【『トムとジェリー』全話解説】♯2『The Midnight Snack』は戦時下という時代を象徴しているのかもしれない。
こんにちは。
髙橋多聞です。
『『トムとジェリー』全話解説を試みる。』
今回は1941年7月19日公開の作品、
『The Midnight Snack』です。
(邦題:夜中のつまみ食い)
前回の『Puss Gets~』から実に一年と五ヵ月もの間が空いています。
この辺は推測することしかできませんが、前回の作品はあくまで一度きりの短編として作られたもので、反響を受けて続編の製作が決まったという感じでしょうか。
最初からシリーズの構想があったわけではないとすると、『Puss Gets~』の見方も若干変わってきて面白いですね。
ちなみに、IMDbによるとこの期間にMGMでは
といった作品が制作・上映されていたようです。
気になって作品を探して観てみたのですが、どちらもちょっと今では放送できなさそうなさそうな内容でした。
ただ、スタッフにはハンナ=バーベラを始めとしたおなじみの面々が名を連ねていたので、この辺がミッシングリンクになるっぽいですね。
さて本題に戻ります。
監督はハンナ=バーベラコンビ、製作はフレッド・クインビーです。
今回からついに両者のクレジットが入ります。
どういう大人の事情なのか分かりませんが、前回フィーチャーされていたルドルフ・アイジングはノンクレジットとなっています(参加はしているらしい)。
題名の「Midnight snack」は「夜食」を意味するイディオムですが、「Snack」は「軽食」的なニュアンスの言葉なので、単語の意味をそのままとらえると邦題の通り「夜中のつまみ食い」とも訳せます。
デビッドボウイの『屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群』みたいなものですね。
本作が製作された1941年は和暦だと昭和16年。
前回に引き続き、第二次世界大戦の真っただ中です。
同年12月には真珠湾攻撃が行われ、日本は太平洋戦争に突入していきます。
映画好きで有名な金正日が生まれた年でもあります。
『トムとジェリー』は北朝鮮でも『愚鈍な猫と知恵にたけたネズミ』というタイトルで放送されていたそうなので、彼も一人のトムジェリファンだったかもしれません。
また、この回から主人公二匹は『ジャスパー』と『ジンクス』ではなく『トム(作中ではトーマス)』と『ジェリー』という名前になります。
名前の由来の考察はまた別の機会に。
さあ前置きはこのくらいにして、いよいよ中身に触れていきましょう。
物語は深夜の不穏なキッチンから始まります。
扉が開いたままの冷蔵庫から灯りが漏れています。家でやったらお母さんに怒られるやつですね。
そして体長の何倍ものチーズを背負ったジェリーが登場。「ジェリー=チーズ好き」の描写の初登場です。あとこんなにデカいチーズをラップもせずに冷蔵庫に入れておくと確実にお母さんに怒られます。
その様子をアンブッシュして見ていたトムが登場。
相変わらず悪い顔だね~。
デザインは前回から若干変更が加わっていて、少しアニメ猫に寄った印象です。たくましい眉毛がまるでホアキン・フェニックスのようです。
トムは電気スタンドに擬態しつつ、巧みに姿を隠しながらジェリーの後を追います。
この文章だけ読むと、僕の頭が狂ったみたいに見えますね。
さらにトムはジェリーの特大チーズの上にお皿やカップなどを重ねていきます。
今気づきましたがこれ、前回のオチのリフレインですよね。巧いなァ。
さすがのトム、一年五ヵ月たってもあの時の恨みは忘れていません。
結局ジェリーの企みは失敗し、しらじらしく冷蔵庫にチーズを戻します。
トムは相変わらず腹の立つ顔をしています。てか冷蔵庫の中身デザート多くね?
せめてひとかけらだけ、と分相応のサイズのチーズを持って走り出したジェリーのしっぽをトムが踏みつけて阻止します。この描写も前回ありましたね。
ひとかけらのチーズすら許さないトム。そのくせして自分はジャムをひとなめして恍惚の表情。お前は江戸時代のお役人か。
味を占めたトムはジェリーを近くにあったアイロンで固定し、一人で冷蔵庫の中身を堪能します。なぜキッチンにアイロンが……。
ソーセージに生クリームをつけるという「デブ食い」を楽しむトム。
プルプルのゼリーを食べて体がプルプルするトム。非常にトムとジェリー的な演出です。
さらにトムはデザートを堪能しながら、戯れにジェリーを弄びます。
お前は古代中国の暴君か。
しかしそんなトム、チーズだけは嫌いらしく臭さのあまり投げ捨てます。そんなに臭いチーズならおそらくほかの食品にも臭いが移っていると思いますがどうなんでしょう?
