Beasts/Tower of Empty Mirrors(Cado Ezechiar)

やぁ、こんにちわ。
ベランダの王の家令です。Age of Sigmarも独自キャラの話を読みたいなと思っていたのですが、先日のTwitterスペースで話題に出たソウルブライトの傑物、ケイドー・エゼカイアの話に手をつけました。話がつながっているので、まとめて2冊紹介です。

書名:Beasts
著者:John French
長さ:短編/31ページ相当
分類:Warhammer Age of Sigmar
時代:不明
主要題材:ケイドー・エゼカイアCado Ezechiar
副次題材:主人公が人外モノ 妖術師「燃える手」The Burning Hand
関連書籍:続編がTower of Empty Mirrors


 ちょいと作品内容に入る前に、ケイドー・エゼカイアさんを紹介します。Warhammer Age of Sigmarという神話と中世と近世が溶け込むように存在する幻想世界で争う勢力の一角「デス(死)」の一派であるソウルブライトの一員である彼は、他の貴族のように思うままに血を吸い呵責なく力に耽溺する同胞とは少し異なる道を選んだ人物です。
 かつて古い古い昔は定命の人間の王として君臨していたのですが、ある女妖術師「燃える手」の詐術にかかり、王国とその民、そして家族の全てを失いました。以来、復讐と彼らの贖罪のため、悠久の時をかけても目的を果たすという固い意志で吸血鬼となり果てながら彼女を追っています。
 彼の指輪に結びつけられて、周囲には生前の臣下達の魂が侍っており、様々な恩恵を与えてくれます。背中にも生前よりふるうエゼカイア家の大剣があり、かつて持ち得ていたものの残滓と共に彼は復讐の旅路を歩み続けています。

