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小説

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2022年6月の記事一覧

ルームミラー(ショートショート)

田植えが終わって間もない田んぼ、夏樹の街を映し出す。路肩の雑草は好き勝手に伸びている。夏樹は片側一車線の県道を真っ直ぐ進む。助手席では妻が手鏡片手に化粧を直している。ルームミラー越しには双子の娘が談笑している姿が見える。何気ない光景だが、幸せが充填されていく。 夏樹の実家に行く時、娘たちは普段よりも楽しそうだ。大好きなお爺ちゃんが大好物のお寿司を用意してくれている事を知っているからだ。大好きが詰められた方向に向かっているのだから、自然と声色も表情も明るくなる。 二人が座っ

真夏より眩しい。夏の香りに思いを馳せて用。

夏。夏最高。田辺夏樹。この名前で冬が好きだ、なんて言えれば会話の掴みとしてはバッチリなのだろうけれど、夏樹が最も好きな季節は誰もが予想する通り、夏だった。しかも夏の中でも真夏が一番だった。 真夏は全てを許してくれる気がして好きだった。鼓膜が何枚も破れてしまいそうな爆音を撒き散らかしながら愛車のSUVで疾走しても、真夏なら許してくれる気がした。 冬なら17時には1日の終わりを予告するが、真夏はギリギリまで1日の終わりを太陽で隠してくれた。そのお陰で、気の知れた連中といつまで