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小雨降る新世界で実録猟奇

 梅雨入りなのか、朝から雨がぱらついている。今日は電車で行こうか、いやもう少し待って小降りになったらバイクで出ようか、そんなことを考えているうちに曇り空になってきた。雨の日の電車も楽しいが、今日はバイクにしよう。そもそも電車は酒飲むときと雨降ったときに乗るものという認識を改めないといけないかもしれない。

 その日は夜勤はなく、学校が終わってから時間がある。そんな日は映画だ。そういえば、雨の日に電車で新世界行って『ジャスティスリーグ』見たっけ。今日も電車にすればよかったかな。いや、これから晴れてくるし、バイクでいいや……と思ったら、小雨がぱらついてきた。天気予報が若干外れている。仕方ないや、と新世界へ。

 トップガンもガンダムも見たいが、まずは石井輝男二本立て。『明治・大正・昭和猟奇女犯罪史』『実録三億円事件時効成立』の、どちらも実話に材を取ったエログロキワモノ作品である。

 まずは『女犯罪史』から。妻の死因を調べるため、解剖医が過去の女性がらみの事件を調べていくオムニバス。「明治・大正・昭和」とあるが、対象の事件は扱っていない。東映ではよくあること。取り上げられた事件は、東洋閣事件、阿部定事件(ご本人登場!)、小平事件、高橋お伝の四本に、阿部定事件から派生した局部切断事件を面白おかしく紹介。どれも女の欲と情念の渦巻く事件ばかり、女の業がそうさせるのか、または男が悪いのか。映画は結局『わからん……』で締めくくられる。特殊メイクという概念がない時代のおどろおどろしい腐乱死体や業病のメイクに、繰り返される性欲の交わり、あぁ石井輝男映画だなぁ。オープニングから死体解剖で客のハートをつかむのですが、これがまた、巧みなカメラアングルと編集でそのものずばりをはっきりとは見せない、グロのチラリズム、これもまた石井輝男敵かと思う。
 
 オムニバス形式の中、ひときわ目立つのが小平事件で、これだけは女性が加害者ではない。戦後起こった最悪な婦女暴行連続事件を再現しているのですが、犯人役の小池朝雄がはまり役、というか『本当にヤってるのでは?』と思うぐらいの熱演でした。舌なめずりをし、目をギラギラさせながら獲物に近づいていき、逮捕後は武勇伝のように犯行の様子を嬉々として捜査陣に語る異常っぷり。これが、色を落としたようなモノクロの世界で繰り広げられるのである。暑い夏の盛りに汗を浮かばせながら犯行に及ぶ異常者の姿に、モノクロのクールなトーンでも、その暑苦しさが伝わってくる。

  続いて『実録三億円事件』。時効成立する一か月前に公開されたというから、これもまたキワモノ作品である。

 

 あまりにも有名な未解決事件を、当時の捜査資料と東映の見解で犯人像を作り上げ、ドラマ仕立てで見せていく構成。『女犯罪史』には本物の阿部定さんが出ていたが、こちらにも当時の担当刑事、平塚八兵衛さんが登場。この辺も東映っぽい。

 犬のブリーダー業よりも競馬で失敗することのほうが多い男が、その妻と共謀し、三億円強奪を企てる。内職のように、衣装や小道具を作っていく様子がジャズっぽい音楽に乗って進んでいき、実録物というかどこか犯罪映画を思わせる。無事に三億円を強奪したものの、今度はどこに隠すのか、そしてどう使うのか? この映画が面白かったのは、犯人たちは豪遊などせず、ごく普通の市井の人間として仕事に就いて時効が来るのを待っていることである。だが、旦那のブリーダー癖が思わぬ悲劇を呼ぶことに。石井監督の『御金蔵破り』や数多くの泥棒もの映画のように、悪銭身に付かず、なエンディング。そして後半からは事件を覆うベテラン刑事の執念の捜査を描いている。顔をゆがませ、時にユーモアを交えながら、飄々としつつもどこか芯が通った刑事役に金子信雄。いつものうさん臭さはなく、足で操作するタイプの昔ながらの刑事さんを熱演。そして、犯人は逮捕されるものの、事項が来て……というところで映画が終わる。ん? 若干フィクションが事実を追い越していないか? あと一歩のところで犯人は逃してしまうものの、犯人の負ったダメージも大きい、両者痛み分けのような形で映画は終わる。キワモノかと思ったら、純粋な娯楽犯罪映画でした。

 そして外ではまだ小雨が降っている。空腹なのか、体がふらふらする。ひょっとしたら寒暖差にやられたのかもしれない、とにかく何か食べようと思っても周りは串カツ屋だらけ。いつから大阪名物になったよ、串カツ! 多すぎるねん、と王将でレバニラ定食を食べて空腹を満たすのでした。

 でも、『女犯罪史』で小平が被害者に渡したバカでかいおにぎりや、『時効成立』で、犯人夫婦が台所で立ったまま食べてたにゃんこ飯がとてもおいしそうに見えたなぁ。

 

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