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虚剣が唸る雛祭り

 シネ・ヌーヴォの大映4K映画祭、先週の雛祭りに『大菩薩峠』一挙上映へ。東宝の岡本喜八版は見たものの、あれは一本限りだったので、三部作とはどういう構成なのか、気になったのです。

 第一部は東宝版とほぼ同じ。静かなる狂気を秘めた剣客・机龍之介が斬り、犯し、そして新撰組に入隊し、京都で狂気に包まれ崩壊しかけるまでを描く。しかし、今回は龍之介を兄の仇と狙う宇津木兵馬と対峙して、第一部完。あまりにも長大な原作小説だから、映画化の際ははじめから三部作として構成されていたのかもしれない。そして第二部『竜神の巻』。辛くも七を脱した龍之介、今度は天誅組に入隊するも爆破に巻き込まれて失明。最後は再び兵馬と相対するものの、崖から落ちて生死不明。そして完結編は関西圏から再び関東圏へ。物語の発端となった大菩薩峠へ。龍之介の人生双六が振出しに戻ったのだ。ここでも崖から落ちてしまう。でも毎回美女に匿われたり、介抱されたりと、モテモテである。クライマックスは、村を襲った暴風雨のため河川が決壊、龍之介は我が子の名前を叫びながら、屋根に乗ったまま流されていく……。まるで怪獣映画のようなラストシーンだった。三部作通して、龍之介がただひたすらに、無目的に漂白し続け、その周辺を敵味方が行き交っていく。

 ただひたすらに剣にストイックであるがゆえに剣に取り込まれたような男の物語だった。そしてまたしても4K画質で当時の大映時代劇の撮影、美術のすさまじさに圧倒されるのでした。1、2部を三隅研次監督、3部を森一生監督が担当、同じ原作でも演出、撮影が違っているのが面白い。ガチガチに決めた画角の中でドラマを作る静の三隅演出に対し、クレーンやドリーでひたすらアクションを描く動の森演出だ、と思った。

 

 大映4K映画祭はまだまだ続く、あと何本市川雷蔵が見れるのだろうか。

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