2020.01.11 アイ・ラブ・スモール
気づいたら10時。昨日はお酒を飲みすぎた。
朝ごはんを食べたら、ベトナムで書いた新曲のMV用に、リップシンクを撮影。昨日録った曲を流しながら実際に歌っていく。それをホストマザーがスマホでずっと撮り続けていて、終わった後に「いい曲だ」と言ってくれた。結局ライブパーティはやらずじまいだったけれど、この言葉を聞けただけでよかった。
レコーディング中、休憩するたびにミルメークみたいな味の粉コーヒーを頼んで飲んでいたからだろう、出発間際に粉の詰め合わせをもらった。ありがとう、ニンビンブラザーズホームステイ。
昨日ぶんの日記は、昨晩中につけようとしていて寝落ちしてしまったので、いまハノイに戻るバスの中で書いている。書き始めたときは湖や山に囲まれていたのに、今やもう建物とアスファルトばかりだ。しかし、やはりこの街もなぜか妙に懐かしい。これから市街を回る予定で、この続きは夜に書こうと思う。
その後、4日前に依頼していた似顔絵スタンプが完成したので、マネージャーと奥田さんは受け取りに、僕と成順と宮地くんは、宮地くんの友人がオススメしてくれたカフェに入った。
内外が曖昧な店内には小鳥がさえずり、4階のテラス席からはホアンキエム湖?が見渡せて、中華風の内装にはノスタルジックな雰囲気が漂う。エッグコーヒーという字面をよく見かけるので、ここで初めて頼んでみる。
少し待って運ばれてきたそれは、白と茶のマルタ国旗みたいな見た目だった。甘いアイスコーヒーの上にメレンゲのようなものが5:5の割合で乗っているが、いくら混ぜても分離するので、思い切って飲んでみると生卵の香りが鼻腔に広がって、変な気持ちになった。
コーヒーとのマッチングは確定だが、コップの5割を占めるメレンゲの奥からコーヒーを吸い出すことは初心者には難しく、結果的にまず生卵牛乳とろ〜り仕立てを吸い、食後にコーヒーをいただいた形になった。
僕が難儀している間に、完成したMIZスタンプを持って、マネージャーが帰ってきた。奥田さんもマネージャーも、かなりクオリティが高い。MIZスタンプは筆舌に尽くしがたいクオリティだったので、写真で確認いただきたい。
だんだんと風が強まり、肌寒くなってきたので、土産屋を物色しながら宿に戻ることにした。
なんだか新鮮だったのは、大通りに対して垂直に走る小道ごとに、サングラスしか並んでいない通り、靴しか並んでいない通り、民芸品しか売らない通り、と区別されていることだった。
「なかなか味わい深いな…」と民芸品を見ていると、僕の「なかなか味わい深いな…」という言葉に反応したベトナム人の2人組に話しかけられた。
「日本人ですか?」
「そうです。あなたは?」
「ベトナム人です。でも、来月から日本で働きます」
「それはいいですね」
「いつまでハノイに滞在しますか?」
「明日、日本に帰ります。昨日までニンビンにいました」
「ニンビンは、自然が多いところですね」
英語を聞き取れない僕にとって、日本語による海外の人との会話は、嬉しいイベントだった。思わず笑顔に。
日本のIT企業に就職が決まった彼らは、神奈川と埼玉にそれぞれ移住するという。自然は多いのかと聞かれて、まあまあ、と答えた。
さて、残すは最後の映像撮影のみ。宿に戻って、ギターを担いだ。向かう先は、初日に軽トラポリス登場によってシャッターを下ろしたオープンカフェである。
店番の彼は、僕らのことを覚えていた。撮影交渉も二つ返事で了承してくれ、すぐに撮影が始まった。ニンビンで作った新曲を、ハノイで歌う。空港からのバスを降りた時に確信した”この街に漂う郷愁”は、ニンビンの田舎街で濾過され、いまドリップされた。
正直、バイクの音がうるさくてギターもろくに聞こえない。でも、最高に気持ちのいい時間だった。店番の彼にもお礼を伝えると、写真を撮ってくれというので、MIZと彼とのスリーショットを撮った。
その後、夕食を。今まで食べたことのないメニューだったが、とても美味しかった。
夕飯を食べている途中、隣の席にいた家族の、10歳ほどの娘さんが誕生日だったようで、ケーキをプレゼントされてめちゃくちゃ喜んでいた。成順が「完全に幸せな人を久しぶりに見た」と言っていた。まさしく。
夕飯も済ませて、少しだけ酔って戻ったホテルの1階で、みんなでフットマッサージを受けた。
みんな、同じような黄色いユニフォームを着た女性たちに施術してもらっていたが、僕だけ黒いモコモコジャンパーのおばさまが担当してくれた。店長クラスの風格を漂わせていたので、おそらく店長なのではないかと思う。
店長の手腕は確かなもので、ベトナム語で他の店員とおしゃべりしながら(しかも5人がそれぞれ思い思いにしゃべる)、熟練者特有の完成されたリズム感で、この旅でたまった疲労をほぐしてくれた。
店長に「ニンビンに4日間いた」と告げると、「ソーロング」と驚かれた。
「ニンビン・イズ・スモール」
首を振りながら彼女は笑った。
しかし、僕は小さいところが好きだ。
観光地はいい。楽しめる場所が多いし、向こうも人馴れしている。でも小さいところの方が圧倒的にその国の生活を表していると思う。
今回の旅も、1日目の宿主逮捕によってニンビン行きを決め、結果的に素晴らしいホストファミリーに出会ったことや、ボート乗り場が見つからずに迷い込んだ道で日本語を話す少女に出会ったことなど、面白いと思うのは常にそういう小さくて、ローカルな出会いだった。
そして、MIZの楽曲にも、そのローカル感は反映されたのではないかと思う。
ただ、気をつけたいのは、そのローカルに踏み込むという行為が、その人の生活を乱すことでもあるということだ。
おじさんの舟に乗せてもらった上に尻を濡らしてしまった時には、おじさんは笑っていたが、僕は結構落ち込んだ。おそらくお尻を濡らしてなくても、少し落ち込んだのではないかと思う。
幸い、その後に話しかけてくれた女の子とのコミュニケーションは、僕の中では彼女たちの生活に踏み入りすぎないレベルであり、礼節を守ることができた自覚があったが、やはり旅をする上でこの点に留意せずに楽しむことはできないなと実感した。
これに関して、僕も昔はもっと無自覚で、今でも当時の旅行中の態度を思い出すとむず痒くなる。言葉にするのは難しいが、バックパッカーの旅だとか言って浮き足立って、自分でその土地を発掘しているような感覚に溺れている状態だったなあ、と。
常にその土地には先人がいる。旅人という響きのいい言葉もあるが、地元民から見ればみんな等しく観光客である。
今回、ベトナムのハノイとニンビンという土地にお邪魔して、楽曲制作もしつつ録音をしたが、この代えがたい経験はいつまでも記憶に残るだろう。そして、また違う土地で同じことを、と思うはずだ。
そのとき、今回の旅先で出会った人たちを思い出し、ニワトリの悲鳴や、アヒル、ヤギ、鈴虫の声を思い出し、道を横切った水牛や美味しかった料理を思い出す。
こんなふうに音源を作れたのも、そこにその風景や人々の姿があったからだ。制作のきっかけをくれたその土地、人々への感謝を忘れないようにしようと思う。
そして、また彼らに会えることを願っている。
以上、MIZベトナム日記でした。
MIZの1st Album「Ninh Binh Brother’s Homestay」は本日4/22発売です。
読んでいただいた方々、ありがとうございました。
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