コラム:VEの歴史

「新・VEの基本」にはVEの始まりが掲載されています。VE業界の人たちの間では有名な、「アスベスト事件」です。石綿訴訟のアスベスト事件ではありません。
 第二次世界大戦後、大国の米国ですらモノによっては入手が難しくなっていた時期があるそうです。
 General Electric社において、製造工程の一部で溶剤を使い、その付近で火花が発生する可能性があり、溶剤に火花が飛ぶと燃え上がり、延焼する危険があったため、床面にはアスベストを用いることが社内規定で定められていたそうです。バイヤーがアスベストを手配しようとしたところ、品薄で入手が困難でした。その時、取引先の担当者がGEのバイヤーに「どうしてアスベストが欲しいのですか?」と尋ねられました。当時のバイヤーは地位が高く、取引先は注文されたものを持ってくるのが常で、「どうして欲しい?」などと聞かれたことがなかったので、アスベストがなぜ必要かなど、考えたことはありませんでした。その時は面食らったものの、よく考えてみれば上述のように延焼を防ぎたいのでそのことを取引先に伝えたところ、「だったらもっと安くていいものがありますよ」とのことで、延焼を防ぐ目的を果たすためにいままでよりも安くすみました。めでたしめでたし、とはなりませんでした。社内規定でアスベストを使うことが決められているため、新素材を使うことができません。そこで、新素材を技術的に検証し、使用に耐えることを確認したうえ、社内規定を改正することが新素材を採用し、延焼を防ぎつつ、コスト削減ができました。と、ここで終わらないのがさすがGE、こういった事象が社内で多く起きているのではないか、今回の教訓を手法化する必要があるだろう、ということで、Value Analysis、VAという方法が誕生しました。
 以上がアスベスト事件です。しかし、そんなことは聞いたことがないと、VEの創始者と言われているL.D.Milesさんの奥様はおっしゃられているとか、実はこれがVEの始まりというわけではなかったらしいのですが、日本ではわかりやすいエピソードとしてVEの始まりとしてアスベスト事件が物語となっています。
 はじめはVAという名前で一企業のGEで始まりましたが、その後、米軍での資材調達でも税金の無駄遣いを防ぐために用いられるようになりましたが、その時からValue Engineeringと呼ぶようになったようです。一企業の手法をそのまま使うわけにはいかないからでしょうか。また、米国では公共工事などではVE検討を行ったかどうか、VEの最高位資格であるCertified Value Specialistの確認が必要になっています。
 そんなVEですが日本では調達費削減の手段として使われることが多く、VEの推進組織は調達部門に置かれることが多くなっています。

参考文献
[1]土屋裕(監修),産能大学VE研究グループ(著):「新・VEの基本」,産業能率大学出版部(1998)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?