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タンバ!タンバ!タンバ!と三十郎の影

 連休明けたら休みが来た。連休に連休取れないのはいつものことですが、おかげで連休明けの倦怠感がなく、いつものテンションで仕事もお休みも取り組める、というのもありがたいというか。
 
 そこでようやく先月末から始まっていたシネ・ヌーヴォの『生誕百年記念丹波哲郎祭・死んでも生きられる』へ。今回は『三匹の侍』『丹下左膳』『コレラの城』の丹波時代劇三連発。1964~65年の間に公開され、さらには他作品にも出演していたことから、丹波氏の多忙さがうかがえる。

 劇場ロビーには丹波作品のポスタービデオ、スチルがずらり。今回上映されない作品もあって、これを『哲ロード』と呼ぶらしい。

 

 まずは『三匹の侍』。黒澤明の『用心棒』『椿三十郎』はリアルな殺陣、人を斬ったときの効果音や血飛沫等々(本当は三船敏郎のキャラとユーモアも大きい)で時代劇に革命を起こしたと言われている。いわゆる三十郎ショックで、東映、大映も従来の作品からちらちら三十郎を意識した作品作り、リアルさを追及したり残酷さに磨きをかけたりと、試行錯誤を繰り広げていた。時代劇のイメージのない松竹もまた、それに乗っかっていたことがうかがえる。本当は松竹もたくさん時代劇を作っているのですがどうにもそのイメージがないのです。自分の勉強不足なのか、これ! というものがないからなのか。

 三十郎の影響を受けたとみられるテレビ番組『三匹の侍』の劇場版である。人気番組の映画化は今に始まったことではないのです。ぬかるんだ道を歩く侍の足元にカメラを向け、顔は写さないオープニングも『用心棒』っぽい。ついでに言えばぬかるみを歩く主人公、ということで、『荒野の用心棒』に対する『続荒野の用心棒』のようにも思えた。『用心棒』の影響はイタリアで残酷西部劇といわれたマカロニウエスタンの発展のきっかけにもなっているから、あの作品の影響力の大きさは計り知れないものがある。

 圧政に苦しむ農民に加勢することになった浪人芝と、元農民の桜、そして代官側につくも、芝の無茶な行動をバカにしつつも惹かれていき、仲間に加わる桔梗の三匹の浪人。主役の三匹に、代官が雇った浪人軍団、そして百姓と、結局は権力者の思う通りに動かされているだけ。虫けら扱いされる彼らにも五分の魂、怒りをぶつけるようなクライマックスの殺陣は、吹きすさぶ砂塵の中とにかく走って斬って、走って斬ってのマラソンみたいなチャンバラ。刀が折れると仲間が新しいのを投げてよこしたりと三匹のチームワークも抜群。

 劇場は高齢者だらけ、みん案テレビ版を見た世代なんだろうか。とにかく農民上がりの侍・桜の『こらえてつかぁさい』等々の岡山弁やユーモラスな言動に場内は沸きに沸いていた。これ以降、桜役の長門勇は何かと槍を振り回したり、愛嬌のある侍役(『いも侍』シリーズ)で人気を博した、らしい。
 
 椿三十郎の世を拗ねたニヒルさ、豪快さ、ユーモアが分離したのがこの三匹の侍ではないか、と勝手に『三十郎=ゲッターロボ説』を唱えてみる。

 

 続いて『丹下左膳』。丹波左膳は右利きというのがおおきなとくちょう。というか、人気キャラの設定勝手に変えていいのかな。そっちの方が立ち回りがしやすい、とのこと。ご存じ怪剣士丹下左膳が乾雲 ・ 坤竜の二振りの妖刀を巡る財宝争奪戦に巻き込まれる、というおなじみのお話。これをホームドラマに改変しつつそれでも面白い山中貞雄版は異色だったのだなぁ。
 
 三匹のクールな浪人とは打って変わって、常にフルスロットルで豪快な丹波左膳。隻腕で、棒きれのように刀を振るっての立ち回りもまた豪快。今回の丹波さんは柳生源三郎都の二役で、なぜ二役かといえば……。個人的には一人二役映画のキモは、いかにして同じ顔をした二人が同一画面に収まるのか、その際合成はうまく仕上がっているか? なのですが、今回はその問題も難なくクリア―されてました。財宝争奪戦というのは得てしてうまくいかないものなのですが、今回はあっさり解決。そうでもしないと柳生一門が破産してしまうからね。何よりも、プリントがとても美しいことに驚き、ヒロインの滝行シーンで胸が透け……。

 最後は『コレラの城』。最初、この映画を現代劇だと思っておりました。これら万円でゴーストタウン状態の城下町にやってくる浪人一人、佐藤勝のBGMに、旅籠に行けば、短筒持ったチンピラや銛を投げる巨人羅生門がいたりと、これまた『用心棒』っぽくもあるし、曲者ぞろいのチンピラにそれを束ねる浪人軍団、そしてお取り潰しになった城にまつわる秘密と、なんだかさいとうたかをの時代劇漫画みたいでした。とはいえ、さいとう時代劇も『用心棒』の影響をもろに喰らっているので似てしまうのは仕方なおないことか。丹波哲郎の初監督作品は、最初用心棒のパロディっぽく始まり中盤から二転三転、最後にあっと驚く仕掛けが待っていました。『コレラの城』は、砂金の城でもあり○○の城でした。チャンバラに見せかけた冒険活劇時代劇、でもどこかウェットなのは松竹のカラーなのか、演出なのか。お城と城下町がミニチュアで処理されて、最後にはお城の大炎上というちょっとした特撮もありました。

 売店で丹波プロマイドを購入。そして週末は機龍二本立てが待っているのです。



 

 

 

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