そしてなんと投げ捨てたチーズがガラスと食器を粉砕。チーズには傷一つありません。
え?鉄塊かなにかですか???
そして怒鳴りながら階段を駆け下りてくるお手伝いさん。
このカット、一見前回の使いまわしかと思いきや靴下の色やお手伝いさんの動きが違います。
前回
今回
ただ、構図が非常に似ているので、もしかするとレイアウトだけ流用、とかかもしれません。
手すりの支柱のアールが同じようにも見えるので一部同じセルを使っている可能性もありますが……判別不可。
さてストーリーに戻ります。
近づいてくるお手伝いさんの怒号の中、慌てふためくトム。過去にそれで一度追い出されているので相当焦っています。
悪知恵の働くトムはジェリーにすべての罪を押し付けることに。まあ確かにそいつが原因ではある。
ジェリーのせいにするというアイディアがひらめいたタイミングで「スコーン」といういい音がします。絵とハマっていて気持ちいいです。
「トーマス、冷蔵庫で遊んでいるのかい?覚悟しな!」的なことを言いながら冷蔵庫の扉を開けるお手伝いさん。
あれ……指が五本ある……。
(前回の記事参照)
しかしそこにいたのは茶色いネズミ!
十二単くらいあるスカートの裾をめくりながら「トーマス!助けておくれ!」と叫ぶお手伝いさん。
よりによって傘立ての中に瞬間移動したトムは「僕に任せろ!」みたいな顔をしています。もしこれを素でやっていたとすれば確実に病気です。
スパ王の麺みたいな色のパスタをつたって逃げるジェリーを追うトム。麺の長さがひもQくらいあります。
追いかけているうちに絡まりました。はい、記念すべき初めての人(猫)体変形描写です。
さらに追うトムはジェリーにごみ箱のフタに顔をぶつけられて「バイイイイイ~~~ン」となります。
のちの定番ギャグの片鱗がここにも見られますね。
しばしドタバタの逃走劇。やはりこれがトムとジェリーです。
トースターに逃げ込んだジェリーを容赦なく焼いたりします。ひでえことしやがる。
「尻をこすりつけて気持ちよさそうにする」も定番のギャグですよね。
今回は盛りだくさんです。
あとこのシーン、ジェリーの目が漂流教室の怪虫みたいでトラウマを呼び起こさせます。
この「壁に固定されたアイロン台」も頻出アイテムな気がします。
結局トムはアイロン台に挟まって固定され、攻守交替。ジェリーにケツをロンギヌスの槍みたいなフォークで刺されます。
どうやらジェリーはトムのケツに恨みがあるようです。
トムはその勢いで(今回も)食器に突っ込み、水の上をはねたり、おろし金でケツをすりおろされたりしながら冷蔵庫にイン。
冷蔵庫からは滴るようなストリングスの音とともに、まるでトムの涙か血液のようにいろいろな汁が流れ出てきます。今回の演出も技巧派のそれです。
そこにお手伝いさんが戻ってきます。指が四本に戻っていますがストーリーには関係ないので気にしないことにしましょう。
どうやらトムが「仕事を終えた」と思っているようで、「トーマス、よくやったね」的なことを言っているのですが、英語では「That mouse sure did get demobilized」という言い方をしています。
慣用句的な言い方なのかは不明ですが、「Demobilized=復員する」という意味なので、何となく戦時下の言い方という感じがしますね。
そしてご褒美をあげようと冷蔵庫を開けたそこには……。
というオチです。
頭からジャムが血のように滴り落ちているので、やはり先ほどの冷蔵庫の演出は意図的なものでしょう。
ちょっと強引な見方ですがジャムの瓶が軍帽に見えなくもないです。
そうではないとしても、最初に冷蔵庫に入っていたジャムの容器とデザインが違うので、その辺なにか理由があるかもしれません。
お約束の通り追い出されるトムを横目に念願のチーズを食べるジェリーでThe End。あ、それ一口サイズだったのね。
ストーリーは以上です。いかがでしたでしょうか。
一作目に比べ戯画的な描写が増し、顔芸も抑えられ、この時点でかなりトムとジェリーらしさを感じられる一本だったと思います。
しかしよくよく注意してみると、戦時下という殺気だった時代の影響なのか、言葉の表現や演出に何となく死の匂いを感じる部分もあり、なかなか興味深い作品でした。
ということで、
『♯2『The Midnight Snack』は戦時下という時代を象徴しているのかもしれない【『トムとジェリー』全話解説】』
でした。
次回もお楽しみに!
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