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大変手前みそな話で申し訳ないが
私の3歳娘は美人である。

これは親の欲目も大いにあるが
客観的に見ても美人だと思う。

丸くてぱっちりした目は、
私の妹が

「アーモンド型通り越して丸」

と評するほど大きく、
まつ毛は長くてフッサフサ。

色白で小さな頭、
髪は細く色素も薄く
よくハーフに間違えられる。

ちなみに私も夫も純日本人で
両人とも外国にルーツを感じさせるタイプではないので
一体何がどうなって“ハーフ”という話が出てくるのか
不思議でならない。

一緒に買い物に行けば

「かわいい子ねぇ」

と年配の女性に必ず声をかけられ、
道を歩いていればすれ違った女子高生の集団に

「か、かわいい〜!!!」

と黄色い声を頂き、
大好きなゴミ収集車を見て手を振れば
乗っている作業員の方が全員ニッコニコ。

最初は

「こんなに構ってもらえるなんて、
なんて子どもに優しい街なんだ!」

と思っていたのだが、
どうやら娘が特別らしいぞと気づいたのは
息子が生まれてからだ。

さすが姉弟だけあって
息子と娘はよく似ている。

特に目は娘とそっくりで
パッチリかわいい目をしている。

姉に比べて少し涼しげな顔をしていて
少し色黒でむっちりしている1歳息子は、
昔の姉の写真と見比べると
ほとんど区別がつかないぐらい似ているのに
姉に比べて話しかけられる回数が圧倒的に少ない。

何が違うのかうまく言葉にできないが、
確かに3歳娘と1歳息子を比べると

娘の方が「美人」

息子の方は「愛嬌」

という感じがするっちゃあするので
その辺が話しかけられる回数に影響しているのだろうと
夫とよく考察している。

よく話しかけられるほど目立つ外見というのが
良いことなのかどうかはよく分からないが、
とにかくうちの娘は美人なのではないかと思われる。


流石にここまで西洋っぽい顔ではない。


そんな3歳娘のイヤイヤ期が始まったのは
2歳に入ってしばらくした頃だ。

「やだ」とか「ない」とか言われる度に

はいはいイヤイヤ期ね。

2歳が終わったら落ち着くかな。

どんどんイヤが酷くなっていくけど今がピークかな。

と思い続け、
気づけば1年以上経ってしまった。
今や、娘はもう3歳半である。

最近はイヤイヤもヒートアップしてきて、
保育園から出ようとすると

「友達と一緒に帰る」

とドアの前でテコでも動かなくなるところから始まり、
無理に引きずろうとすると怒って泣き喚き、
チャイルドシートのベルトをしめさせないように
腰を浮かして私の手を必死で逆方向にひねろうとする。

車から降りれば
家に帰るのはイヤだと
背負っていた鞄を人様の家のドアの前に放り投げて
その場で大の字になって寝転がり、

私が鞄を拾えば

「お前は私のモノに一切触れるな!!」

とばかりに怒りまくり
泣き叫んで収拾がつかなくなる。

仕方がないので1歳息子を抱っこ紐で担いだまま
3歳娘の腕を引きずり、
時には片手で腰を担ぎ、
満身創痍で家に帰っている。

おかげで私は毎日腰が痛くて仕方がないし、
夫はその姿を見て

「…絶対自分にはできない…」

と青ざめている。
私も自分でよくやるなと思っている。

先日などは手を洗いたくないという理由で泣き叫び、
オモチャや抱っこ紐を投げまくり
弟の頭に当たって息子が泣いてしまい、
当然私にガッツリ怒られて
娘の怒りがさらにヒートアップするという
なかなかバイオレンスな日があった。

なんと怒った娘は
目の前にある小上がりの上にひいてある
薄いフェイク畳の板を
小さな体で持ち上げ、
そのまま私に投げようとしたのである。

いやいやいやいや
そんなん持ち上げられるんかい!

という

「大きくなっちゃってぇ」

みたいな成長を噛み締める気持ちが一瞬訪れたが、
そうではない。

っていうか投げるんかい!!

