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「日本陸軍と日中戦争への道」        森靖夫 

なぜ日米開戦につながる決定の場には、陸・海軍の意をくむ人だけになったのか。
どのように国民のことを第一に考える人が排除されてきたのか。
まず、軍部が暴走して誰も止められなくなった経緯を調べることにした。

森靖夫氏の「日本陸軍と日中戦争への道」(ミネルヴァ書房)には、1920年代から1930年代にかけて、日本政治が「政党から軍部へ」と主役が交代した経緯が詳細に分析されている。
それによると、満州事変からが問題のようだ。


近年の研究成果
・戦前の政治体制を権威主義、軍国主義と決めつけることなく陸軍の制度の実態を分析することにより、政党政治が発展した1920年代を通じて陸軍に対する政党のコントロールが間接的にではあれ徐々に定着しつつあったことあきらかにした。

それならば次の疑問は、
なぜ1920年代の遺産が継承されず、1930年代に入ると一転して戦争の道に進んでいったのか。

いままでの研究には陸軍中央の分析が不十分である。
いままでの陸軍の権力構造の分析については、皇道派と統制派といった陸軍派閥対立の研究が少なからずされてきた。しかし派閥と陸軍の統制との連関が不明確なことである。やはり派閥対立の問題も、陸軍統制システムの展開過程のなかで位置付け直し、日中戦争へのプロセスにおいて持った意味を再検討する必要がある。

本書はこの問題に対して5つの視角は設定した。

1. 陸軍の人事権が誰のもとにあるのか。

2. 陸相のリーダーシップ。
 陸相は軍政長官でもある。
 軍政とは陸軍省が主として行う軍事行政業務であり、言い換えれば法規     や慣行によって軍事組織を管理維持することである。
 よって軍政は実際に軍隊の指揮運用を行う軍令(統帥)に対して上位にあり、軍令機関である参謀本部に対して軍政機関である陸軍省が優位に置かれていなければならない。
 しかし、軍令(統帥)は天皇大権である。
 参謀本部は天皇に直隷し天皇大権たる統帥権を補佐する軍令機関であるため、形式上は陸軍省と参謀本部に優劣はないものとされた。
 また、業務分担も軍政と軍令に完全には区別できず、混成事項が存在した。 軍隊の編成であり、人事も混成事項である。
 軍政と軍令の間に対立が生じた場合、陸相のリーダーシップが必要とされた。

3. 陸軍内における統帥権の法解釈とその運用。
 統帥権の拡大解釈は軍令の軍政に対する優越を意味し、軍政長官たる陸相は陸軍を統制することが難しくなる。
 それゆえ陸相や陸軍省は、軍の統制上、統帥権独立を抑制的に解釈する必要があった。
 実際に1920年代を通じて陸軍省は統帥権独立を抑制的に解釈し、組織における軍政の優位を保ってきた。
 そして何よりも、統帥権独立の抑制的解釈は政党政治と反軍思想を生き抜くために必要なのである。
 しかし、1931年9月の満州事変以降、政党の力は急速に衰え、陸相の求心力も減退してことで、そうした法解釈と運用は変容していく。
 1931年12月に荒木貞夫中将が陸相に就任したことは軍政が優越視されなくなった。

4. 永田鉄山の動向。
 満州事変から斬殺される35年8月まで陸軍の統制回復に全力を注ぐ。

5.中国が日本における陸軍の統制をどのように観察していたか。
 日中戦争が避けられた戦争であったかを考察する手がかりにもなる。中国が日本における陸軍の統制をどのように観察していたか。
 日中戦争が避けられた戦争であったかを考察する手がかりにもなる。
 駐日公使館の外交官や軍人は、日本の地で生の情報を分析した結果、日本政府だけでなく陸軍上層部をも穏当派と捉え、軍の統制の成否を目を凝らして観察し、ときには統制回復を期して行動に出た。これは大誤算に終わる。

そしてその結果として

〇本書が新たに示した論点は以下の通り

1.陸軍は常に内閣と対峙して統帥権を振り回す「好戦的」な集団ではなく、陸軍大臣が中心となって軍隊組織を維持・管理する「軍政」優位の組織として発達したのであり、その統制システムは「軍政」を軽んじる傾向が強まった満州事変によって動揺していった。

2.満州事変の収拾と過激派青年将校を抑えることを期待されて陸相に就任した荒木貞夫が「軍政」優位を否定したことで、それまで組織を統制してきた規範や慣行が軽視される風潮が強まり、作戦や情報といった統帥業務につく軍人の独断行動が活発化した。

3.満州事変後に就任した林銑十郎陸相は陸軍の統制システムを回復することを試みたのだが、統帥権を拡大解釈して林陸相に対抗した皇道派の行動が現地軍の暴走を助長させてしまい、その試みは挫折した。

さらに付け加えると、
陸軍が政党政治家から主導権を握っていった背景には、
政党政治家がテロなどにより殺されたりして排除されていく、
新聞などが軍部を持ち上げていく、
そして国民の支持を軍部が得ていく、
といった世の中の流れが軍部に力を与えていくことを見逃してはならない。

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