 さて、そんな彼の物語の第一作Beastsですが、話の構成としては、比較的シンプルです。が、彼という存在の紹介としては非常に良い造りになっています。
 まず、彼は最初、完全な暗闇の中で目覚めます。なぜそうなったかの記憶がなく、周囲の感触から岩場にいるらしいと気付きますが、状況不明で動くのは愚と倒れたまま考えます。まずは記憶を手繰ります。3週間前にグリマーハート市内Glimmerheartに潜んでいた変身種族達の命を奪い、彼らが市を見下ろす山脈から流れる聖なる川の司祭だったという手がかりからその上流を目指そうしていたはずだ、と思い出します。
 そこまで辿ったところで、手のあたりに這いまわる何かを感じ、とびかかってくる気配があったので捻り潰します。それは子供の頭ほどもある腹をもった蜘蛛で、中から発光性の体液をあふれさせて死にました。とりあえずこれをたいまつ替わりにと、ガラス瓶に詰め周囲をその光で探ります。
 一面、不気味なキノコ類に覆われた場所で、細く狭く、そして上にしか進める空間がありませんでした。かれはそれを昇ってゆきます。場所の理解が進まないので、指輪からソリアSolia(彼の臣民なのは間違いないが、ちょっと立ち位置不明)を呼び出し尋ねますが、彼女もわからないとのこと。ただ、なにか呼吸をする存在が潜んでいると警告します。そして彼女との交信が途絶えました。その警告を旨に、あたりを探ると、床の一角に一切の光を吸ってなにも返さない完全な闇のような穴を見つけます。闇の中の闇。無限に落ち続けるであろうことを思わせる穴でした。そして、考え込む彼の背後に人の太ももほどもありそうな指をした巨大な人型の獣が現れ、不意を打って襲い掛かってきました。殴り飛ばされた衝撃でケイドーの意識が揺らぎ、少し前の過去を思い出します。
 川の上流を目指して市を出る前に、分厚い灰色の外套をまとった男に声をかけられたのです。ビラザンByrazanと名乗ったその人物は、問題を抱えておりそのために彼を雇いたいと、言い出します。そして、ケイドーの正体を知っている素振りも見せます。(彼は極力人間のフリをして旅しています)だが、そういう手合いには関わらないケイドーは、拒絶しました。そこで視界が暗転し記憶が失せたのを思い出します。
 過去から意識が戻ってきたケイドーは生き延びるため、逃げの一手を打ちます。迷宮のように入り組んだトンネルをゆきながら、襲い掛かってくる蜘蛛の群れも斬り殺し続けると、その体液が放つ光で、うっすらと構造の様子が見えてきました。鍾乳石やキノコにほとんど飲み込まれてはいるけれど、明らかに人工の壁がそこにあったのです。改めて指輪を介してソリアにここはどこだと思うと尋ねると、「何かの寺院か聖域か…ただ、私は長くいられません。ここには世界そのものに空いた穴があります…境界…この場所…古の魔法…」少しずつ声がかすれ消え、交信が途絶えます。穴という語を聞いて、彼は怪物に出会う前に見かけた完全なる闇の穴を思い出します。
 怪物に追いつかれた彼は、その穴の傍へと戻り、そこでの格闘の後、その怪物を穴の底へと突き落とすことに成功します。実はその格闘の過程で突き飛ばされた彼はそこに落ちかけるのですが、どういうわけか浮いて留まります。その闇を通して、その先に、影と夜に覆われた尖塔群の立つ世界が一瞬見えました。(多分、アンダーワールド:シャドウスパイア)おそらくそこから来たのであろう怪物は、その穴の上で浮くことは無く、飲み込まれて消えていったのです。
 外に出ると、そこは確かに寺院のなれの果てで、そして、目の前にはビラザンがいました。種明かしをすると、ビラザンは古い伝承に残る「虚ろの王ケイドー」のことを調べ、対ソウルブライト用の呪術の具※を使ってケイドーをとらえると、この地に住みついた異界からの怪物退治をさせるため廃寺院の中に放り込んだという経緯だったのです。怪物を倒すのに、まだ調べがつく別の怪物を用意して倒させる、それがビラザンの取った策だったのです。(※ソウルブライト個人にちなんだ品や土や血をうまく合わせて用いると、そのソウルブライトは持ち主を攻撃できなくなったり、一時的に無力化させられたりする)これが題名Beastsが複数形になっていることの伏線回収でもあります。
 ケイドーという人物は、定命の者からすれば古代の存在でして、活動している平将門みたいな、知っている人からすれば有名なレベルの怨霊じみた存在となっているのです。ケイドーの一人称で進むので、この辺りのギャップがビラザンとの最後の会話でわかるつくりになっていまして、ラブクラフトの短編「アウトサイダー」のような味わいがあります。
 まぁ、ケイドーにしてみるとビラザンを殺してやりたいところなのですが、先ほどの呪具がまだあり手が出せません。また、ビラザンは情報をくれます。ケイドーが虚ろの王であり、「燃える手」というティーンチの手の者を追っていることは伝承にあるので、その情報を報酬として持ってきたのです。
「グリマーハート市がここから見下ろせるだろう。一番西の城壁を見るんだ。雪がかかっていないところだ。その上に塔がある」
「そんなものは見えないぞ」
「見えないがあるんだ。そこに王の求めるものがある」
「どうやって見る?」
「それは最初の問題だな」
「見えたとしてどうやって入る?」
「それはさらに次の問題だ」
「入ったとして、中には何がある?」
「知らん。だが想像はついている」
「何だ」
「魔法と啓示だ」

