワーニャ伯父さんを「人間らしい作品」というなら「人間だからこそ、といえる作品」なんじゃないかなー、て感じました。

 だってこの作品、ワーニャ伯父さんとは違い、どの登場人物も相手の背中を押してあげるような言葉しか言わないんですよ。 
迷いつつも勉学に励む香苗に対しての尚人先生がかける言葉だって、予備校生かつ自分より年下の女性である香苗に対して愛が溢れたものであるし、しかもその愛の裏には実は……ていう思いが最後の方で判明するんですけどこの最初の時点では一切滲ませないのが凄くいいなと思いまして。
 尚人先生は突き放しもせず、かといって生徒である香苗を恋愛で足止めするようなことはしない。ただその背を応援してあげる姿勢がめちゃくちゃいい〜!!!
全体通した後にまた尚人先生のこと思い出してキュンキュンしちゃいますよこれ。

そして香苗の両親もね〜、最高なんです。
(これ香苗の父シングルファーザーなんですけどセレブリャコーフが若い妻と再婚し出た作品の後にこれだから合わせ技がすごい)
娘に押し付けるわけじゃない、道を探ることを促すけど決して見離さないという素晴らしい距離感。で、それで泣かせてくるのがですよ???
この距離感って路津子が新人で入ってきた一宏に対して取ってた距離感のまんまっていうのに泣かされるんですよ。
しかもその気づきがくるのが観劇後なんで終わった後の余韻がまた……イイ。
それでそんな距離感の二人を大事に思ってて、その娘である香苗だからこそ絶対大丈夫だろう‼︎ていう安心感を与えてくれる美保さん!
最高な大人というか……一番安心できる頼り頼られの関係があって。
路津子の日記も、決して泣き言ではないのはいついかなる年齢の時の香苗が読んでもいいような内容になってはいるけど、きっと読む時は悩んでいるんだろうな。て、生きていく香苗のことをずっと思い続けてる母の愛が素晴らしすぎて。
路津子自身は亡くなってしまったけれども、その日記の中に込められた路津子の愛は永続的で、かつ、香苗がどんな年齢どんな状況であっても母としていてくれるといいますか……。

強く頑張れ!とか、こうしなさい!ていう説教ではなくて、本当に今生きていて香苗の成長を見てたらこう言ってくれるんだろうなていうぐらい真実味があって、だからこそ最後に香苗とお母さんが向き合うシーンがもうぐわわわわ〜っと胸に響きました。

一番欲しい言葉をもらえた時の嬉しさと、そこから育まれる成長って唯一ですよ。

 朗読劇で2作品続けての鑑賞でしたが、どちらの作品も言葉の強さというのを感じました。

感想を残せて嬉しい。
どちらも大事にしたい作品です。


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