本当にコンソールゲーム機はクラウドゲームに駆逐されるのか?

PlayStation Now、GeForce Now、Microsoft Project xCloud、Stadiaなどクラウドゲームサービスはいくつか出てきました。日本ではまだサービスが展開されていないものも多く、クラウドゲーミング時代が本格到来した感じはありませんが、コンソール機の話題が盛り上がるなか、AmazonがLunaというサービスを新たに立ち上げるなど、クラウドゲームも確実に歩みを進めています。

さて、Stadiaが登場したとき「いずれプレイステーションなどのコンソールゲーム機はクラウドゲームにとって代わられる」という話がそこかしこで聞かれました。「通信環境さえあれば手元のハードの性能に拘らずハイエンドなゲーム機(ゲーミングPC)と同様のクオリティで遊べる」「サーバーが常に更新されるので、常に最高のスペックが提供される」「ハードを購入する必要がないので、ユーザー側が負担するコストが安く済む」といった状況が発生するというのがその根拠とされていましたが、私はこれについて懐疑的です。

私がこれについて疑問を持つ最大の理由は「『通信環境さえあれば』という前提を満たせる人がそれほど多くないだろう」という認識にあります。例えば私の住宅の環境では、光回線でも時間帯によってかなり通信速度と安定性に差があります。レイテンシも調子のいい時と悪い時でずいぶん差があります。おそらく現状の我が家では、いつでも快適に違和感なくゲームをするための回線は存在しないため、普通のゲーム機で遊ぶ感覚でクラウドゲームを遊ぼうと思った場合、少なくとも何らかの新たな回線契約を結ぶ必要があります。……それでも条件を満たす環境を構築できるかどうかはわかりません。たいていの家庭向けの回線契約は通信品質についてベストエフォート方式を採用していますから、やはり混み合う時間には速度と安定性が落ち込むでしょう。

「5G環境が普通になれば回線問題は解決する」という説もありますが、私はそれも疑問です。4Gでも高速通信で使える容量に制限がかけられている契約が一般的な世の中で、5Gになったからといって劇的に状況が改善するとは思えません。ISP側の処理能力の限界もあるでしょうから、もし契約の種類によってクラウドゲームのプレイに適した通信環境を整えられるとしても、ユーザー側が負担するコストはかなり高くなるのではないかと思います。また、建物に引く有線の回線よりも無線の回線のほうが安くなる、というのは正直これまでの経緯を見ても考えにくいものがあります。

「安価に高速で安定した通信環境が用意できる」ということを前提にクラウドゲームの優位性が語られることが多いなかで、上記の疑問から私は「コンソールゲーム機がクラウドゲームに駆逐されることは考えにくい」と思っています。PSやXBOXを買う人の多くは「ハイエンドなゲーム機で、きれいなグラフィックでゲームを遊びたいよ」という層の人たちで、その人たちに訴求するにあたってクラウドゲームは同様の条件をそろえるためのコストがかかりすぎます。ギャランティ方式の回線を用意して家庭用ゲーム機では到達しえない究極のグラフィックを求めてクラウドゲームを求めるというのもアリだとは思うのですが、おそらくクラウドゲームが提供するゲームのグラフィックは「その時代の最高スペックのゲーミングPC」が上限でしょうから、ギャランティ型の回線を契約するより都度ゲーミングPCを買ったほうがよほどリーズナブルじゃないかと思います。

先日、PS5やXBOX Series Xの価格が発表されました。1台、せいぜい4~5万円程度です。たったこれだけの支出で安定したゲーム環境が整えられるというのにあえてクラウドゲームに手を出す理由があるとするなら、それは「これまでのゲーム機では体験できない新たなサービス」が提供されること以外にないのではないかと思っています。

※機械学習などの負荷の大きい処理のために超高速なサーバーを時間単位でレンタルするサービスは現在でも多く利用されていますが、ワードやエクセルを使うために手元にマシンを置く代わりにサーバーの処理能力を借りるのはあまり一般的ではないですね。そういうことです。

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