ライターの私は、誰に向けて書いているのか

こんにちは。フリーライターのたまいこやすこです。

前回「書くのが好きだから書いているわけじゃない」というnoteを書きました。

書くのが好きだから書いている、という状態は、子どもの頃にはあった気がします。誰にも頼まれていないのに、物語を作ったり、漫画を描いたり、劇の脚本を書いたり、ラジオトークの台本を作ったり(そして友達を巻き込んでカセットテープで録音したり・汗)、日記を書いて先生に見せたり、思いついたことを綴って短歌の先生に見せたり、色々していたなあ。(そして書き散らしたものにお付き合いくださったみんな、ありがとう)

そういう「誰にも頼まれていないのに」何かをする、という行為自体は、大人になっても忘れたくない、何にも勝る原動力です。しかし、さすがに仕事でお金をいただいて書くとなると、そればかりではいかなくなってきます。

「誰かを喜ばせる」ために書く。では、誰を喜ばせようとしているか……自分で問いを立てておいて、難しい質問だなと、数日仕事をしながら悶々と考えていました。そして、編集者としての体験とライターとしての体験を混ぜ合わせて、現状の答えを整理してみました。

1 読者のため
これはもう当たり前で、編集者としてもライターとしても、読んでくれる人が喜ぶものを作りたい、書きたいと思っているわけです。編集者として仕事をしている時の方が、より「読者」を意識している気がしますが、ライターとして書いているときも当然、もや〜とした「不特定多数の人たち」を思い浮かべながら書いてはいます。しかし、その輪郭と表情が見えない読者が、何を読みたいのか、何を面白いと思うかを知るのはとってもとっても難しいことです。おそらく、データ解析とかしていけば色々わかるのかもしれないけれど、この能力が私には著しく欠けている。
編集者として本や雑誌を作っているときは、それなりに読者ターゲットの研究をし、「こういうテーマがきっと求められているだろう」と企画を出し、チームで話し合いながらページを作ったり、文章を作ったりするのですが、届く人もいれば届かない人もいる。届く人の数を増やすための課題は残ります。じゃあ、どうしたらいいか。

2 ある一人の読者のため
編集者として雑誌を作っていたときに、よくリサーチをしました。子育て雑誌なら身近にいるお母さんやターゲット層のファミリーに、困っていることや知りたいこと、雑誌を読んだ感想を聞いて回るのです。
その際、いつも驚くことがありました。「雑誌は面白くていつも読んでいるのですが、私の悩みはどこにも載っていないんです」という人がすごく多いこと。
「では、その悩みとはなんですか?」とお悩みをじっくり聞いていくと、いや、そのテーマは先月号に載っている(!)そしてそのページを見せると、「なるほどなるほど」と喜んでくれるのですが、「でも、うちの子の場合は、ちょっと違っていてね」と、その方の子育てについてのお話が続きます。それを横で聞いていた別の方も、「あ、うちの場合は……」とエピソードを語ってくれます。
そのどちらのお悩みも、まとめてしまえば同じ「月齢●才の赤ちゃんを持つお母さんの悩み」なのですが、もちろん微細な違いがある。そうしてお話を、ふむふむへぇへぇ、ははぁん、なるほど。と聞いていくうちに、その方々はとっても満足してくださることにも気がつきました。「今日はすごく楽しかったです。スッキリしました。みんな同じなんだって気がつきました。ありがとうございます」とこちら以上にお礼を言ってくださって、帰って行かれました。はて。

3 お話を聞かせてくれた人のため
そうして私は、次の企画では、そのお母さんたちの悩みに具体的に寄り添ったページを作りました。文章を書くときは、そのお会いしたお母さんの、息遣いや人生、人となり、そしてお子さんの性格や雰囲気、それらに寄り添うように、書くようにしました。また「うちの子の話じゃない」と言われるだろうと思いながら。でも不思議なことに、そういう「個人」を深掘りした記事の方が、たくさんの反響があるということがわかりました。そして、また「うちの場合は」を話してくれる人が増えることもわかりました。

こうした、経験を経て数年。雑誌の編集ライターを離れて、今、私がしていることは、出産・育児・教育から仕事・旅・病気・障害・生きること死ぬこと、といったひとつの人生の流れのようなあれこれの題材を書くことです。ご縁があった仕事を受けて、書いているのですが、どんな取材をして書くときも一つだけ気をつけていることがあります。それは、お話を聞かせてくれた人、体験を分けてくれた人が、私が書いた文章を読んでくれたとき、「この人に話してよかった」と喜んでもらえるものにしたい、ということです。
その人のいいことも悪いことも、素敵な部分もそうでない部分も書いたときに、語ってくれた人がその人自身の人生を読んで、そこからまたご自身が嬉しくなるような、そんな文章を作りたい、と思っているのです。まずは。

 思い返してみると、私は子どもの頃から、手紙を書くことがすごく好きでした。友だちとちょっと深いおしゃべりをして、相手の話を聞いて、そして家に帰って、その子の間の取り方や、打ち明けてくれた時の表情や、その背景を思い出して、感想の手紙を書く。そのことで、喜ばれ、またお話を聞かせてもらえるととても嬉しかったことを思い出します。

だから、結局、今のところの結論としては、私は、お話を聞かせてくれた人に真剣なラブレターを書くような気持ちで、書いている、と言えます。それが、他の読者の方たちにとっても、「自分のことではないけれど、どこか自分のことのように思える。そして私も語り出したい」と思えるような文章になってくれることを目指しているのです。

これが正解かどうかはわかりません。もっといい、もっと広く読んでもらえるような文章を書くための、方法論はたくさんあるでしょう。
(読みやすい文章を書くとか、長くし過ぎないとか、キャッチーな見出しを入れるとか。そのどっちもできてませんね、はい、すみません)

しかし、ひとまず自分なりの答えが出たところで、今日はおしまいにします。これを読んで、「私は違う。誰に向けて書いている」と、教えてくれる人がいたら、ぜひお話聞かせてください。

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