The Hollow King

やぁ、こんにちわ。
ベランダの王の家令です。ずいぶん久しぶりです。あまりの暑さに雪国のゲームを始めたらそれにどっぷりつかっていました。ただ、この2か月の間に長編一冊読んでいたので、まぁ標準ペースということで。

書名:The Hollow King
著者:John French
長さ:長編/388ページ相当
分類:Warhammer Age of Sigmar
時代:朝開きの征戦開始後
副次題材:死の領域、アンダーワールド、ルミネス・ルーンロード、オシアーク・ボーンリーパー
関連書籍:Beasts / Tower of Empty Mirrors

こんな凶悪な見た目ですが、宿敵の血以外は基本的に奪わず、人間らしさをかなり残した御仁。

 これまでの短編で、宿敵「燃える手」の行方の手がかりを得たケイドーはグリマーハート市を旅立った先の荒野の道で獣の群れに襲われている馬車の一団に出くわすところからシーンが始まります。一団の護衛などが斃れるなか、非戦闘員の少女も牙に掛かるかというところで、ケイドーが助け出します。(ちなみに彼が放浪しているのは死の領域)
 獣共を吸血鬼の気配を匂わせることで追い払いながら、ケイドーは獣共が何をかぎつけて来たのかに気づき、逃げ散る一団の構成員の中から目当ての一人を選び出します。護衛のフリをしたティーンチの信者を看破し追い詰めて捕縛します。
 言葉を弄してケイドーをあざ笑う信者に面倒を覚えた彼は、生きながらに魂を引きずり出し死の領域の深遠に引きずり込み永遠の責め苦を与える悪霊を呼ぶ鎖で脅迫し、次の獲物のいる場所を吐かせます。
「アヴェンシス市だ」
「その内市街にある塔群のどこかに赤と青で塗り分けられた扉の塔がある。そこを目指していた」
 他にはさしたる情報は吐かせることもかなわぬまま捕虜を死なせてしまったケイドーはその地を目指します。
 しかし、実は同市は領域世界が誕生した頃に世界各地で地中とも時空の狭ともつかぬ隙間にうずもれるように存在するアンダーワールドの中にある場所で、ケイドーはその中に入ることで、簡単には出られない状態になってしまいます。
 アヴェンシス市にたどりつけば、何十年も前にこの地に来たシグマー信徒の統治官が支配するその街には、出られなくなった者たちが作る社会がありました。ここで、彼はひたすら情報集めに動きますが、そう簡単には進まない事態が発生します。
①現地にとらわれた女傭兵アマウリ―の接触を受け、協力してここから脱出しようと持ち掛けられる。これに了承する。
②彼女の協力で、まちがいなくここにティーンチの信者の活動の痕跡があることを突き止める。
③時同じくしてオシアークの徴税官が市を来訪し納税を求めるもシグマー信者の統治官がこれを拒否し、数日内に軍勢が押し寄せることが確定してしまう。
④冒頭で助けた少女もここに行き着いており、彼女がケイドーをソウルブライトであると公言してしまう。
⑤捕縛され、市の支配者(一人は魔術師にして統治官、もう一人はシグマー教の女司祭)によって引見され、ケイドーの半身ともいえる九つの指輪を一つだけのぞき奪われ、協力を強制される。

