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孤独のサンクチュアリ

ひとりぼっちは嫌だなあと思う。でも、だれでもいいから側にいてほしいなんて思ったことはない。

ひとりぼっちになった時はよく床に横になって泣いていた。猫の冷たい鼻先を頬に感じて、やっと自分にも血が通っていることを思い出す。あの頃は、人並みに幸せになりたかった。そもそも幸せの実体なんて知りもしなかったけれど。ただ家に帰って、だれかとご飯を食べるとか、その日のことについて話すとか、「おやすみ」と言葉を交わすとか。お互いが生きていることを確認し合う作業が足りなかった。

恋人ができたら一緒に住もうと少しだけ広い部屋を借りたけど、恋人はできなかった。今日、忘れ物を取りに戻った部屋は入居時と同じように日差しを取り込んでいて、まるで、これから引っ越してくるみたいだった。

愛しい部屋。ひとりぼっちの私を、黙って泣かせてくれた部屋。夏の高い太陽と、冬のさみしい夕暮れを上映した大きな窓。やわらかなピンクの肉球が踏みしめた艶のあるフローリング。ひとりぼっちでも、悪い人にはつかまらなかった。多分、守ってくれたんだと思う。

カーテンはわざと残してきた。少しだけ床を擦るよう、丈にこだわって選んだものだ。私のひとりぼっち、さようなら。

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