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あの女(ひと)

白いシーツにくるまって、大人の女性に「これ、なんだか分かる?」と質問をされた。女性は手に私のリカちゃん人形を持っていた。リカちゃん人形は服を脱がされて、つるりとしたプラスチックの肌をあらわにしている。女性の指は人形の胸を差し、その指が人形のへそから下に移動したとき、私はなにも答えられなかった。女性は「見てみる?」と言って、自分の服を脱ごうとした。そのとき義母が「やめなよ、子ども相手に」と笑いながらたしなめた。私は覚えている。部屋の明かりがオレンジだったこと。女性の髪が短かったこと。胸が大きかったこと。なにかがおかしい、と感じたこと。一生忘れることはないと思う。

女性を性対象に見るようになったのは、その瞬間からだと思う。生まれたときからパンセクシャルだったのかもしれないし、その出来事がセクシャリティを形成してしまったのかもしれないが、はっきりとは分からない。たとえば両親にバイセクシュアルの気があって遺伝したとも疑える。本人たちに聞いたことはないけれど。いずれにしても、こうして私は意地悪な大人の”洗礼”を受けた。

私はいま編集者として、小学生から大学生くらいまでを相手に仕事をしている。よく、そのうちのどれくらいがLGBT(もしくは潜在的LGBT)なのかと考える。どんなことがあっても、彼らが自分らしく生きられることを願っている。そうして、幼いころの私にもエールを送る。

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