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濡れた道を歩くときに思い出すのは、穴の開いた靴で雨の中を歩いて足もとをぐちゃぐちゃにした日のこと。身につけるものに構わない日々が長いこと続いていた。大切な大叔母の様子を見るために、横浜から世田谷区まで中古のブルーバードで通う毎日。車での移動だと着るものに気を配らなくなるのはよくあること。もともとがオシャレさんではないから拍車がかかる。駐車場から大叔母のいる部屋まで少し歩かなくてはならない。その日は強い雨ふりだったから短い距離でも傘をさしていてもかなりの濡れ様になる。グシャグシャという下から聞こえる音。晴れの日にはわからなかった靴の穴に初めて気づく。気持ちだけでがむしゃらに大叔母へ会いに行く。職にもつかず友人と顔を合わせることもほとんどない。先の見えない毎日を送っているそんな自分にも気づく。ちょっとだけ叫びたい気持ちになったあの日。

〝あ〟で始まる言葉:雨

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