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湖面に浮かぶ月と空に浮かぶ月が互いに響き合うような恋でした-「刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ2024」感想

 刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ観てきました‼︎
 6月14日14:00回。
 
 ほんとに素晴らしかったです。
あらすじや各演者さんのご紹介はこちら↓

純愛異形奇譚
ここに異形と奇譚という文字が並ぶのいいですよね。
異形、て今作の主人公である白狐丸を指しているんでしょうけど、白狐丸は話で語られるのですが白鬼でも化け物でもなんでもない。アルビノの青年なんです。

ただ、時代としても白髪村という土地柄としても受け入れられない存在であり、だからこそ人から異端のもの、本質が何かわからない恐ろしいものの具現化として恨みの対象として扱われているというとても悲しい存在。

白狐丸の悲しみ、痛みを暗幕で表現するシーンがあるんですがそこの描写が、ヒロインの静が武士により暴行を受けた時の表現と対になるようで星輝さんの慟哭がとても凄かったんですよね。
(黒い幕で斬られるようにつつみ隠される白狐丸と記憶と共に哀しみを閉ざす静)

 今作はそんな白狐丸と静の月夜での儚く、美しい逢瀬を主軸に物語が進んでいくんですけどこのお話の芯となる二人の関係がとても綺麗で‼︎

 白い肌に赤い目で異形の鬼と呼ばれ迫害されてきた白狐丸は自分と真っ向から向き合う外道丸以外の人間からは逃げられるか迫害されるかのどちらかで、誰かに背中を見せたこともなければ隣に立つなんてこともなかった。
 静は過去凄惨な状況で暴行され、心が壊れないようにその記憶共々自分自身の記憶に蓋をして、自未来に生きることをやめてしまったけれどそれでも本能的に男性に触れられることにたいして激しく抵抗するようになってしまう。

そんな二人が共鳴し合う、月の鳴る音。
月の鳴る音は静が唯一紡いでいられる記憶っていうのがすごく良いですよね……!
比喩なのか、実際になってるようにも感じられる空気が板上に立ち込めていてキーン、キーンという音は確かに澄んだような雰囲気がありまして雫が落ちるようなっていうセリフがありましたけど
私この表現めっちゃ好きなんです。

静演じるあわつまいさんのもつ白い月の光のような美しさも相まってですが静が湖面に映った月であり、白狐丸は空に浮かぶ月なのかなーって思ったんですよ。
静の記憶を救うことはできないけれど、キーンキーンと互いに共鳴し合うことで安心できる。どちらも美しい月で、その響きを白狐丸はずっと刻んでいく……。

白狐丸の静を呼ぶ声がだんだん優しく、迎えるような声になるのが最高なんです‼︎

そして、その美しい月と湖がある村、白髪村。

戦乱の世であり、今一つの国の中で対立が起きている中のこの村なんですけど。
私、この白髪村の設定ていうのがすごく秀逸だと思いました。

 白髪村は過去戦乱の波に飲まれて、そこで妻子を惨殺されて鬼畜の所業とやり場のない怒りを鬼へと向ける空衛門(後の八咫烏)、武士から逃げ惑い仲間の狂気に当てられ武器を手にした政之助(後のまむし)、目の前にいる人が敵か味方か迷いつつもその迷いを受け入れるだけの余地がなく暴走してしまう字次郎(後のあぶ)……

白髪村って、どこの大国にも属していない=守られることもない、ただ捨て置かれている村では?

