見出し画像

タンバコタンバ・あの世巡り

 少し前、20~30年前の日本映画をランダムに数本取り上げると、必ず一本は『丹波哲郎』の名前がある。と、思う。それぐらいにチョイ役を含める出演作品が膨大なのです。

ここではセリフなし、ほんの数カットのみ出演

 どれが代表作かと聞かれると困るのですが、たぶんご本人の自信作はこれではないか? と昨日もシネ・ヌーヴォ『生誕百年記念丹波哲郎祭死んでも生きられる』へ。なんといってもこの特集の目玉、と個人的に思っている『大霊界』二作品連続上映ですよ。

 自ら『霊界の宣伝マン』と称し、バラエティーに出ては霊界トークを繰り広げていた大スターのライフワーク、普通なら世迷言と言われても仕方ない自説をエンタメの領域にまで昇華させた手腕は見事なものです。先日見た『砂の小舟』から約10年、予算も大幅にアップし、『ムー』の学研と提携した一大スペクタクル霊界映画! 公開当時、劇場が高齢者で超満員だったことを思い出しました。みんな気になってるんですよ、あの世のことを。

 

『丹波哲郎の大霊界・死んだらどうなる』は自動車事故で死んだ男の霊が導かれるまま霊界、そして地獄へ……というシンプルなお話。絵巻物の如くこれでもか、と幻想的な風景が次々と現れるのですが、タンバさんのイマジネーションを具現化するために集結した特撮スタッフ(大木淳吉、大岡新一、中野稔、三上睦男と特撮作品で名前をお見掛けした人たちに、樋口真嗣、長谷川圭一とこの後散々目にする人たちも!)が新旧取り合わせた精鋭ぞろい、この面々で怪獣映画が見たい、と思うぐらいに豪華なのです。

 大宇宙から始まり、スキャニメイトでタイトルがバーン! ついでに地球から飛び立ったスペースシャトルもなぜかドカンと大爆発! 

 事故死した主人公(丹波義隆・スペードエース)が霊界をさまよい、美しい景色に見とれ、そしてうっかりして地獄に堕ちて……主人公、何もしていない! それでいいのです、主人公の目を通してあの世の風景を見せることがこの映画の使命なのですから。大胆な合成、ミニチュアといった特撮にワイヤーワークも当時としてはかなりすごいことをやっておるのですが、バス一台を崖から落とした事故シーンが本物の事故現場のように生々しかったです。こうしたリアリティがあるから霊界のファンタジックさが印象強くなるのです、たぶん。


 ちなみに。霊界に住むえらい人たちはキイハンター、マッドポリスの混成部隊で、一番偉いのは冥府魔道の人。5メートルで半透明の若山先生が目の前に現れたら黙って従うしかないです。あと、全編にわたってタンバさんの霊界トークがナレーションのように流れてくるのですが、よくわかりませんでした。

 

 続いて『丹波哲郎の大霊界2 死んだらおどろいた!!』。前作の大ヒットによって作られた第二弾。前作が絵巻物風なら、今回は漫画的。前作よりもしっかりとしたお話が作られています。『無実の罪で死刑になったタンバさんが霊界の素晴らしさを真犯人に伝えようとするも怯えて自殺されたので、地獄へ救出に向かう』というギャグ漫画みたいな、バカボン的なお話なのです。死んだことに気付かないタンバさんが現世をうろうろし、他の地縛霊と出会ったり、警官の体を乗っ取ってカーチェイスしたり、娘の体を借りてコーヒーがぶ飲みしたりというシーンが楽しい。タンバさん『ゴースト/ニューヨークの幻』見たかな? 一方で、いつまでも幼稚園で母の迎えを待つ子供の霊もいたりするのが切ない。巨大な柱に跨り霊界へ向かうタンバさんと天使、『地獄に仏』をビジュアル化したような、泥沼地獄にハマった主人公たちを救いに来た巨大な霊界マザーシップ等々、今回も多彩な特撮が必見。何ということもない街の全景シーンにもミニチュアが組まれているのには驚きました。

 霊界の美しさにタンバさんが『いやぁおどろいたねぇ』と叫ぶことがよくあるので、タイトルに偽りなし。ちなみにタンバさんは霊界に行くと、奥さんとギラスピンや新マンのようにくるくる回転して、若い姿(丹波義隆さん・またもやスペードエース。実子だから仕方ない)に変身します。

新マンのウルトラスピン
ブラックギラス、レッドギラスのギラススピン。タンバさんもこんな感じ

 前回の若山先生に変わって霊界の女神さまにはジュディ・オング。背中にホタテを背負ってるような、それでも威厳のある神様でした。そしてタンバさんを陥れた真犯人に高橋幸治さん。白スーツの高橋さんは『ゴジラVSビオランテ』の白神博士そのままでした。3月の『ビオランテ』に続いて、ヌーヴォで二度目の白スーツ高橋さんです。高橋さんは自殺したために地獄に堕ちるのですが、地獄の描写は選挙活動とキャバレー、暴力が渦巻いて、まるで現生の縮図のようです。キャバレーで突如始まるけばけばしいミュージカルは、タンバさんがデビューした新東宝の映画のようです。とはいえ、新東宝の映画はあまり見ていないので、あくまでもイメージ。

ビオランテの高橋さん。でもこのまんま

 タンバコネクションを駆使したバラエティ豊かなゲスト陣も必見。若返って途中退場するも、今回も丹波さんの霊界トークがエンディングに流れます。音楽でではなく語りが流れるエンディングはまるで『宇宙からのメッセージ銀河大戦』みたいですよ。

 霊界巡りを軸にしつつも前世での因果、カルマの法則を持ち出すところに『砂の小舟』との関連を見出したのでした。
 
 二本連続で、タンバさんの言うところのあの世の様子、システムをお勉強したので、これでいつ死んでも大丈夫。でもこんな楽しい特集を組んでくれる映画館がある限りは、まだまだ生きていこうと思いました。これもタンバさんいうところの現世での修行、なのです。

 最後に、公開当時ラジオで『大霊界2』をクソミソに貶してた人がいたんですが、思ったよりもひどくなかったよ。前作よりもお話として出来上がってるし、タンバさんの旺盛なサービス精神に気付かなかったのかよ、ナントカいう映画評論家さんは。おかげで『そんなにひどいのか……』と十代だった当時見に行かなかったよ、もう人のいうことに左右されるものか!

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?