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今年のM-1を見た感想をつらつらと。

 12月20日にM-1グランプリが開催され、マヂカルラブリーが第16代王者に輝いた。実力のある漫才師が勢揃いする中で、独特な世界観という持ち味を遺憾なく発揮し、悲願の優勝を掴んだ。この後記では、今年のM-1にはどんなコンビが出ていたのか、また個人として感じた事を、ただの大学生お笑いオタクが解説していく(あくまでも個人の意見です。大会に関わる人を誹謗中傷する意図はありません)。
 今年は過去最多5081組の漫才師が出場したM-1グランプリ。コロナ禍ということもあり、ライブの減少が響き、当初は開催も危ぶまれていた。しかし、このように盛大に開催できたことは一ファンとしても非常に嬉しい。M-1開催のニュースに元気をもらった人も多いのではないだろうか。勝ち上がった10組の漫才師は非常に逞しかった。
 1組目は敗者復活枠。笑神籤が導入されてから初めての展開になった。賞レースにおけるトップバッターは大会の空気を左右するといわれている。昨年のM-1ではニューヨークがトップバッターになった。点数は低かったものの、審査員である松本人志の「笑いながらのツッコミは好きじゃない」という指摘に、屋敷が「最悪や!」と言いながらふてくされる場面は、緊張感のある会場を一気に和ませ、結果、2019年大会は過去最高のM-1と評されるようになった。このようにトップバッターは大きな意味を持つ。敗者復活枠は国民投票で最多得票を得たインディアンスが復活。安定感のある漫才を披露した。田渕が次々にボケて、きむが必死に喰らい付く。正直、昨年のファイナリストということもあり、漫才の中に真新しさはなかった。しかし、それがいい意味で受け手に安心感を与えた。得点は625点と伸びなかったものの、大会のスタートをいい形で切ってくれた。
 2組目は東京ホテイソン。初出場であり、今大会最年少ファイナリスト。キャッチフレーズは「静ボケ動ツッコミ」。この2人の漫才はとにかくツッコミが特徴的である。備中神楽を参考にし、手を大きく広げながら大声でツッコむスタイルで決勝まで勝ち進んできた。しかし、今回のネタは少し観客にわかりにくい構成になっており、ツッコミがうまくはまらなかった。霜降り明星や東京ホテイソンのような一言ツッコミは、一発でどれだけ大きな笑いを起こせるかが重要である。それを踏まえると、準決勝で見た時よりもウケが少なくなってしまったように見えた。ただ、2番手であれだけ堂々と漫才が出来る若手はいない。ネタをわかりやすくすれば、優勝したマヂカルラブリーのように結果も変わるだろう。今後決勝に残った時、台風の目になる可能性が高い、伸び代のあるコンビだと感じた。得点は617点。
 3組目はニューヨーク。2年連続2回目の決勝進出。キャッチフレーズは「ダークにリベンジ」。2回目にもかかわらず、常連のような落ち着きと貫禄が見てとれた。彼らの特徴は毒と皮肉。今年はその特徴が昨年の歌ネタに比べて色濃く漫才に反映されていたと感じる。その上、単純なしゃべりの技術も審査員から高い評価を得ていた。アクの強いボケをあれだけポップに漫才として成立させられるのは彼らの技術があってこそだと感じる。また、ボケの嶋佐のしゃべり方にも進化が見られた。飄々としゃべっているだけなのに何か面白いオーラ、雰囲気を感じる。上沼恵美子が「ナイツの塙さんを彷彿とさせる」と評価したのもうなづける自然さだった。来年はどんなダークなネタを披露してくれるのか、今から楽しみだ。得点は642点。
 4組目は見取り図。3年連続3回目の決勝進出。キャッチフレーズは「真逆の才能III」。上方漫才といえば見取り図というくらい、関西の漫才を頑固に続けてきた2人は、今回のM-1でも大きな爪痕を残した。主にしゃべくり漫才を主としており、今回も技術の高さを見せつけた。M1をよく見ている人にも、そうでない人にも見取り図の魅力は大いに伝わったと感じる。テンポの良さを残しつつ、一癖あるボケでらしさを出す漫才は教科書として参考にするべき点が多い。最終決戦でも他2組が歌やコントを取り入れた漫才を披露している中、見取り図のみがしゃべくりにこだわっていた。惜しくも優勝は逃したが、来年もまた見取り図らしい泥臭い漫才を見せてほしい。得点は648点。
