真夜中はきみの時間 第二話【創作大賞2024 応募作品】
◯天音の家(夜)
天音、ベッドに寝転びながらスマホを見ている。
スマホ『工藤謙士』の検索画面。
天音「工藤謙士、27歳。声優。大阪府出身。アニメ『真夜中ロマンティック』レン役で初メインキャラクターを演じる注目の若手声優…」
天音、体を起こす。
スマホ画面には謙士の宣材写真(前髪重め+眼鏡)
天音「(スマホを見つめながら思い出す)…」
◯回想(路上・夜)
天音と謙士、見つめ合っている。
謙士、顔を逸らして、
謙士「(照れながら)何、どしたん?」
天音「工藤さん…?」
謙士「やっぱり俺のこと知ってたんや」
天音「本名は知らないです」
謙士「本名やで?」
天音「工藤謙士さん?」
謙士「はい」
天音「えっ、芸名かと…」
謙士「(笑って)驚くとこそこなん?てかなんでバレたん?」
天音「へ?」
謙士、髪をかき上げ、両手を広げて全身を見せるようにする。
謙士「さっき店で会った時と違うくない?」
天音「はい。でも声でわかりました」
謙士、嬉しそうに笑って、
謙士「うわ、それは一番嬉しいかも…ありがとうございます」
天音「二度も助けて頂いて、本当にありがとうございました」
謙士「全然ええねんけど遅い時間やし気ぃつけてくださいね」
天音「はい」
お互い照れてしばし沈黙。
謙士「…じゃあ…」
と言いかけて、人通りのない暗い夜道を見る謙士。
頭を掻きながら、
謙士「あーのー、やっぱ危ないかなって思うんで、俺下ばっか見て歩くんで、地面しか見ないんで、家とかわからんようにするんで、あの、送らせてもらっていいですか?」
謙士、顔が赤くなるのを隠すように俯く。
天音、それを見て同じく赤面し、
天音「ありがとうございます。お願いします」
深々と頭を下げる。
× × ×
天音と謙士、並んで歩いてる。
謙士、首を折るようにして下を見て歩く。
天音「首痛くないですか?」
謙士「うん、目の前になんか来たら言ってもらえると助かります」
天音「いいですよもう、普通に歩いてください」
謙士「そうはいかんのですわ…」
天音、思わず笑う。
天音「コテコテの関西弁」
謙士「ああ、大阪出身なんです」
天音「…夜は関西弁で、昼は標準語?」
謙士「え?」
天音「変身の条件です」
謙士「(笑って)惜しいけどちゃうちゃう。なんもおもろないですけど種明かしすると、仕事とプライベート、がっつり分けてるんです」
天音、合点がいき、
天音「…ああ!」
謙士「仕事上標準語で話す必要があるんで話し方も徹底して、まああとは台本やら映像見たりするんでガチ眼鏡。派手ないかついファッションは正直ウケも気になるし」
天音「応援してくれる方からの?」
謙士「見た目と印象重要なんで。マネージャーとか仕事の関係者さんにもね」
天音「華があって素敵ですけど…じゃあプライベートは」
謙士「まあ好きな格好してるって感じですね。関西弁も自然と出てまうし」
天音「別人みたいです」
謙士「関西弁て怖いですか?」
天音「どっちかっていうと最初お会いしたときは陽の気を感じて身構えてしまったというか…」
謙士「(笑いながら)怖い?」
俯きながら覗き込むように天音の顔を見る謙士。
天音、ドキッとする。
天音「お、お仕事上変装とかもしないといけないですもんねっ?」
謙士「いやいや、俺はまだまだペーペーなんで、どの姿で歩いてたって普通にバレないですよ。むしろ裏表あるって思われて印象悪くなる可能性すらある」
天音「そんなこと…」
謙士「でもいいんです。俺はこの方が生きやすいし。仕事は仕事で証明してくしかないし」
天音「…本当の自分はどっちなんだろうって、思ったりしないですか?」
謙士「二択とは限らんかなあ」
天音、目から鱗が落ちる表情。
(回想終わり)
◯天音の家(夜)
天音、スマホを見つめて、
天音「…二択とは限らない…」
勢いよくベッドから立ち上がり、机の上のパソコンを開く天音。
真剣な表情でパソコンのキーボードを叩く。
◯居酒屋
手で隠しながらあくびをする天音。
笠田、そんな天音を見て、
笠田「大丈夫?ちゃんと寝てる?」
天音「大丈夫ですよ」
笠田「そう?天音ちゃんに元気なかったら、心配で名波くん毎日来ちゃうね」
天音「それは申し訳ないなあ」
笠田「だから、溜め込まないでたまには吐き出してね」
天音「…ありがとうございます」
