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小説

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2021年12月の記事一覧

冬の海(ショートショート)

これでやっと終わる。眼前には冬の海。波が岩壁に幾度も砕かれている。人をひとり殺すたびに俺も、ああやって砕かれていたんだろう。殺していたときは大切な人を守ることだけを考えていたから気づかなかった。だけどもう疲れた。こんな俺をも想ってくれる彼女も母さんも妹もいるのに贅沢な奴だなんて言われるんだろうな。 でもどうしようもないんだ。 後戻りできないと気づいた頃、俺の心は執念、怨念、増悪まみれの青の炎で包まれてしまっていたんだ。 この青の炎を消すことができるのは一つだけ。光だけ。

かまくらの明かり

秋田の冬空の下、かまくらがひょこひょこと顔を出している。 この地で育った吾郎と次郎は何をするのも一緒。同じ日に産まれたもんだから顔の見分けもつかない。唯一の判別方法は服装。上着の左胸の所に吾郎のには『G』、次郎のには『J』のワッペンが縫い付けてある。お母さんが作ってくれた世界で一つだけのワッペン。冬はいつもこの服装で小学校に通っている。来年はいよいよ卒業だ。 吾郎と次郎は好きなことも似ている。かまくらの中で餅を焼いて食べるのも好きだし、そのかまくらの中でおっちゃんの話を聞