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【3分解説】経済安全保障とは何か

・米中対立に加えてウクライナをめぐる米国とロシアの対立も深まる中、岸田政権は、経済安全保障の強化のため、2022/1/17から始まった通常国会に、経済安全保障推進法案を提出する方針です。
・なぜこの法案が必要かというと、主に中国を念頭において、いざというときに様々な物資の調達などを安定確保する体制を構築するためです。
・既に、新型コロナの発生を受けて、中国・東南アジアをはじめとした工場の生産停止や、物流施設の労働者不足による輸送遅延等により、必要な物資が調達できず、自動車をはじめとした多くの製品の生産が遅れていることは記憶に新しいです。
・新型コロナは政治的には中立な自然現象でしたが、仮に、今後米中の対立が深まり日本が米国側陣営につく場合、中国から必要な物資が調達できないリスクや、国内の電力・通信等の重要インフラ企業がサイバー攻撃を受けて日本の社会機能がストップしてしまうリスクがあります。そういった事象に備えた法案と考えられます。
・具体的には、政府が国民生活にとって重要な製品の原材料が特定国に依存していないか政府が監視する、国内の重要インフラ企業が中国等から安全保障上問題のある機器を導入しないよう審査する、といった内容が盛り込まれるようです。
・ですが、経済安全保障とはそもそも何でしょうか。そして、日本の経済安全保障は何が問題で、岸田政権の方針は適切なものなのでしょうか。

・そもそも、安全保障とは、国家が他国から攻撃・侵略されないよう安全を確保するために何らかの手立てを打つことです。
・その言葉の頭に経済がつくのですから、経済安全保障とは、経済に関する手段を持って国家が他国から侵略されないようにする、ということです。
・普通、安全保障というと、まず軍事力が思い浮かびますが、なぜ今、「経済」安全保障が重要なのでしょう。
・民族紛争は度々起きますが、国家間で軍事力を行使する機会は確実に減少しています。結果として、国家間の交渉においては、軍事力以外の手段、特に経済を持って他国に対する支配力を高める動きが強まっています。
・例えば、米国は対立する中国の企業への締め付けを強化しています。2020年には、中国企業のバイトダンスに対しTikTokの米国事業売却を命じています。なぜかというと、中国では国家情報法に基づき、企業含めたいかなる組織・個人も国家の情報活動に協力することが定められており、TikTokも例外ではなく、米国の情報が中国に流出することを米国政府が恐れたためです。
・また、中国は一帯一路構想に基づき、大陸側・海洋側のそれぞれの欧州に向けたルートにおいて、中国が舵をとる投資銀行(アジアインフラ投資銀行)を通じた各国の交通網・物流施設・港湾等の社会インフラの整備を進めています。
・つまり、中国を中心として、ユーラシア大陸、インド洋の両側で、各国への投資を通じて中国の勢力圏を確保しようとする極めて野心的な動きです。

・それに対し、日本は、今まで経済安全保障の観点からどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
・そもそも、軍事力の面では自衛権にオプションを限定しているわけですから、一層軍事力以外の手段の充実が必要といえます。
・産業面ではグローバルに企業がビジネスを展開し、世界中の国と交易関係を深めてきました。特に、近年では国内から製品を輸出するのではなく、海外に直接工場など拠点を設置することで、現地の雇用創出・産業近代化といった経済貢献をしてきました。
・足元では、関税等の貿易の障壁を減らして経済交流を活性化する貿易協定であるTPPも実現しています。
・ただ、海外との交易を増やした結果、自給率の面で見ると日本は海外との交易なしでは生きていけない状態になっています。
・日本は四季豊かな自然には恵まれていますが、エネルギー・工業製品の生産や競争力のある農産物の生産に関しては資源や土地が不足していますので、あらゆる産業で海外調達が前提の経済となっています。
・ですので、日本は海外から資源を調達することは必要条件として、何ができるのか考える必要があります。
・戦後、国家賠償制度・政府開発援助制度(ODA)によって発展途上国に対する金銭・技術面の支援は行ってきましたが、中国のような戦略的な背景はあったわけではありません。
・民間側でグローバルにビジネスは展開してきていますが、現地マーケットや調達する資材の安さなど、経済合理性に基づくものであって、国家の戦略に基づくものではありません。
・そして、そもそも民間側がグローバルなビジネス展開をなぜできたかというと、冷戦終了ののち、社会主義・資本主義というイデオロギーの対立が終わり、世界中が資本主義を受け入れる体制を目指してきたからといえます。自由に経済合理性に基づきビジネスをできる潮流(グローバリズム)があったわけです。
・しかし、足元で中国・ロシアと米国の対立が深まる中で、今後はこのグローバリズムの流れが一旦止まり、欧米陣営と中国陣営、ロシア陣営とブロック化する流れに入る可能性が高くなっているのではないでしょうか。
・今必要なことは、中国・ロシアあるいは米国といった大国の動きがもたらす大きな環境の変化に対して、日本がどのようなポジションを世界で構築するべきか、中国の一帯一路構想のように戦略的に考え、明確に打ち出すことではないでしょうか。
・岸田政権の経済安全保障法案に盛り込まれる内容は、こうしたビジョンが先んじてあってから、打ち出されるべき個別の解決策のように思われます。まずは何より大局観を示すことが必要だと思います。

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