◯同・休憩室
天音、一人で休憩中。
天音M「…吐き出すって、どうやるんだろう。いつも大丈夫って答えて、深入りされないようにしてる。だって話したら…」
× × ×
(フラッシュ)
泣いている大学生の天音。
数名に囲まれて、何かを口々に言われている。
天音、言い返すことができず、俯いて泣いている。
× × ×
天音、目を瞑って首を左右に振る。
◯コンビニ(夜)
仕事帰り、買い物中の天音。
謙士の声(レン役)がコンビニ内の放送で流れる。
天音、つい足を止めて聞く。
自然と口角が上がる。
天音「(ハッと思い出し)そうだ、アニメ…!」
◯天音の家(夜)
天音、床に体育座りして、スマホを見ている。
耳にはイヤホン。
アニメ『真夜中ロマンティック』を鑑賞中。
画面上:レンがドアップで映り、ヒロインに甘い言葉を言うシーン。
天音、照れて悶えながら見ている。
◯居酒屋(夜)
手で隠しながらあくびをする天音。
笠田、また心配そうに、
笠田「また寝不足?」
天音「あ、これはその、夜更かししちゃって。テレビに見入っちゃって」
笠田「あら、天音ちゃんがちゃんと理由あるの珍しい。よっぽど面白かったんだね、なんていう番組?」
天音「えっと…なんだっけなー」
天音、笑って誤魔化す。
◯コンビニ(夜)
天音、店内をうろうろ。
品物を手に取るが戻す、を繰り返す。
天音M「今日は流れないのか…特に買うものもなかったし、申し訳ないけどこのまま帰るか…」
天音、諦めてコンビニを出ようとすると、ちょうど入店しようとする謙士を鉢合わせる。
プライベートの謙士(前髪かき上げ+眼鏡なし)だった。
天音「わあ!」
謙士「おお!びっくりしたあ」
天音「ごめんなさい、びっくりした、こんばんは!」
謙士「(笑って)こんばんは。よお会うなあ」
天音、照れて逃げようとする。
天音「(棒読みで)あははーそうですねー!じゃあ、失礼します!」
謙士「待って待って。ちょっとだけ待って」
天音、立ち止まる。
謙士、入店し、急いで買い物を済ませて出てくる。
謙士「ごめんごめんお待たせ!」
天音「どうされたんですか?」
謙士「どうもこうも。また一人で帰るんやろ?ここで会ったが百年目…ちゃうわ。えーと、呉越同舟…?ちゃうか。袖触り合うも多少の…ちゃうな。まあなんや、その、偶然も二度重なると、ね、気になるでしょそのまま帰すのは!」
天音、必死に喋る謙士の顔がだんだん赤くなっていくのを見て笑う。
謙士「えー、てことで、送らせてください。下見て歩くから!」
天音、にやける顔を隠すように深々と頭を下げて、
天音「ありがとうございます。お願いします」
× × ×
暗い夜道を並んで歩く二人。
謙士、首を折るようにして下を見ている。
天音「もういいですよ、首痛めちゃいますから」
謙士、少し体勢を戻し、視線だけ下を見続ける。
謙士「…ありがとう。これ以上やると寝違えそうやからやめとくわ。安心して、基本的には地面見とくから」
天音「律儀ですね。ありがとうございます」
謙士、コンビニ袋を漁り、
謙士「あ、これ飲める?アップルティー。新作やって」
と、パックのジュースを取り出す。
天音「えっいいんですか?」
謙士「うん。嫌いじゃなかったら飲んで」
天音「りんご好きです。いただきます」
謙士「俺も喉乾いてん。飲も」
謙士、同じものを取り出し、ストローをさして飲み出す。
天音、謙士の後に続いて飲み出す。
天音「美味しい!」
謙士「うん、アリやな。うまい!」
天音「あ、あの、アニメ見ました。面白くて配信サイトで一気見しちゃって」
謙士「ほんまに?ありがとう」
天音「久しぶりにときめきを摂取しました」
謙士「…なんか照れるわ。また見たってください」
天音「はい。続き楽しみです。今度はリアタイします」
謙士「深い時間やから無理しやんでええよ」
天音「帰るの遅いから寝るのも遅いんです。寝不足にもなるけど慣れっこです」
謙士「そっか。毎日遅くまで大変やな」
天音「全然!帰ってすぐ寝ればいいんですけど、やりたいことがあって…。好きなことして寝不足なので、苦じゃないです。周りに心配かけちゃうのは、申し訳ないんですけど」
謙士「でも睡眠時間削ってもいいって思える好きなことがあるって、めっちゃええやん」
天音「(嬉しそうに噛み締めて)…ええですよね」
謙士「ええと思う!無理は禁物やけど、その位情熱あった方が楽しいやんな」