 というわけで、次の話はグリマーハート市へと移ります。
 この作品、ケイドーが悠久の時を生きてきた吸血鬼であることを、本人はあまり自覚していない(というか他に没頭していることがあるので、そこをあまり前面に出していない)一方で、ビラザンのような定命の者からは、自分たちにはなしえない追究や探求を為し続けているケイドーという存在がうらやましく見えている節が描かれていて、とても吸血鬼モノっぽさがあります。
 ただ、長生きしすぎて、グリマーハート市を見ても、「またシグマーの独善で、どうせいつかは滅ぶ街が建ったか」くらいに思っていたり、いくつの国家が滅びるのを見たかもう覚えていない、とか述懐しているので、ケイドーという人物の感覚がすでに人間のそれからは離れてしまっているのが、はっきりとわかるような書き口になっているの、とても良いと思いました。


書名:Tower of Empty Mirrors
著者:John French
長さ:短編/30ページ相当
分類:Warhammer Age of Sigmar
時代:不明
主要題材:ケイドー・エゼカイアCado Ezechiar
副次題材:主人公が人外モノ 妖術師「燃える手」The Burning Hand
関連書籍:続編がおそらくThe Hollow King



 こちらは、なんというか映画キューブと無限廻廊系SCPを足したような話でした。
 前作のBeastsで得た情報からさっそくグリマーハート市の見えざる塔を探していたのですが、冒頭ですでに乗り込んでいたりします。問題はいつ侵入に成功したのかケイドーにもよくわかっていない、というあたり。
 散発的に遭遇するホラーを排除しながら、奥を目指すと、男の妖術師に出会うことができます。なんというかかわいそうな妖術師で、策謀や騙しの神であるティーンチからの恩恵(と言って良いかがいまいち不明だが、狂ってるティーンチの考えることなので)で、ここから永遠に出られなくなっている状態。「燃える手」を師とし、そして師を超えようとしたがかなわず、この塔の中で死ねずに無限に飢え、無限に衰えながら、そこに居続けていたのです。唯一の束縛からの解放が、外から来た者によって殺される、そして殺された者は代わりに無限にそこに居続けることになる、という困った空間なのですが、「燃える手」への恨みが持つ彼は、残されたわずかな力を使って意図的にケイドーを招き入れ(いつの間に侵入できたのかわからなかったののはこれが理由)、彼女を殺せそうな力を持つケイドーに、知る限りの情報と真実を託して脱出させるのです。

 話としては単純なのですが、かつて奪った側の者と、奪われた者の会話からケイドーさんの人格描写が掘り下げられる良い一作でした。
 いくつか、半ば儀式的な手順としての会話があるのですが、その中に、妖術師の側からの問いがありまして、「虚ろの王よ、何故貴君は我々を憎むのだ?」というものがあります。これへの答えが以下の通り。
「私はお前達が家族や王国に為したことゆえに憎んでいるのではない。己が何者であるかを、何者であり続けて来たかをまざまざと見せつけてくるが故に憎んでいるのだ」
 これを聞いた妖術師は、満足の溜息をつきました。
「おお……、真実よ、無上なる味わい…感謝する。その真実への対価を聞くがよい…」
 そうして、彼は南方にアンダーワールドへと通じる秘密の道があり、「燃える手」がその道を行ったことを知ります。塔の妖術師に使えていた徒弟の大半はケイドーが殺していますが、一部は同じ道を通って逃げたらしいので、まずはそれの情報を追って、「燃える手」の行く手の詳細の参考にしようとなります。

 なお、ふと思い出した塔の妖術師との会話が締めくくりとなっていまして、これが彼の暗い道行きを思わせるのがとてもゴシックでした。
「貴君に一つ、秘密でもなんでもない真実を一つ、教えようと思う。行かれる道を最後まで歩むとして、すべての復讐を成すとして、それは可能だろう。だがその成就の時、そこに意味はないだろう。我が得られぬ救済は、等しく貴君に得られまい」
「知っている」

 こういう、冬の暗い空の下で吹き荒れる北風にさらわれてひたすら擦り切れていくボロ布のように生きるキャラは、ちょいと目が離せませんね。

 さて、思ったより時間がかかりました。遅くなりましたが、休日の昼食でも作ってこようと思います。ベランダの王には何を出したものか……

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