 この後、ケイドーはアヴェンシス市から見て辺縁に位置する砦の巡検を命じられ、不運から彼と一緒に捕縛された鍛冶師ヴァレンティンが同行する。(厳密には人間であるヴァレンティンが巡検役で、ケイドーは戦士として期待される形)
 二人は辺縁の砦につくや光の爆発の中で停止した時間にとらわれた生死の境にいる人々を発見する。原因は、この地の地脈の力に気づきアヴェンシス市を確保しに来たルミネス・ルーンロードの軍勢が振らせた光の魔法だった。
 人をせいぜい言葉を介する獣程度に扱う傲慢さにヴァレンティンが激高すると殺されそうになるが、これをケイドーは防ぐ。ソウルブライトであると気付かれたことで、本格的な駆除に乗り出すルミネス達に対抗するため、同地に徘徊するナイトホーントを呼び出して時間を稼いだケイドーはヴァレンティンを連れて脱出する。
 その後すこし時間をあけて、冷静になったルミネスの将軍から、また、同じ死の力を感じ取ったオシアークの外交官からも個別に接触を受け、ケイドーに対して「中立の立場を守るように」と要求される。前者はともかく後者はケイドーを著名人として認識しており、ケイドーの親であるネフェラタとオシアークの間には不戦中立の約定があるからそれを守っていただきたいと乞われる形。
 それらに曖昧に応じつつ、指輪を回収しなければならないこと、また、復讐相手の手がかりを混乱の中に見失うことを受け入れられないため、独自路線を進み続けることに。
 その後、アヴェンシス市の地下にある地脈の結節点の発見や、統治官の裏切りによるルミネスへの引き渡し、光の儀式魔法で成仏しかけるがヴァレンティンが助けてくれるなどのアクシデントの果てに、かれはシグマーの女司祭が実はティーンチの信者がその姿を奪ったものであることに気づきます。
 二つの軍勢が目前に迫る中、見えざる亜空間に存在するティーンチの塔を発見したかれは、女司祭を追い詰めて斃します。彼の目的は果たされましたが、彼にはヴァレンティンへの借りがあります。
 すべての指輪を回収した彼は、そのうちの一つから生前の友である竜を屍竜の姿で呼び出し、単騎でオシアークとルミネスの軍勢に痛打を与えて進軍を鈍らせたのち、地脈の結節点に向かうとその全魔力を爆発的に開放します。その波にのまれた者は皆、生者も死者も等しく精神に痛打を受けて倒れます。(特に魔法特性の強いルミネスとオシアークの被害が大きかった)
 かくして、アヴェンシス市は救われましたが、ケイドーはソウルブライトであることが公然の事実となり、追われるようにし市を去ります。ただ、ヴァレンティンとその家族だけは、ケイドーのしてくれたことを十分に把握しており、彼を見送りました。
 ケイドーは彼らに見えるところで振り返ることは無かったのですが、大分経って夜道まで来たところ、そっと振り返るのでした。

 エピローグで、ネフェラタが側近にケイドーを連れて来いと命じるシーンが描かれて終わります。おそらくこれが続刊に続くのでしょう。

 さて、この小説ですが、読みどころはやはりケイドーの内面です。
 基本的に彼は他の血族のように、貴族的に王国を作ることに興味がありません。そもそも本当の王族であった彼にとって、真の臣民は遥かな過去に殺されてしまっており、またその残滓が9つの魂として指輪に縛り付けられています。
 血を吸う相手も、基本的には復讐相手である渾沌の系列の者のみ、という縛りを自らに課しています。作中でルミネスの儀式のせいで真の死を迎える直前まで行ったとき、ヴァレンティンが無理やり自分の血を吸わせる下りがあるのですが、この時も意識を取り戻すや血の甘美さにあらがってそれ以上の吸血をやめるという、強靭なまでの意志を示します。
 指輪の魂もまだ全員はわかっていないのですが、自分の乳兄弟にして宮廷魔術師だった親友(現在はケイドーを、もはや偽物だとしてかなり冷淡)や、父、家庭教師、騎乗の竜と、様々な人間関係の可能性が用意されています。
 また、敵方の話ですが、追っている「燃える手/Burnig Hand」の一派は、特異な精神防御をしていないと、相手の記憶から消えていくという異常な特質を備えています。(実際、この作品でもエピローグ時点で、女司祭の名前を、ケイドー以外は早速忘れ始めている)これが、今後どういう描写に使われるのか、気になるところです。

 さて、今作のコメントはこんなところでしょうか。
 この本が刊行されたのが2022年の夏なので、そろそろ続刊が出るのでは期待しています。夜食を要求する犬っこを叱りに戻りますかねぇ。


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