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地元と呪いとあがまちと

私は今、阿賀町という新潟県の東端のもはや福島みたいな田舎町にいる。水田の向こうには山が迫り、阿賀野川が貫流する人口1万人弱の町。この町には高校が一つしかなく、そこも定員割れで廃校の危機にある。高校がなくなってしまえば人口の流失や地域の更なる衰退は避けられない、という危機感を背景に、平成28年から高校魅力化プロジェクトと称して公営塾の設置や教育寮の開設、町外からの留学生の募集が段階的に進められてきた。そんな町に、私は公営塾の3週間だけのインターンとしてお邪魔している。

「あなたは3週間後、どうなりたいの?」
インターンとして入る最初の日に塾長に聞かれた。今日の夕方くらいに教えてもらえればいいから、と言われたのに、一週間経っても答えは出ないまま。

なんにも変わらないなぁと思う。「やりたい」とか「どうなりたい」とか、薄っぺらいまま生きてきてしまった。昔はそれでも「○○に携わりたい」とか思い込めていたのだけれど、二十歳も目前となるとそこにツッコミを入れるメタ認知力だけが成長してしまって嫌になる。受験のときにも散々苦労したのに、さっぱり成長していない。
ここに来たのだって大した理由はない。一回生の夏休み、鍵かっこ有意義なことを何もしないのが勿体無い気がして大学のプログラムを漁ったときに、たまたま条件に合っていただけのことだ。
教育やまちづくりに特別関心が高いわけでもない。なんとなくおもしろそう、くらいの動機で探究に力を入れた高校に進学して以来、関連するキャンプや交流の機会を辿っていくうちに、必然的に先進的な教育や教育を通じたまちづくりに詳しくなった。離島で育ったことや家の経済状況、地方から東大と米国の大学を受験する中で、地元の衰退と教育格差を肌身で感じた。教育やまちづくりがたまたま自分のバックグラウンドに適合する分野であったに過ぎないのだ。

この一週間、いろいろな方にお話を聞いた。学舎のスタッフさん、寮のハウスマスター、役場の職員さん、高校の探究の授業に関わっているまちの大人、高校生や卒業生…。良くも悪くも変わっていっていることはたくさんあり、同じように変わらないこともたくさんあるようだった。一人では難しいことがたくさんあって、それでもそれぞれ理想を持って、完璧ではなくても自分のできることを生きていた。もちろんこの人たちはこの町の一部分にしか過ぎなくて、町の未来なんて大仰なことを考えず、目の前の日々を生きるのに精一杯な人はたくさんいるのだろう。それでも、少し気恥ずかしそうに語ってくれる彼ら彼女らはかっこよかった。

失礼な話だが、特別目的があってお話を聞いていた訳ではなかった。ただ何を聞いても想起してしまう場所があった。
地元だ。
良くも悪くも比べてしまう。地元は全国でもそれなりに有名で、ゆえに人に話すときも好意的な反応を貰うことが多いのだが、内実は見た目ほどきれいじゃないし、ポジティブなニュースはあんまり出ないし、あっちこっちにガタが来ている。「えーあそこ出身なんだ!自然きれいだよね!」とか「うらやましい」なんて言ってもらうたびに苦笑いしてしまう。

そしてそれが、すごく嫌だ。

元々ルーツはあの場所にはないし、外に出てから5年が経とうとしているし、近いうちに帰る家すらなくなってしまうのに。地元を素直に誇れないことが、やっぱり悔しい。
これは地元愛なんてきれいなものじゃない。呪いだ。地元が無条件に誇れるまちだったらきっとあっさりとセピア色で塗りつぶせたはずのものだ。

私はあの地に囚われている。

そしてその呪いは、たぶん自分で解きに行くのが一番早い。ここでまちづくりに携わっている方にも「帰りなよ」って言われちゃったしね。

ただどう関わっていくかは別問題、というか未確定だ。大学はまだ3年と少しあるし、現状なんのスキルもないし。でもそれを探すには、ここは最適なフィールドである。教育関係でも、そうじゃない部分でも、まちづくりに携わる人がたくさんいて、それぞれの形で頑張っている。
多分あと二週間じゃ決まらない。だからなんとなく可能性を探す、くらいのマインドでいこうと思う。決めるのは苦手だ。いけいけゴーゴーみたいなのもあんまり得意じゃないのでゆるっといこう。ゆっくりいそげってやつだ。

私にはこれからの二週間でやりたいことがもう一つある。実はこの町、とんでもなく車社会である。まず歩いている人をほとんど見かけない。連日暑い(しょっちゅう日本一になる!)のもあって、歩ける距離でも車に乗ったりする。どう考えても東京にいたときのほうが歩いている。そして致命的なことに私は運転ができない。したがって移動は常にどなたかの車の助手席になるためまったくといっていいほど土地勘が掴めていないし、町のこともピンポイントでしか知らない。だから、二週間のどこかで必ず町を歩く機会を作りたいのだ。とはいえ暑い。なんといっても暑い。新潟こんなに暑いとか思ってなかったわ。涼しい日来い。

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