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小説

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2022年1月の記事一覧

浦島物語の子達(創作大賞2022応募)

Who am I ? 俺は誰だ。 I am You ? 俺は君か ? 俺はオヤジか ? ◇ 冬の寒さに惑わされてはいけない。冬の晴れた日って空気が澄み切っていて絵画のようなのだ。壮大な風景画。その中に突如おもちゃの世界が広がる。定番のデートコースとなったチェーン店のファミレス。今日も彼女である佐保と他愛もない話で盛り上がる。佐保のことを彼女と言える、今、この瞬間が夢のようだ。何度も頬を抓ったが頬は痛みを増すばかりだから、どうやら現実世界ではあるみたいだ。 佐保の最近の

負けたって負けじゃない(ショートショート)

春の訪れを待ち望んでいるルリビタキのヒッヒッという鳴声が微かに聴こえてきそうな次縹色の冬空の元、吾郎の心も晴れ晴れと囀っていた。なんたって今日は幼馴染の佐山と、高校卒業以来の遊園地デートだから。 吾郎の人生、負けばかり、続いていた。初めは紙一重で負けた。運動会の徒競走。数十メートル先にピンと貼られたゴールテープ。それを頭一個分の差で破ったのは双子の弟、次郎だった。惜しくも負けたが、悔しさより清々しい気持ちで一杯だった。全力を尽くして負けたからだ。しかも負けた相手が、この世で

Too much(ショートショート)

心地良いとは真逆の頭の痛みと共に朝を迎えた。またやってしまった。お酒をどれだけ呑めるかが、男としての器の大きさと勘違いしてしまって、飲み過ぎてしまう。ちっぽけで空っぽな男だ、俺は。 しかも今、この瞬間だけは、もう二度とこんな失態は犯さないと決意しているのに、二週間もしたら、また同じことを繰り返しているのだろうな。なんなんだ、俺は。 どんなことでも、過度は禁物だってことは、あの時、深く学んだはずなのに。 心臓の右心房に突き刺さった、too much。 実体のある刃物で刺

成人式前(ショートショート)

夜明け前に山登りしている一行の姿は、数日温かい日が続いたせいで勘違いして咲いてしまった桜のようだ。まだ誰もが行動していない世界の中で行動していることに違和感を感じる。 なぜ僕らはこんな夜明け前に山を登っているんだろう。さっきまで成人式前の同窓会でかつての旧友達と酒を交わしていたはずなのに。 なぜこうなった。 そんなこと、思い出そうとすれば至って簡単に思い出せた。誰かが言い出したんだ。 「もう数時間したら朝になる。折角だから朝日を見に行こう」 当時からクラスの盛り上げ