どんだけ怒ってんねん!!!

危ないから止めろぃぃぃぃ!!!!

当然もっと私に怒られ、
娘はもっと泣き叫び、
これは付き合ってられんわと
泣く娘は横に置いておいて
息子に夕食をあげていたら

娘はなぜか食洗機の前にうつ伏せになり
そのまま眠ってしまっていた。

保育園で先生やお友達に囲まれ
彼女なりに色々と気を遣ったり頑張ったり
たくさんの気苦労があるのだろう。

が、

それに付き合う私もそろそろお疲れモードである。


疲れたら寝るに限る。


そんなことが続いているからか、
最近の私は体がだるく
特に腰が痛くて痛くて仕方がない日が出てきている。

推しのマッサージ店が鍼灸をやり始め
そこで経絡治療というコースのモニターを募集していると
知った私は秒で申し込みをし
そこで体の調子をかなりの頻度で見てもらっているのだが。

行くたびに

「疲労困憊です」

「休んでください」

「寝てください」

の助言3コンボを決められていて
休まねばのプレッシャーで心が休まらないという
完全なる負のループに入っているのはここだけの話だ。

心がちょっぴり折れかかっていた私は
マッサージ店の兄ちゃんに
娘の愚痴を少しだけこぼした。

「もうね、娘のイヤイヤがひどくって…」

その話を聞いたにいちゃんは
話の途中で突然スッと立ち上がり、

「ちょっと待ってて!」

と言って部屋の奥へ大慌てで引っ込み、
手のひらに何かを握りしめて戻ってきた。

「玉森さん、これ使って。」

そう言って渡されたのは

小児鍼

と書かれた小さな袋だった。


「その症状、典型的な“かんの虫”やから。
かんの虫に小児鍼はすごい効くから。
うまくいけば寝るから。
やってみて!」


袋を開けると出てきたのは
「しょうにばり」
という恐ろしいネーミングからは想像できない
ロケット鉛筆の先っぽだけをプラスチックで再現したような、

どこがハリ???

と頭をかしげてしまうシロモノだった。

使い方を教えてもらったのだが、
つついたりなでたりするだけで
これで効果が出るとは到底思えない。

頂いた手前、

「いやいやこんなの効果ないっしょwww」

とは言えず、
というか兄ちゃんが先回りして

「効果ないと思ってるでしょ?
それがあるんっすよぉ〜」

なんて言うものだから
曖昧な笑みを浮かべつつ有り難く小児鍼を頂戴して
その日は帰路に着いた。


その日の夜、
さっそくキーキーいう娘を捕まえて
小児鍼で頭をツンツンつつき、
腕や足を教えられた通り撫でてみた。

効いているかどうかはさっぱりわからないし
別に眠ったりもしないのだけど、

娘はちょっと気に入ったらしく、

「こっち(左腕)ばぁ〜??」

「あしばぁ〜???」

「背中してぇ〜」

とねだって来るようになった。


その日から2ヶ月ほどが経ったが、
娘のイヤイヤは未だ続いている。

が、
小上がりのフェイク畳を投げようとすることはないし、
誰かの家の前で大の字になって寝転がることもなくなった。

このイヤイヤ期、
あまりにも終わりが見えないので
実は18歳まで続くことを夫婦で覚悟していて

「顔はかわいいけど性格がアレだなって
噂されるようになるかもよ」

「美人は性格が多少アレな方が過ごしやすいって。
優しい美人は苦労するだけやって。知らんけど。」

と言いたい放題言っていたのだが、
もしかすると18歳になるまでには
少しずつイヤイヤも落ち着いて来るのかもしれない。

小児鍼で娘の頭をツンツンしながら
18歳になった娘が
すらりとした色白の体でピンヒールを履きこなし
下僕のように彼氏を顎で使っているところを想像し

そんな未来もいいなぁ

なんてほくそ笑んだのは
ここだけの話である。

気の強い美人というものが
私は意外に好きなのである。

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