御茶ノ水くん

あっという間だった。

僕の同級生の御茶ノ水くんは今年の誕生日で60歳になる。

幸いな事に御茶ノ水くんの社会復帰プロジェクトは、それなりの成果は出たのではないか。

正規となり、不恰好ではあるが会社の中で自分の居場所を見つける事ができた。何よりも永遠のペーパードライバーだった彼が、何とか人に迷惑かけない程度に運転が出来るようになった。プロボックスが一台お釈迦になったが、成し遂げるために犠牲はつきものなのである。

60歳を迎える御茶ノ水くんはすっかりマイルドになり、10年前の「無敵の人」オーラも影を潜め、若い社員らに上手に揶揄われている。

若いやつらからの、からかい(揶揄い)、つまりイジリを真に受けるとハラスメントになってしまうけど、御茶ノ水くんはスルーテクニック(ガン無視するだけだが)を身につける事もできた。

「御茶ノ水くん、人生はイジられてナンボだぞ」

何回ともなく彼に言った。少し切先を間違えるとハラスメントであるが、不器用な人間が生きるために身につけなければならない事もある。

30までに女性経験がないと、魔法使いになれるという伝説がある。でもそれは嘘だ。

彼にとっての七つの海を越え、いくつもの砂漠も越え、高い山は安全なまわり道を選び、伝説の城へ辿り着いたのだ。

御茶ノ水くんは魔法使いなんかではない。

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