 5組目はおいでやすこが。決勝初進出。キャッチフレーズは「個性と技のハーモニー」。ユニット初のファイナリストであり、ピン芸人同士のコンビとして密かに注目を集めていた。キャッチフレーズにハーモニーと書かれているだけあって、2本のネタ両方が歌を取り入れたネタになっていた。最終決戦のネタも同じテーマだと飽きられるのではと思ったが、2人のピン芸で培った技術が存分に生かされており、まさに個性のある、2人にしかできない漫才になっていた。ボケのこがけんは芸達者だが少しパンチに欠ける。一方で、ツッコミのおいでやす小田はネタの性質上、観客を威圧してしまう時がある。R-1のファイナリストに残るのは素晴らしいことだと前置きした上で、これらの弱点をお互いに補い合い、しっかりと漫才に昇華しているのは凄い。なにより、コンビの片割れにR-1を荒らされていた2人のピン芸人が、M-1の舞台に殴り込み、やり返しと言わんばかりに結果を残した姿には思わず胸が熱くなった。今後もまた2人の個性がぶつかり合う漫才を見たい。得点は658点。
 6組目はマヂカルラブリー。3年ぶり2度目の決勝進出。キャッチフレーズは「我流大暴れ」。見事、16代目王者に輝いた。彼らの漫才はまさに我流。最後まで自分たちのスタイルを貫き通し、栄光を掴んだ。1本目・2本目ともに野田クリスタルの独特な世界観が爆発した感じがした。2人の漫才には軽妙な語り口や掛け合いがほぼない。ひたすらに暴れ、ひたすらにツッコむ。野田の破天荒なボケを、村上が必死に訂正しようとするバランスがちょうどいい。少しでもくどくなりそうなテーマを上手く転がして笑いをとっていた。独創性のあるネタが故に、ネット上で「これは漫才じゃない」と批判する声も見受けられる。しかし、この世界観をコントとして披露したとすれば、そこまで面白いネタにはなっていないだろう。個人的には、この発想を漫才として堂々と披露することに意義を感じる。漫才の起源は平安時代まで遡るが、初めの漫才は唄や鼓を使ったものだと言われている。今の漫才に果たして起源の面影はあるだろうか。現代の漫才にしゃべくり、コント、歌などがあるならば、これだってあっていいじゃないか。2人の堂々たるネタには、そんな漫才への忸怩たる思いを感じ取ることができた。R-1、M-1を制し、次はどこでその才能の片鱗を見られるのか、今からワクワクして待ちたいと思う。そして、番組の最後に野田クリスタルが放った「最下位でも優勝できるので、みなさん諦めないでください!」という言葉は多くの人の心を打った。最下位でも優勝できる。自分たちが認められるまでに人一倍苦労したマヂカルラブリーだからこそ言えるセリフだと感じた。得点は649点。
 7組目はオズワルド。2年連続2回目の決勝進出。キャッチフレーズは「NEO東京スタイル」。昨年は7位と結果を残せなかったものの、東の漫才師の久々の登場を嬉しく思った人も多いのではないだろうか。無表情でボケる畠中に冷静かつ鋭くツッコむのが彼らの特徴である。ただ、今大会ではツッコミに、より感情が入ったような場面が多々見受けられた。落ち着いた雰囲気が昨年よりも無くなり、いい意味でのオズワルドらしさが薄れてしまったようにも感じられた。しかし伏線回収、ワードセンス、発想の柔軟性は今までの漫才師にないものを見せてくれた。個人的には東の漫才師の先駆けであるおぎやはぎのように静かに進行していく方が好きだが、どちらになったとしても面白い漫才を作り続けられるコンビだと感じた。東京スタイルを磨き、いつかスマートに優勝してしまいそうな雰囲気の漂うコンビである。得点は642点。
