3月の自薦短歌

海中の洗礼堂に三月の雪が降りあなたに見せたかった


パロールが壊れし後の世界には壊れたたましひが集ふといふ


耳に咲く紅梅の赤鮮明にあなたの影はいつきのごとし


白か黒か問われないことオレンジの夕陽を浴びてカナリアが歌う


硝子の空を真っ逆さまに落ちてゆく晩年の燕、真昼の月の死


まぼろしを語ることなくうたにするムスカリの咲く内なる花野


きみが今漂うように目に見えぬ二番目のかげがあふれてゆく