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共同開発。 HERON tent / shelterの話。

皆様お久しぶりです。muracoの村上です。相当久しぶりのnoteになってしまいました。文章を書く時間があまりなく、忙しいという言い訳でキーボードから遠のいてしまっていました。

そんな中、今までのmuraco事業の歴史の中でも大きなトピックになるようなプロダクトを、約1年半かけて開発していました。アパレルブランドの"and wander"さんとのコラボレーションプロダクトです。

今回のnoteでは、このプロジェクトの内側のall aboutを書いてみたいと思います。

HERONプロジェクト始動

and wander 池内さんからの連絡

"and wander"は池内さんと森さんが立ち上げたアウトドアアパレルブランドです。お二人とも、元々ISSEY MIYAKEのアトリエ出身ということで、その繊細なものづくりは有名で、我々も細々とですがアパレルプロダクトを生産する中で、洋服界隈の人たちとの会話から、そのモノづくりの細やかさを伝え聞くほどでした。

and wander

and wander 公式 online store

そんな彼らからのファーストコンタクトは突然にやってきました。1年半位前だったかと思います。ちょうどmuracoの事業も勢いがでてきた頃で、muraco事業部のメンバーも10名を超えたあたりでした。コラボレーションやOEMの相談が少しづつ増えてきた頃でしたが、そのほとんどが「muracoのテントに、自分たちのロゴをプリントして欲しい」というような内容でした。これらは僕にとってコラボレーションではなく、ロゴのプリントをしただけに思えてしまい、取り組むことはほとんどなかったのが当時の状況です。

ちなみに我々にとって「自社工場があり、モノを作れる」という部分が最大の強みです。せっかく取り組むのであれば、「共同開発」と言えるような、お互いが手や頭を動かし合って、一緒に作り上げるようなプロジェクトでなければ、強みや魅力が出てこないと感じています。

そんな中、メンバーと「どんなところと一緒に仕事をしたいか」という話になっていた時に"and wander"の名前が出てきていていました。ちょうどその話が出た翌日に池内さんからメールをもらったのが、とても印象的でした。嘘のような本当の話です。

コラボレーションという名の共同開発。

池内さんから初めてのコンタクトをもらってから、直ぐにご来社いただきました。既に思い描くテントのアウトラインや、構造のアイデアなどの多くをお持ちでそれらをどのレベルまでmuracoの生産背景で実現できるか、という流れで打ち合わせは進んで行きました。

我々も新興ブランドながら、テント周りの6年間の製品開発と、半世紀に及ぶ金属切削加工のノウハウを出し惜しみせずにこのプロジェクトに注ぎ込もうと思いながらプロジェクトに取り組みました。HERONは正に、お互いの強みやアイデアを持ち込んだ共同開発とも言えるプロジェクトでした。

サンプル制作

どんなテントにするのか

このテントに関して、池内さんからの大まかな要望は以下の通り。

  1. シンプルなワンポールテントとツーポールテント。

  2. メインポールはエクステンション機構を用いる。

  3. インナーテントはフライシートを設営した後に設置可能なギミックで。

  4. 出入口のジッパーに組み合わせるタープを作る。

詳細の仕様もほぼほぼ決めつつ、ファーストサンプルの制作に入るべく、中国のテント工場とコンタクトを取り、布まわりの設計を進めていきました。ロープやペグなどの備品類は実際にサンプルをいくつか製作し、都度、池内さんに確認を取る作業を進めていきました。
一方センターポールは、我々の得意分野で、自社のNORTHPOLEシリーズだけではなくTHE NORTH FACEさんの「PENTA POLE」の設計・生産等でノウハウが蓄積されており、今回のセンターポールに関しても、新規設計ながら早速製図に取り掛かることにしました。

THE NORTH FACE "PENTA POLE"

1st sampleの検証と修正点

約2ヶ月後、ファーストサンプルが出来上がりました。早速池内さんに連絡をとり、当社の近所の智光山公園で検証作業を行いました。もちろん製品版とは程遠い仕上がりながらも、ファーストサンプルにしては非常に完成度が高く、2ndサンプルの際にしっかりと改善できればその後の量産が見えてくるところまで仕上がっていました。

ちなみに検証作業をおこなったのは智光山公園の「BBQ広場」という場所で、少しだけですが、池内さんと営業の立石さんと、当社設計室の森らとBBQを楽しんだりもしました。「あー楽しかった!」

詳細部分の改善としては、「グランドシートへのセンターポール設置箇所マーキングの追加」「エントランス巻上用トグル設置箇所の調整」「インナーテントの中弛みの解消策」「フライシート頂上部の縫製補強策」「過剰なパーツの排除」「センターポールのアルマイト箇所の変更」「センターポールのエクステンション部分のワッシャー内径寸法の変更」などなど凡そ20箇所に及ぶ改善点が抽出されました。
またフライシートに、今回の我々のコラボレーションに込めた想いを英文にした物をプリントしようということになり、タタキとなる文案を僕が作らせていただき、and wander側で、ネイティブの方が読んで自然な言い回しになるように修正いただいたものを、2ndサンプルに反映させることにしました。

1st sample。”m” logoしかプリントされておらず、色も2色で検証。
センターポールの1stサンプル。
エクステンションポール(細い方のポール)にアルマイト処理をしてある。
量産モデルはこの部分にアルマイト処理は施していない。

2nd sampleの検証と修正点

更に2ヶ月ほどして2ndサンプルが到着しました。中国側、当社製造部にそれぞれ依頼した1stサンプルからの修正点はほぼほぼ解消されていましたが、まさかの別問題も発生し、中国開発のあるあるを、再度思い知らされることにもなりましたが、概ね量産進行出来そうなところまで、仕上がってきました。

