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天保・平成はぐれもの祭

 一週間、いろいろあってちょっと心身を休めておりました。とはいっても感染症とか体を壊したということでもなくいたって健康。先日は『孤狼の血LEVEL2』と午前十時の映画祭『座頭市物語』を。

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『孤狼の血』は前作から3年、役所広司の後を引き継いだ松坂桃李が広島のヤクザ抗争を抑えるために暴力も行使しつつ奔走しているのですが、そんな彼の思惑をも覆す狂犬、鈴木亮平が出所して……。平成3年が舞台、ということでつい最近と思いがちだけど、もう30年前のお話。見ているこっちが年を食ってしまったということか。前作のエリート新米刑事から一転、ヤクザとずぶずぶの暴力刑事に扮する松坂桃李のいい感じのチンピラっぷり。それでも親分だろうが何だろうが、邪魔者はみんな殺しにかかる鈴木亮平の狂いっぷりが凄まじい。ごっつい体格にとんがった耳、入れ墨をした悪魔である。犯罪物、ヤクザ物というよりもホラーの域に近い殺戮の数々。過去のトラウマから被害者の目玉をえぐるのが得意なのと、雨の乱闘シーンが多いので、なんとなく『ブレードランナー』を思い出す。自ら手を汚すことで広島の平和を維持してきたかのように見えても、松坂君は若かった。底を掬われる絶望的な展開に、ひょっとしたら鈴木亮平の対極に位置するかもしれないもうけ役、中村梅雀。こういう集団抗争物は脇役が光ると面白いのです。そしてラストはまさかの『タスマニア物語』だった……。

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 『座頭市物語』はもう何度も見ているけど、今回は4Kデジタルリマスターということで。なるほど、日本家屋や着物のディティールがくっきり見える。天保の頃、飯岡助五郎と笹川繁蔵という二大侠客にそれぞれ客分として入った座頭市と平手造酒、図らずも敵味方となった両者の友情と切ない別れを描く。シリーズ化され、バシバシと斬りまくる頃と違い、最初は慎重に、まずは盲目でありながら超人的な勘の冴えを見せる所から始まり、じわじわとその腕を披露していく座頭市。そこはかとないユーモアを交え、ヤクザ社会を嘆き、ライバルと対峙する。以降のシリーズのフォーマットが一作目ですでに完成しつつあった。伊福部昭によるボレロ調の座頭市のテーマ曲もここで完成。按摩にボレロ、である。

  初対面の座頭市に呼吸の乱れで持病を見抜かれる平手造酒は、この時すでに死に場所を見つけていたのかもしれない。しかし、いくら原作小説があるとはいえ、映画大量生産時代とはいえ、按摩が主役の時代劇というのは当時でも大冒険ではなかったのか、と思う。武士でも町人でもない、街道を流れ歩く異形。だからこそ今に至る人気シリーズになったのではないか。

 役人とずぶずぶの関係で、保身しか考えず暴力でしか生きていけないヤクザの醜さ、愚かさというのは天保でも平成でも変わらないものがあるな、と思った。

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