 もののけ姫あるじゃないですか。
あのアシタカの村やたたら場だとかが戦国時代の中どの国にも属さず隠れるようにして生きているのと同じように、白髭村って多分どこの大国にも属してないんじゃないかなぁと思ったんです。
だからこそ当時の武士からしたら無法地帯と言いますか、どれだけ虐げられてもいい存在の村となっているんじゃないかなーと思いまして。

 廓があれだけ派手なのも武家の人がそれだけ金を落としている=まあ好き放題できる場所といいますか。集まっている遊女みんなの背景もですが紫や卜部も過去は散々な目にあったんだろうとも思ったり。

白狐丸もですが、白髪村の村民達も都市部からみたら虐げられてもよい存在である。

八咫烏団が怒りを国ではなく、わからないもの。未知のもの=鬼に向けてるのもそれもう自分たちを虐げている敵が大きすぎてそれゆえ怒りの矛先がわかりやすい鬼に向けられているというのもそのせいじゃない!?て感じました。

八咫烏の抱えてる怒り、やり場のなさとかあの自分達を襲ってきた武士の武器を奪い身につけたであろう戦い方とかもすごく泥臭くて、でも踏み切れないものがある弱さとかがめちゃくちゃ良かったんですよ。

八咫烏団の強さもですが、弱さが私はとても好きです。

みんな共通して白髪村というのは地獄であるという認識を持っているゆえ、士官の話だったり都の話というのは憧れが強く出ちゃうのがさぁ。最高なんですよ。セリフ含め、どの人物達も弱さや憧れていうのがとても良い。

そこに現れる都落ちした武士、瀬戸

これこれ、これですよ。
瀬戸という男。
白髪村に現れて、全員に希望を振り撒くような言葉を述べてその実は井戸に毒を撒いているような男。

 瀬戸はみんなが憧れる都で地獄を見てきた男なんです。

あれだけ着物も派手でかつ鋭い居合術も心得てるから立場は高く、本来ならば白髭村のものと関わることなどなかったはずの男。
都で地獄を味わった男が行う所業は立場の弱い人間達の恐怖を操り、そこで自分の力を見せつけるという狡猾であり人を人と思わない所業。まさに鬼。

でもたぶん、瀬戸みたいな男は都にはいっぱいいるんでしょう。
さらにいえば瀬戸のような鬼達が現代にも通じてるからこその盲の男と天刻丸の最初とその続きに続いていくんでしょうけど。

 まさに地獄の白髪村。
ただし、今作、瀬戸とは真反対であり、今作で地獄に仏となった元坊主がいるんです。

外道丸(ゲドちゃん)

ドンパッチみたいなこの破天荒で、おつむが足りなくて、思うままに生きているこの男。

多分今作で唯一思うがままに生きるということができている人物。

外道丸は人に対して希望を与えていくんですよ。
誰に対してもまっすぐ向かっていて、おかしなことにはおかしいとはっきり言い、嫌なことはしない。そのかわり好きなもの、友はなによりも大事にする。

 外道丸の存在には白狐丸も、常葉も救われるのが良いんですよね!
あと上記で都とたくさん書いてから気づいたんですが外道丸は別に都にこだわらず行きたいとこに行くっていうのがとても好き。

 誰かを縛る瀬戸とは反対に解放をする外道丸。
外道丸の戦いスタイルもフリースタイルって感じがとても良かったですね。白狐丸は多くの手だれを相手にしてきたからこそ相手を流し、幽霊のようなしなやかさもありでそれも好き。

 ただ、思うあまりに裏目に出てしまうこともありで外道丸も決して完璧ではないなぁ、というのも今作ほんとうに"人"の書き方が上手い。

 八咫烏団の戦いにおいて生まれる迷いもですし、静に食事を差し出す時の遊女もそう。紫と卜部の企みも。瀬戸の狡猾さも。

人ゆえに苦しみ、狂い、寄り添うみたいな。

そして、人ゆえに愛し合うのが静と白狐丸。

そんな壮絶な過去を経て現在の村にある洞穴で盲の男と天刻丸が語り合い、そして世に出ていく。

盲の男は、かつて誰かに希望を与えていたがいまはその世界の残酷さを憂い、ただその残酷さのなかにあった美しい世界を守っている。

天刻丸も、きっとあの夜月の音を聞いたんじゃないかなー。
時間は違えど、盲の男の語る過去の中にある両親と一緒に。

それで、安心したようにまた世界へと飛び出していく。

素晴らしい……

本当に素晴らしい作品でした。

 



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