発売開始までの作業

商品名をHERONに

大事な商品名は、智光山公園での1stサンプルのチェックを行った際に、智光山公園に営巣するサギ(白や灰色の大きな鳥)を見かけて「その英語名がカッコ良ければその名前が良いね」と言うことになり調べてみると「HERON」でした。まさか山下達郎さんの名曲「ヘロン」がこの鳥のことだとは知らなかった我々は、迷うことなくこの名前をつけることにしました。

商流の調整や、プロモーションの準備

商品名も決まり、粛々と進む製品開発の一方で、販路を含めた商流の整理や、サンプルを活用した販促物や営業ツールの企画立案が進んでいきました。この辺りのand wanderさんの動きは非常にスムーズで、且つ抜け目のないイメージで、このコラボレーションを通して、当社内に今まで得られなかった貴重な経験が蓄積されていきました。

特に「生産管理」と「製品のクリエイティブ制作」がしっかりと紐づいていて、製品ローンチ時期から逆算したスケジュールで全てが進行されていくというポイントは外から見ていて非常に参考になる部分でした。

それはもちろん当然の事なのですが、and wanderのチームは過去幾度も繰り返された製品リリースのサイクルで得たさまざまな経験値を、多くの工程に落とし込んでいるなと感じました。

量産工程

いよいよ量産工程に入りました。中国側にはデザイン仕様書通りの生産を依頼するとともに、量産抜き取り品を上げてもらい、再度池内さんと品質チェックを行いました。細かい縫製仕様や、and wanderさんのアイコンでもあるリフレクション素材に関しても、1stサンプルで剥がれやすかったプリント部分などの改善の為の最終チェックをおこなっていきました。

一方当社内の加工に関しては、4年程前に設備したCITIZENのBND51という自動旋盤と、DMG森精機のDMU50という5軸加工機をメイン加工機として設定し、それぞれのマシンオペレーターによる、加工プログラムの最適化と量産想定の工具調達を進めていきました。彼らの中にはここには書ききれない程の、加工に関わる部分の工夫やノウハウが存在しています。

当社は今まで俗に言う「多品種少ロット」を得意とする切削加工屋でしたが、近年muraco事業の拡大を見込んで、量産に対応する為の加工機の新設と更新を積極的に行なってきました。その軸は2つありますが、それは「工程集約」と「自動化」です。

「工程集約」は今まで複数台の加工機で加工していたワークを1台に集約することで、「自動化」は文字通り自動的に材料を供給する事のできる加工機やロボットを設備することです。

CITIZENのBND51は給材機付の自動旋盤で、導入当初は全く稼働せず、当時存命だった父(当時の会長)からは「こんな的外れの機械入れやがって責任とれ!」なんて言われたりもしましたが、このHERONの案件などで、現在はフル稼働状態の状況を見てくれたとしたら、少しは安心してくれるのではと感じます。
※当てつけのように思えるのでお墓に報告に行くなどと言うことはしていません。

CITIZENの加工機もDMG森製機の加工機も、ここ5年以内に新設したマシンでしたが、そもそもこの2台がなければHERONは生まれてこなかったはずです。

小さな町工場でよく語られる話に「社長が機械好きで、新しい機械を導入したが、現場は誰がやるんだ?となって殆ど活用されない」と言うものがありますが、当社の若手オペレーターは、新しく、且つ未知の領域にアレルギーを持つどころか、むしろちょっと楽しそうにそれらの加工機に向き合う者が揃っていて、この社風的な部分も含めて、常に前向きな空気感の中でHERONの量産は進んでいきました。

アッセンブリー工程

量産進行と同様に重要度の高いのが、アッセンブリー工程です。もちろん当社には組立を担うロボットのような設備はないので、メインポールの接着や組立は人の手で行われます。その為、誰が組み立てても均一な品質になるように、様々な治具を制作し「この組み合わせしかできない」「この位置にしかならない」ようにしていきます。
この工程はmuraco事業部、設計室の担当が治具の設計と3Dプリンターによる生産、更にアッセンブリー工程自体の作業指示までを担当していきました。

ジョイントポールの位置決め用治具

商品の出荷

こうして組立工程が終わり、and wanderの生産管理の担当者さんと、当社の倉庫で検品作業の確認を行いつつ、最終的な納品形態になるまでの、取説の封入や、タグ付作業などを行い、10t車 2台、と4t車 1台に積み込まれ、and wanderの倉庫へ出荷されていきました。海外生産の商品が我々の倉庫に入ってくる際にはもう少し大きなコンテナ積みで輸入することはありましたが、こと出荷ということになると過去最大の出荷量でした。
このHERONたちが一人でも多くのお客様に届けばいいなと思いつつ見送る我々でした。

こうして、いよいよ3月17日。全国のアウトドアショップ様、and wander直営店、and wanderオンラインショップ、muraco TACHIKAWA、muraco FACTORY BRANCH、muracoオンラインショップで発売開始となります。ドキドキします。

and wander POP UP EVENT開催!

and wander POP UP EVENT @muraco TACHIKAWA


3月17日から26日はmuraco TACHIKAWAで、and wanderのPOP UP EVENTを開催いたします。HERONの実物展示(2pole, 1pole両方)をand wanderのアパレルや小物商品と共に展示販売いたします。会期終了後もHERONは展示強化する予定です。仮に展示が無くとも、TACHIKAWAのスタッフにお声がけ頂ければ、その場で設営いたしますので、現物を見て決めたいという方は是非お越しください。
直営店購入のお客様にはand wander  x muracoのペグバッグをプレゼントしています(数に限りあり)。是非皆様のご来店をお待ちしています。




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