 8組目はアキナ。4年ぶり2度目の決勝進出。前回はトップバッターながら5位と健闘した。キャッチフレーズは「覚醒するファンタジスタ」。一年の充電期間を経てM-1の決勝に返り咲いた、なにわのスーパーサブ。山名による憑依ボケは今大会でも健在で、「好きな女の子の前でカッコつけたい奴」というキャラクターを4分間で見事に演じ切った。また、そんな山名に絶妙なバランスでツッコむ秋山もネタのエッセンスになり、ファイナリストの中でも特に高い技術を見せつけていた。一つ難点を挙げるとするならば、ネタの設定である。今回は好きな女の子を気にする奴とそれに腹を立てる奴という設定で終始展開されていたが、40歳で同級生の女の子を気にしているという点に、少し無理があるように感じた。審査員から、30代後半から40代にかけての漫才としては少し設定が若いという指摘もあり、その点が点数の伸び悩みに影響したと考えられる。しかし先述の通り、ファイナリストの中でも間やネタ中の振る舞い方などの技術は一級品であると感じた。ラストイヤーまではまだまだ期間があるため、もう一度山名の癖になるキャラクターを決勝で見たいと感じる。得点は622点。
 9組目は錦鯉。決勝初進出。キャッチフレーズは「おっさんずバカ」。大会史上最年長ファイナリスト。ボケの長谷川のラストイヤーは56歳と、どこかおじさんの哀愁が漂う2人組。長谷川のバカさ全開のボケに、渡辺が鋭くツッコんでいく漫才が特徴である。決勝ではもしもパチンコ台になったらという突飛な設定にもかかわらず、会場を一体にしていた。その理由として、ボケの長谷川の底抜けな明るさにあったと私は考える。見た目はおじさんで、底抜けに明るい。喋る内容からもおバカな印象を受ける。M-1が好きな人でも、漫才を続けて見ると、漫才疲れなるものを感じる時がある。複雑な設定や長い伏線回収など、頭を使う内容に疲れてしまうことだ。しかし、そんな中で分かりやすいキャラクターと明るさが今大会のオアシスになった。また、渡辺の的確でタイミングの良いツッコミも漫才としての完成度を高めていた。おじさんになればなるほど面白くなりそうな2人に、今後も注目していきたいと感じた。得点は643点。
 ラスト10組目はウエストランド。決勝初進出。キャッチフレーズは「小市民怒涛の叫び」。結成12年目でネクストブレイクといわれながら燻っていた2人が、満を辞してM-1の決勝に進出。この2人の漫才は、何といってもツッコミの井口による妬み、嫉み、僻みのこもった叫びが特徴的である。漫才というより、観客への演説と見るのが正しい気もするが、とにかく怒涛の叫びを見せつけるのが2人の漫才だ。決勝の舞台でも井口節は健在だった。「可愛くて性格のいい女の子はこの世にいない」「お笑い好きの女の子はどうせ仲良しコント師が好き」「お笑いは今まで何もいいことがなかったやつの復讐劇だ」など、密度の濃い偏見を畳み掛ける。魂のこもった演説は見ている側に清々しさまで与えてくれる。ボケの河本もそれを誘うかの様に淡々と話す。井口の前では目立たないかもしれないが、河本がいてこそ井口の尖りが際立つのだ。自虐ネタとなると暗い雰囲気があることも多いが、さまざまなエピソードで笑いに変えているのも今までの経験があってこそ。今回の9位という順位も後々のガソリンになると思うと、来年にも期待せざるを得ない。得点は622点。
 以上が今回のM-1グランプリの分析である。昨年のM-1はミルクボーイやかまいたちなど、王道の漫才が多かったのに対し、今年は十人十色の漫才があったような印象を受けた。「例年よりもつまらなかった」「改めてミルクボーイがどれだけすごいかわかった」など批判的な声もあるが、漫才の多様性の一端を目にできた大会ともいえる。これから次々に新しい漫才が登場するのか、はたまた原点に立ち返った漫才が増えるかはまだわからない。今後どんな漫才が登場していくのか注目するとともに、来年どんなドラマが待ち受けているのかを少し気は早いが、楽しみにしたいと思う。

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