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人も神も怒る週末

 最近は昔の時代劇(時代劇はだいたい昔の話なので、この表現はおかしいのですが、このまま通す)ばかり見ているので、現代の最新時代劇(といういい方もおかしいけど、このまま通す)を見よう、ということで『仕掛人・藤枝梅安』を。

 豊川悦司の藤枝梅安は坊主頭にうっすらひげを蓄え、不思議な雰囲気。無表情に巨体が迫って、針を打ち込む姿は恐ろしい。針が刺さる瞬間の『ギリギリギリ』という音も痛々しい。かつてのように大セット大ロケーションがままならない現代の時代劇は、CGとミニチュアで江戸の町を表現。広大な、当時の様子に忠実であろう江戸の町に戸惑いを覚えるのは、テレビの時代劇等で『いつものセットの江戸の町』を見慣れたせいだろうか。広大な江戸の町の片隅で繰り広げられる暗黒人間模様。自分も年を取ったが、今まで若手だと思っていた人が重鎮の役を演じるところに時の流れを感じてしまった。

 

 とにかく薄ら髭の藤枝梅安の存在が不思議な映画。そして池波正太郎の原作小説に忠実な料理の描写がとても美味そうに見える。食べて、殺して女を抱いて、と人間の欲望に忠実な映画でした。冒頭、海から出現するトヨエツ梅安は、その巨体もあって、ガイラのようでした。トヨエツも巨体ながら敵役の天海祐希も長身、でかい男と女のお話でした。

 そしてその翌日。おぉ、早起きしてしてしまった。天気は悪いけど、行くしかないな、乗り遅れるな、この波に! ということで、何度目かのシネ・ヌーヴォ大映4K映画祭、大魔神一挙上映へ。

 4K版は去年も京都で見てるし、もう何度も見た三部作。でも、ここで見ないといけない。それはちょうど30年前、大学生のころ。まだシネ・ヌーヴォが東洋レックスシネマだった時に大魔神一挙上映を見た身としては、再びこの地で大魔神を見るというのはなんだか不思議な縁を感じたからなのです。あれから30年の月日を経て、フィルムからデジタル4Kへ素材が変わり、こちらも学生から色々あって兼業作家みたいなことになり、お互いすっかり変わってしまった。でも映画の面白さは変わらない。

 戦国時代を舞台に、各地で圧政に苦しむ民のために立ち上がる武神像。大映時代劇のノウハウと地道に積み上げてきた特撮技術が結実した傑作群。

  三本続けて見ると、大魔神が城壁を崩す、櫓の上の人間と目が合う、城門を破壊する等々似たような特撮シーンが多いことに気付く。これは何も手抜きではなく、一年で3本というハイペースのためある程度手間を省いた結果だと思う。とはいえ、各作品ごとに『これは!』と思わせるシーン(湖を割る、吹雪の中で暴れる)があるので、手間を省いてはいるものの同じフィルムの使い回しではなく、毎回それなりの手間はかかっているのです。

 美術、特撮、撮影、音楽にキャスティングと、どこを切っても大映時代、ごってりと濃厚な作品だけど、上映時間はすべて90分を切っているというのも驚き。ゆったりと時間が流れているようで、実はものすごくテンポがいいのです。

 そうしょっちゅう見たい作品ではないけど、スクリーンで見た日にゃぁ、帰宅してからブルーレイでリフレインしたくなる不思議な魅力のある作品たち。『大魔神』を駆けながらこの文章を書いていますが、もう中盤折り返しを過ぎたあたり。テンポがいいのか、こちらの筆が遅いのか。濃厚、というが密度がすごいなぁ。
 

 

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