短篇【SUN DANCE】齋藤飛鳥
9月28日の昼間はまだ想像以上に涼しくて、重ね着を楽しむ頃でもあった。時計の針が頂点で連なる時間に私達はお馴染みの喫茶で身体を休める。
ここには見慣れた人たちが安息の場所として隠れるためにあるような雰囲気で彼氏に教えてもらった時は、独占されていたようで少しだけ苛ついた。
最近いつも頼むアイスコーヒーから身体を癒す熱い珈琲に変わった。とても小さい変化だが、大人への背伸びをした気分で意気揚々と息舞う。
清流のように漂う休日を無料で楽しむ私達は今日買った雑貨を隣に置いて、喫茶にある当たり前を心から感じている。
目の前にいる彼の輝く目には恐らく私は写っていないが、それはそれで嬉しいぐらい連鎖された関係だった。内装に気を取られていると気慣れた店主から当たり前の珈琲を貰う。
喉を通る珈琲と流し目で楽しむ活字の塊が小さい談話を、雰囲気に映えるような速度で繰り返す。社会に飲まれかけの私達はその踠きを分かち合いながら、休日はこうして安堵する。
酸味が人生みたいだった。
いつから出会っていつから付き合ってるか、もう定かではない状態に巧妙な自然体として脳裏を開く。お互い立ち昇る湯気の行方を活字を追う速度と同じように辿りながら、また数時間以上の安息を身体に負荷を掛ける。
吊り上がる口角と上がる声のキーは私の無意識に出てしまう幸せのオーラだ。以前彼から指摘されて注意していたのに、彼の前だと警戒心なく出てしまう。
また彼が笑う瞬間が微笑ましくて、遂には私達しかいない店内の中で消えていく湯気のように疲れも削がれていく。
人情深い店内BGMと活字と珈琲が喫茶のメニュー以上に情報の過多を押しており、私達の満足度は時間を増す毎に向上していく。
そんな時間が時々刻々と過ぎていくと、気付けば既に夕陽の別れが見え始めている。私達は少し焦りながらいつものように帰り支度をする。
私が何も言わなくても彼は一人で会計を済ませてくれる。私が何も言わなくても荷物を持ってくれる。普段言わない感謝の気持ちは普段通りにしないと弱いと思われそうで、
私は無愛想に先に挨拶をして店を出て行く。
肩を落としながら笑う彼は遅れて、ゆっくりと私に近づく。
私は空いてる彼の右手に掌を重ねた。寒いという言い訳も同じように重ねながら、隣を同じ速度で歩く。
少しだけ出しゃばった私の行動を驚いたのか、彼は目を大きく私を見る。
「今だけだよ…笑」
私の独り言を届いているだろうか、いずれにせよ彼の火照った頬は夕陽と暗闇の間で綺麗に見えない。それでも繋いである手の温もりだけで
今日の温度は心地良かった。
そしてまた時間は過ぎていく。