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超大特撮大洪水、幻の池!

 ケッタイな映画『NOPE/ノープ』を見た翌朝、バイクを走らせシネ・ヌーヴォへ。関連書籍でその存在は知っていたものの、長らくソフト化もなく、見る機会がなかった幻の作品、篠田正浩監督『夜叉ヶ池』が4Kデジタルリマスター化で、一週間の朝一上映でシネ・ヌーヴォでも上映されることになったのです。これは見ておかないと。

 劇場には超大怪獣の常連さんの顔もちらほら。泉鏡花原作、坂東玉三郎主演、岐阜県と福井県の県境に実在する夜叉ヶ池を舞台に、人間と竜神たちの関係、そして人ならざる者に魅入られた男の姿を描く幻想的な作品。玉三郎が演じる、竜神、村娘の二役はなるほど、言われなければ女優さんかと思うほどの女性以上に女性っぽい所作で、この作品をより一層ファンタジックに仕上げている。でも加藤剛のかつらと山崎努のひげ面がどこかおかしい。中盤に登場する竜神と物の怪たちのいでたちはメイク、着ぐるみを駆使して、どこか大映の妖怪シリーズのような雰囲気。

 そして、クライマックス。人間が密約を破ったために竜神の怒りが夜叉ヶ池を揺さぶった。轟音とともに水が天に巻き上がり、そして山を飲むほどの濁流となって村を押し流していく。生き物のように茅葺屋根の村を押しつぶしていく大津波。ミニチュア、実物大セット、そして合成を駆使した一大スペクタクルである、特撮を担当した矢島信男監督の、いやひょっとしたら日本特撮史上最高峰の津波シーンではないだろうか。

 ごうごうと流れる自然の今日に人間は己らの愚かしさを思い知る。でも竜神様だって人間のことなんかほっておいて引っ越ししようとしたじゃないですか。つまりどっちもどっち。だけど、人間の方が分が悪い。

 すべてが終わり、一人生き残った男が見たものはすべてが流され、巨大な滝と化した村の姿だった。これを撮影するために、鐘楼のセットをイグアスの滝に設置し、そのすさまじさを表現している。特撮だろうが、海外ロケだろうが、自分のイメージ通りの絵を作るためにどんな手段も惜しまない篠田監督の映画への愛情とどん欲さが垣間見えた。

 『ノープ』とはまた違った意味で『えらいもの見たなぁ』と思ってしまう映画でした。

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