男の純情とまたまた雷蔵ドロップアウト
実は腰をやってしまいまして。いわゆるぎっくり腰です。朝、洗面所で屈んだら腰が『パキ』って感じになったのでこりゃイカンと近所の整骨院へ。
何せ人を担いだりすることの多い仕事なので、それが溜まりたまってきたのかな、ということらしいのです。腰を痛めて整骨院のお世話になるのは10年ぶり。しかし、前回のように完全に痛めて身動きできない、ということもなく日常生活は普通に送れるのです、でも時々腰に違和感を感じるので、これ以上幹部を悪化させるといけないと判断し、仕事はお休みしました。しかし、体が動く。毎年この時期は体に異変が起こるのです。去年は無症状でコロナになったり、今年は腰だったり。週末のジェットジャガー&メガロ誕生祭にはベストと行かないまでも体を整えておきたい、と思うのです。
そんな中、ほぼ毎週通ってるシネ・ヌーヴォへ。今日の大映4K映画祭は『無法松の一生』と『薄桜記』。
粗暴で純真な人力車夫が、未亡人とその息子のために奮闘するお話、と大まかなあらすじは知っているのですが、本編を見るのはこれが初めてでした。
冒頭、二階の部屋からカメラは窓を抜け、往来へ降り立つという、今でも『どうやって撮ったの?』というシーンから始まり、無法松こと松五郎の心情を表すような、回転する人力車の車輪が時折挿入されたり、シュールな表現も見られますが、物語はストレートに、松五郎と未亡人親子のお話。幼くして父を失ったボンボンのために父親のように振舞い何かと世話を焼く松五郎の献身的な姿、そしてラストの意外な真相。戦時中に公開されたこの作品は軍部やGHQによってかなりカットされたそうで、そのせいか時々展開が飛んでいる、と思われる描写もあります。クライマックスのカメラと編集も踊りまくる祇園太鼓、幸せそうな松五郎の人生を多重露光という初歩的なトリックで表現したラストシーンは圧巻。
同時上映の短編『ウィール・オブ・フェイト~映画『無法松の一生』をめぐる数奇な運命~』で、検閲への経緯、デジタル化メイキングが語られる中、松五郎が未亡人に惚れていた事実も判明。身分違いの恋(軍人の未亡人と人力車夫)にぐっと堪える男の純情は、しかし、検閲であえなくカットとなってしまった。そしてその雪辱戦とばかりに、稲垣監督は戦後カラーでリメイクをし、ベネチアで賞を獲るに至ったのでした。ちなみに大学時代の恩師が出ていてびっくりでした。
初めて本作品を見て、漫才師のりおよしおの『ボン、ボンじゃござんせんか』のギャグの元ネタがわかったのと、杉狂児の髪型はのちのカトちゃんやコントでよく見るハゲ面のルーツでは? と思った。
『薄楼記』はカツライス、勝新太郎&市川雷蔵の絢爛豪華時代劇。忠臣蔵外伝ともいうべき、運命に翻弄された男二人の姿を描くのですが、この特集で見る市川雷蔵はいつもひどい目にばかり遭ってる。崖から落ちたり、川に流されたり、上司の後追いで切腹したり、頑張れば頑張るほど恨みを買って切られたり……今回はどうかな?
ダメでした! 同門の恨みを買って留守中に妻を犯され、離縁を申し込みに行ったら義兄に腕を斬られて、家を捨てて浪人へ。やっぱりドロップアウトですよ。やさぐれつつも妻の仇を討たんとするのですが、敵もそれを待ち構えており……。一方カツシンの中山安兵衛はご存じ高田馬場の決闘で名を挙げて、町娘からキャーキャー言われる人斬りアイドルっぷり。堀部家へ養子縁組が決まる等、雷蔵とは逆の出世コースへ。でもご存じ松の廊下刃傷事件で赤穂藩潰しで再び浪人へ。
一方雷蔵は敵が吉良の用心棒になっていることを知り、復讐のチャンスをうかがうも鉄砲で足を撃たれてしまう。隻腕の上、片足も動けない雷蔵は、雪の舞う中寝転がったまま、地を這うように敵を斬る、斬る! でも多勢に対してあまりにも弱すぎた。もはやここまで、と思ったところに駆けつけるカツシン。楽しい助っ人の登場で形勢逆転、ですが雷蔵は先に逝った妻の手を取るように事切れていた……。
武家社会の堅苦しさと歪、そして生類憐みの令で畜生に忖度しないといけない時代にもがきつつ、雷蔵はドロップアウトしてしまう。一方高田馬場等々で豪快な太刀捌きを見せるカツシン。カツライスの明暗がくっきり分かれたような作品だった。まだまだカツシンもつるんとした二枚目で、この後座頭市となって世間の裏街道を歩き、雷蔵は眠狂四郎でさらに虚無的になっていくのでした。
セットやロケはもちろん、テレビの時代劇を見慣れていると大映時代劇に出てくる衣装が本当に当時使われていたのでは? と思うほどにしっかりと作られている。武士のつける裃や編み笠にリアリティを感じるのです。テレビで見るようなぴんとしたものではなく、実用性がありそうな形をしている、というか。あと、武家の女房は皆お歯黒をしているとか。