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短篇【テレポート】清宮レイ

シャーペンよりも鉛筆の方が気持ちがいい。

古い文化という理由で固執してるわけじゃなく削るという過程で生まれた芯先で書く活字の魔力に浸透していた。


勢いで任せた私の活字から見える力はシャーペンでか弱く儚く見えてしまう。


私は一式箱の中身を期待の筆で染め上げてやった。爽快な苦労も露知らず、故に高まった遊び心で教室の隅で高揚する。


黒点から連なる太い活字への成り方が好きで、特待的に謙る。そういえば見渡すと言葉の世界が平面に広げられている。


世界を創る事が出来た。

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『………レイまだ?』

日誌には耐え難い渇望をだらだらと、明日への改善も添えて筆を揺らす。


「まだだよ、もう少し………」
無垢な彼への返答は雑踏に濁して、私はスラスラと雑音を書く。


『日誌でそんな熱心に書くのレイぐらいだよ』

拒絶に追いやられた酸素みたいにノイズに変わる。彼はそれほど無機質だった。

「文字が好きなの」
『それ以外にも理由がありそうだけどね』

コミニケーション能力の足りない私達では言いたい事も十分に言えない。細胞一つ一つに込めた願いすらも言葉に出来ないもどかしさ。


髪を掻き上げて見え易くしても、未来は視えない。腕の中で貯めていた想いの預金は擦り減らして、寝かしたまま死にそうだった。

彼から逃げるように、言葉を一心に信念通りで


本当の気持ちはどこにも書けない。

   

私は刹那の嵐の中で日誌を飛ばすように畳んで、一息を無闇に入れる。入ってきた空気は嫌悪の味でそういえば不味かった。


私の肺には後悔の疑念で溢れかえって、今にも口から吐き出したくなる勢いのまま。我に帰っても彼のいつも通りで冷たい視線の中席を立つ。


未来に似た活字の悪魔は望めない理想を壊していく。都合が良くて空気が読めない文字たちはまた消しゴムで消したくなる。

閉じた日誌に、もう一言。


【今日も最悪でした】

「よし帰ろう」

私は先にいる彼の袖をゆっくりと、いつも通り望めないとわかっていながら、並行する。掴む私の心は非力に劣らず、後悔より先に迸る。


コントラストを強調しながら夕陽の静寂の中にこれの自転車の影と見合ってしまう。私は仇に成りかけた河川敷の道を、帰路と偽りながら帰る。


僅かに微弱な相愛のまま、
『昨日部活なくて暇だったわ…』

「テスト休みの息抜きなのに?」
他愛もない会話で乗り過ごして

彼の袖を掴んだまま慄く、
『割と部活人間だからね、無くなると困る』
自転車は宙を空回る。


「……他のことは興味もないの?」
延びる袖から私の指が賑々しく、一本ずつ消えていく。彼には伝わらないように凛々しく見せて、暗い顔などしないように。


振り向かない彼の視線は夕陽の先で私には眩しくて見えない。それでも彼から
『ないね、テニスが一番楽しい』


【じゃあ私は寂しいままだね】
不適な私の微笑みから綴られた想いが目に浮かんで、ぐっと胸に仕舞い込んだ。

「……じゃあ私はこっちだから」

『おぅ…また明日…』
廃れた夕陽の跡から闇の笑顔が私からは見える
。彼から聞いた明日の約束はまた同じことの繰り返しを暗示してそうで、

億劫に染まったまま、今日もまた遠回りをした。


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