Execution

やぁ、こんにちわ。
ベランダの王の家令です。最近王は夏バテ気味ですね。王の腹に冷却シートを仕込む毎日です。
さて、今日はこちらを読み終えました。

書名:Execution
著者:Rachel Harrison
長さ:短編/52ページ相当
分類:Warhammer 40k
時代:不明  
主要題材:セヴェリナ・レイン政治将校Severina Raine 第11アンタル・ライフル連隊 ベイルスターズ征戦Bale Stars Crusade
副次題材:惑星ドラストDrast モーン要塞Morne 反乱鎮圧 渾沌崇拝
関連書籍:Honourbound

電書の表紙。「The Hammer & The Eagle」というオムニバス本にも収録されています。

 セヴェリナというモデルも販売されている40Kのキャラクターですが、彼女を主人公とする2017年に刊行された短編になります。(長編としては2019年刊行のHonourboundがあります)
 彼女が登場する今作の世界背景ですが、40K銀河のどこかの時代でベイルスター征戦というイベントがあります。〈見られし者〉The SIghtedと呼ばれる渾沌教団の暗躍によって生じた星域規模の大規模反乱を鎮圧するため、Lord General Militant級の指揮官Alar Serek(有名なマカリウス卿の一つだけ下の階級)が投入されており、すでに数十年が経過した長期戦役となっています。
 そんな中、惑星ドラストで交戦する第11アンタル・ライフル連隊に赴任したセヴェリナが、同惑星の反乱の中心となっているモーン要塞をおとすために、奮闘する話が、こちらになります。

 物語の要素を整理せずにずらっと並べると
1、要塞の防御力は恐ろしく、野砲火力では突破できない高性能シールドとヴァルキリー編隊を一方的に撃退する対空火力、恐怖を忘れたような狂信者が潜む要塞を囲む広大な塹壕地帯
2、1の条件ゆえ、戦線を突破しての破壊作戦を自殺的として命令拒否するルゥン大尉(優秀かつ人望のある指揮官だったが、冒頭でセヴェリナが処刑する)
3、2のやりとりから、部隊の反感を買うセヴェリナ
4、破壊作戦の内容は、「味方の欺瞞攻撃中に敵の給弾タイムを利用した塹壕地帯の速戦突破→要塞防壁の爆破・その亀裂からの侵入→12階層まで登ってそこの要塞砲を破壊」というもの。
5、以上とは別に、一緒に着任したアンドレン大尉(ストームトルーパーのダスクハウンド隊の隊長)と交わされた、数日前の戦場まで移動途中の会話
 となっています。

 基本的には、大きな犠牲を出しながら要塞砲の爆破に成功するのですが、奥へ奥へとほぼ決死の道をゆく話と対になるように、セヴェリナさんの学生時代の話が出てきます。セヴェリナさん、本質的には「皇帝のため、帝国のため」という行動規範が高純度で染みついている典型的な政治将校なのですが、部隊をうまく運営するために配属されるアンタル人の部隊の文化を理解しようと、茶を挟んで、アンタル人のアンドレン大尉に色々質問しているのですが、その対価として「君の話もしてくれよ」と言われたので、出した話題。

 彼女は、暗い恒星の光を浴びる無機質な惑星グロームの学校Scholamsで育ちました。多くの政治将校のように、戦没者の遺児として幼くして連れてこられたので、森とか自然を初めて見るのは卒業してからになるような幼少期になります。
 ただ、この星、特徴がありまして、マスチフサイズに育った鼠の慣れの果てが巣食っていて、夜中に寝ている生徒をかじりにくることがあります。グロームでは、恐怖を覚えた不信心者からかじられるという迷信があり、ある晩セヴェリナの同級生がやはりかじられます。
 彼女は少々ねじが飛んでいるので、「巣を見つけて叩けばよい」と考えます。二人の友人を連れ、大鼠の悪臭を追って、施設の地下へ地下へと潜ってゆきます。汚水が流れる地下区画を進み、たいまつを掲げながら引き返しがたい隘路を進んだ先で、彼女たちはついに鼠の本拠地を見つけます。ただ、あまりの数に殲滅することは難しかったのと、彼女と違って心がもう少し弱かった友人はパニックを起こしてしまうことから、混乱のひと時が発生します。
 この時、彼女の判断は、悩むことなく鼠を滅ぼすという目的で来たという初志を貫徹するというものでした。パニックを起こした友人とそれをケアする友人の二人を押さえつけながら、唯一の出口である入ってきた隘路のあたりへとたいまつを投げ込み、巣にため込まれたゴミに着火します。
 汚水に浸かって瞑目し皇帝への祈りを捧げながら、火をやり過ごし、大鼠たちを焼死と溺死に追い込み、片付けることに成功します。ですが、二人の友人はその騒動の中で死にます。
 そしてこの件は施設の修道教官が元より知っていて、というかおそらく仕込んでいたことでした。彼女は教官から「君は正しい決断をした」と言われます・
「だが、友人二人は死にました」
 そうやや反駁の意味を込めて指摘したセヴェリナに教官は否定しませんでした。
「君の決断は正しかった。だが、決断は常に犠牲を伴うものだ」と述べた。
 それをセヴェリナは理解して受け入れた、という過去が彼女にはありました。

 要塞戦の最中、ブルグリンと戦ったり、失った爆薬を補って何とか城壁に穴を開けたりと苦闘が続きますが、この過程が上記の学生時代の友人の死を招いた決断と対照性を持つように描かれています。
 ただ人間味がないわけでもないので、評価している人物には即時処刑に及ばなかったり(冒頭のルゥン大尉とか)、脱出途中で信頼するアンドレン大尉が胸を撃ち抜かれた時に飲み下せない感情の揺らぎを感じたりと、普通の人間の側面が垣間見えるところがあり、40Kのコミッサーらしい程ほどの情緒描写がバランス良く思えました。(戦闘者の教戒官とかだと、こうはいきません)

 この作品、精鋭兵や狙撃手、プライマリスサイカー、工兵の登場人物が出てきて、主人公と雰囲気のある会話をするので、そのあたりの掛け合い描写がいい味出してます。長編の方に多くが再登場するようなので、期待。
 
 物語の構成自体は単純ですが、彼女の人となりをつかめる人物紹介の一作として機能しています。

 そんなわけで、以下に彼女の特徴的な節回しなどを、軽く引用します。

 狂信者どもの声が聞こえる。
「人類の帝国は死ぬ。The Imperium of Man is dead.」
 だが、今日ではない。セヴェリナ・レインは胸中で反駁する。Not today.
 胸の前に吊った骨の折れた腕で拳銃を抜き放つ。
 そして、永遠にもありえない。Not ever.

 また、アンタル人の祈りもなかなかに渋くて良いです。
May He be with us as we live and die, it goes. For it is not ours to question why.
 彼の方は生ける時も死す時も我らとともにあらんことを。されど彼の方の御心のままに。なんとなれば問うは我らが分にあらざれば。
 という感じでしょうか。(これに近い聖書文句などを探して、より正確に理解したいところ)
 旗とかに書く文言の参考になれば。

 さて、ベランダの王が空の皿を叩いて私を呼んでいます。それではまた。

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