天音「ありがとうございます…なんかやる気がみなぎってきました!」
謙士「変にアドレナリン出てへん?寝てよ?」
天音「はい!寝るのも頑張ります!」
謙士「(笑って)おう、がんばれ!」
× × ×
天音「じゃあここで。本当にありがとうございました」
謙士「いえいえ。半ば強引にすいません」
天音「強引だなんて。めちゃくちゃ保険かけてたじゃないですか」
謙士「だってそりゃ…あ、」
天音「?」
謙士「…強引ついでに聞いてもいい?…名前」
天音、驚き、頭を下げる。
天音「!ごめんなさい!私だけ名乗らずずっと…!工藤さんの方がよっぽど怖かったですよね、こんな知らない女」
謙士「いやなんか俺もうっかりしてたって感じです。今や今!今聞いとかなあかんってなった!」
天音「(照れながら)日野天音です」
謙士「じゃあ改めて。工藤謙士です」
照れる二人。
天音「またごはん食べに来てください」
謙士「居心地いいからすぐまた行くと思う」
天音、嬉しそうに笑う。
◯居酒屋(夜)
賑やかな店内。
天音、笑顔で接客している。
名波、カウンター席に座って、カウンター内にいる笠田と話す。
名波「なんか楽しそう、天音」
笠田「そう?」
名波「いいことでもあったのかな」
ガラッと入口の戸が開いて、4名の客が入店。
天音「いらっしゃいませ!」
順番に入ってきたその一番後ろに謙士がいる。
謙士、プライベートの姿(前髪かき上げ+眼鏡なし)。
天音M「あ、今日はプライベートで来られたんだ」
謙士と目が合い、ドキッとしてお辞儀する天音。
謙士、そのかしこまった姿を見て楽しそうに笑う。
他のスタッフに案内されて、4人は個室入っていく。
天音、謙士の背中を見つめていたがハッとして仕事に戻る。
名波、そんな天音を見ている。
× × ×
天音、謙士のいる個室に料理を運ぶ。
天音「失礼いたします」
戸を開けると、謙士が戸の一番近くに座っている。
謙士、照れくさそうに笑顔で、
謙士「こんばんは。またお邪魔してます」
天音「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
二人でニコニコ笑い合っているのを見て、
大久保「あー!謙士くんがニコニコしてる!」
田辺「何!?謙士くんのデレだと!?」
口々に騒ぎ出す大久保良(25)と田辺知也(27)。
大久保「謙士くん、俺らにはツンだもんなあ」
田辺「プラベモードの時は大体ツンだよな。関西弁がそうさせるんだよやっぱ」
謙士、二人に向かって、
謙士「お前らやかましなーもうー!(天音に)すいません、今日も騒がしくて」
天音「(笑って)皆さん仲良しなんですね」
謙士「(照れながら)仕事仲間やねん。仲良いって言うんかなあ」
大久保「照れんなよ謙士くん!」
謙士「照れてへんわ!」
田辺「照れ屋さんっはにかみ屋さんっそこが可愛いとこっ」
謙士「ちょいちょいちょいそれやめれる?俺のブランディングがさあ」
男3人がやいやい言い合っている中、紫谷志保(31)、天音に近づく。
志保「ねえ、あなたは謙士くんのお友達?」
天音「えっと…何度かここに来て頂いてて…それで…」
志保「そかそか。私、紫谷志保。よろしく〜」
天音「日野天音と申します…!」
志保「天音ちゃんね。謙士くんはツッコミ強めでキャンキャン吠えてるように聞こえるけど、本当は全部照れ隠しなの。怖くないから安心してね」
天音「はい。優しい方だって、とても、ちゃんと伝わります」
志保、ニコニコ微笑んで、
志保「よかった。天音ちゃん、今後も謙士くんと仲良くしてあげてね」
天音「は、はい。こちらこそ…!」
志保「それから私とも仲良くしてねっ。ここのお店のささみチーズ巻き大好きなの!」
天音「あ、ありがとうございます!」
謙士「むーらーさーきーだーにー!お前変なちょっかいかけてんなよ!」
志保「何よお。いいじゃん」
謙士「(天音に)ごめんな引き留めて。仕事中に」
天音「あ、いえ全然!」
天音、退室しようとする。
志保「またね〜天音ちゃん!」
謙士「ありがとう」
天音、笑って会釈する。
戸を閉め、賑やかな個室の声を外で聞く天音。
寂しそうな表情でその場を離れる。
× × ×
カウンターの中で作業する天音。
目の前のカウンター席に名波が座っている。
名波「天音、今度さ、大学の…」
天音「(ぼーっとしていて)…え?」
