見出し画像

Cry

『硝子のボレット』発行記念企画。今回は、アララギ派の楠誓英さんと詠み合い、コラボレーション連作をつくりました。緊張感をもってじっくり取り組んだ掛け合いをご覧ください。


あかるさはあなたの頰に深々とにじみ小雨の速度を 来なよ   田丸まひる

雨のなか落ちくる神を受けようと両手をさし出す君は哀しい    楠誓英

                            *両手=もろて

感傷の残滓とか言う汗ばんだあらゆる皮膚にくちづけながら    まひる

くちづけの後は飛びたつ二羽になり傷持てるまま海堺に消ゆ    誓英

                           *海堺=うなさか

しゃらしゃらと水に流して弔ったさびしさ錆びてしまう片陰    まひる

錆びついた線路の上に吾の過去横たわり月が照らしておりぬ    誓英

いつかまただれかと月を湿らせる生殖は死ぬ前の侘び戯れ    まひる

生殖は海にわく靄の中にあって死んだ小蟹を踏みつぶしている    誓英

うれしさをくべてよ夜の脈動もあなたも知らず眠る体に    まひる

鳥かごの向こうに降りたる淡雪を胸内の夜にうつしゆく君    誓英


楠誓英(くすのき・せいえい);

アララギ派所属。2013年第一回現代短歌社賞。歌集『青昏抄』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?