名波「…大丈夫?疲れた?」
天音「ううん、大丈夫」
名波「…個室のお客さんって、知り合い?」
天音「え?えっと、最近よく来てくださる方で…」
名波「仲良いの?」
天音「仲良いって……なんだろう」
名波「え?哲学?そんな難しい質問だった?」
天音「お友達ってこと?」
名波「俺と天音は友達?」
天音「うん」
名波「…だよね。色々話せて一緒にいて楽しかったら友達でいいんじゃない?」
天音「色々、話せる…」
名波「全部は難しいかもしれないけど、天音も話したいことなんでも話して」
天音「そうだね」
心から笑えていない天音。
名波と話すその様子を、少し離れた場所から謙士が見ている。
◯コンビニ前・路上(夜)
一人とぼとぼ歩く天音。
浮かない顔をしている。
コンビニをふと見ると、店前に謙士が立っている。
謙士「一緒に帰ろ」
天音、目を丸くして、
天音「送るじゃなくて…?」
謙士「あ、そうかごめんごめん。さっき会ったから、一緒のとこから帰る、的な、感じで…つい」
謙士、恥ずかしそうに尻すぼみになっていく。
天音、その姿にほっとして微笑む。
謙士「ん?」
天音「いえ、照れ屋の謙士くんだ、と思って」
謙士「ちょっと」
天音「皆さんから謙士くんって呼ばれてるの聞いて、すごく慕われてるんだろうなあって思いました」
謙士「呼ぶ?」
天音「はい?」
謙士「天音、も、そうやって」
天音「…!」
二人とも赤面し、お互いの顔を見れない。
天音「…謙士くん」
謙士「はい。…帰ろか」
天音「はい」
二人並んで歩き出す。
二人とも自分の火照った頬を冷ますように顔を仰いだり、手を当てたりしている。
謙士「今日お店に行かせてもらったあいつら、仕事仲間で。物作りが好きな奴らで、あんなノリやけど仕事はちゃんとするねんか」
天音「信頼してるんですね」
謙士「まあ、せやな。より良くするために話し合いができる、いい仲間やわ」
天音「素敵ですね…いいなあ」
× × ×
(フラッシュ)
男女数名に囲まれている大学生の天音。
手に持った紙の束を握りしめている。
× × ×
謙士「ん?」
天音「…私は、お話しするのが下手なので…」
謙士「そうかなあ」
天音「…自分の気持ちを伝えるのとか、誰かに相談するのとか、難しいなあって思います」
謙士「弱いとこ見せることになるから?」
天音、立ち止まる。
天音「…なんで、わかるんですか…?」
謙士「んー、俺も人に相談する時ってちょっと恥ずかしさがあって、なんでやろって思ったら、この人に俺ができひんこと知られてしまうからやって気付いて。弱いとこ見せるのって勇気いるなーって思ったから」
天音、何度も頷く。
謙士「ちょっとしたことは言えるねんな。暑いとか寒いとか、眠いとかお腹すいたとか。でも、怖いとか、それ苦手とか、出来ひんとか、やり方わからんとか、そういうことは隠したくなる」
天音「…すごい、なんで、なんでわかるの…」
謙士「一緒なんやなあ」
天音「…私、自分の弱い部分を認めたり、本音を話すと、すぐ涙が出てしまうんです。泣きたくないのに止められない。泣いてしまったら周りを困らせてしまうから、どんどん隠すようになって…」
天音、涙目になる。
天音「これ以上深掘りされたら泣いちゃうから、大丈夫って言って、人を遠ざけて…、ああ、もう、まただ。これほんと、生理的に出る涙みたいな感じで、もう…気にしないでくださいね」
天音、笑顔で誤魔化しながら流れてくる涙を拭う。
謙士「…一回ちゃんと泣き切っとくのもいいんかもよ」
謙士、ぐいっと天音の肩を引き寄せ、抱き締める。
天音「…!」
謙士「内側のさ、心のどっかからのさ、メッセージ的な?そういうのやと思うねん、その涙」
謙士、優しく天音の背中をさする。
謙士「雑に扱ったらあかんよ、きっと。せめて今は向き合ってあげてさ、ほんで一個前に進めるかもやん」
天音、ぽろぽろと涙が溢れる。
天音M「不思議な人。心の機微に気づいてくれる、優しい人。ぎこちなくて、あったかくて、安心できて…。私、この時間が終わらないでほしいって思ってる」
謙士の背中をギュッと抱き返す。
刈谷優(23)、少し離れた場所から、抱き合う二人を見ている。
よいなと思って頂けたらサポートよろしくお願いいたします!自販機でついでに飲み物おごる感じでぽちっとしてくだされば、今後の創作活動も前向きになれます~。