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外に目を向けて悪いことはない

こんにちは、八木です。東京大学 生産技術研究所の佐藤洋一研で博士2年目になります。一人称視点映像解析を軸にコンピュータビジョンを用いた人物行動の認識とそれを活用した行動支援の研究を行っています。この記事はMicrosoft Research Internship アラムナイ Advent Calendarの18日目になります。

私は2018年の9月-12月の3か月間をMicrosoft Research Asia(MSRA)のMedia Computing Groupにて過ごさせていただきました。当時の体験の殆どは研究留学AC(これもおすすめです)の1年前の北京を振り返る:MSRAインターン体験記に書いたので当時の話以外の話を含め書いてみようと思います。

私とMSRA

私にとってMSRAインターンの第一印象は「研究者志望の登竜門」で、諸先輩方の体験を見聞きして一度行ってみたいと思っていました。初めての国際会議採択をこなし、先生方に後押しされて修士2年次の後半を使っての滞在でした。

私が訪問した2018年(今どうなっているかは分かりませんが)、MSRAはAIブームの真っただ中にありました。優秀なリサーチャーには数多の志望者が群がり、私も選考の結果志望とは別のグループに割り当てられるなど、予想外の展開がありました。これは私の準備不足によるものが大きかったのですが、互いのゴールがすり合わせられていないためメンターと思うようにディスカッションが出来ず、やみくもに試行錯誤する→進まないので報告できない→ミーティングの頻度が下がる→軌道修正が効かなくなる→...という負のループを形成し期間中成果を出すことはできませんでした。

MSRAの研究所に来て最も印象的だったのは数百人というインターン生が将来を夢見て研究に取り組んでいる所でした。1フロアにあれだけの人数の学生が研究しているのはどこに行っても見られないでしょう。メンターである正規のリサーチャーも如何にして成果を生み出すかに腐心しており、(私と違って)周りの多くのメンバーは適度にプレッシャーをかけられながら働いていたように思います。

そのストイックな姿勢は国内の研究室では見られないもので強い衝撃を受けた一方、性能を上げて採択されればよいというような精度主義の横行であったり、メンターの権限が強いためインターン生の自由度が低い(これは一長一短あると思います)等の問題があったことも事実です。当時の日本人同期(私含め9人いました)と今後の就職・研究どうしよう等と夕方や深夜に雑談したり、コントリビューションとは何だろう、良いコラボレーションとは何だろうと考えるきっかけになる滞在でした。

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海外訪問が与えるインパクト

上に書いたように私のインターンは研究面では芳しいものではなかったのですが、今まで研究室でゆったり過ごしていた身を大きくゆさぶる体験でした。インターネットの普及により世界中の論文は居ながらにして入ってきますが、1人1人が何を考え、どのようなゴールを描き新しい研究を生み出すかを目にする最短の手段はその場に身を置きじっくり話をすることだと思います。

例えば、2018年・2019年の夏に参加したICVSSは自身初のヨーロッパ訪問であると同時に知的にも贅沢な体験でした。これはシチリア島のリゾート地に研究者約150名を幽閉して行われるサマースクールで、コンピュータビジョン分野のトップ研究者(本当に一の人しか来ない)の講義をみっちり受けられるというものです。それ自体が面白いだけでなく同時に参加している150名超の学生・社会人たちと1週間共に過ごすため、ヨーロッパを中心とした各国の研究者たちのキャリアや考え、文化を素早く吸収することができました。

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また、今年の2月には指導教員に声掛けいただいてアメリカ・Menlo ParkのFacebook社内で行われた一人称視点映像解析プロジェクトのワークショップに参加することができました。参加者はFAIRのメンバー、各参加機関のPI+少数の学生で、プロの研究者が介すとこうして面白い仕事ができるのかと強いわくわく感と感銘を受けました。

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このワークショップに参加したときは修士以来のテーマがうまくいかず挫けていたところだったのですが、そこで今の研究テーマ(手-物体インタラクションの認識)に出会い、今は楽しく前向きに研究に取り組めています。

本当は今年の8月からCMUで訪問研究できる予定だったのですが、これは残念ながら昨今の状況により頓挫してしまいました。これは仕方がないのでまたの機会を狙っていきたいところです。

こうして振り返ってみると、MSRAインターンを含む海外訪問1つ1つが私の選択に強い影響を与え、今の私を形作ってきたのだと思っています。

近況

年始にテーマを手-物体インタラクションの認識に変え心機一転迎えた博士2年目はテーマだけでなく方針も変え、可能な範囲で周りを巻き込む形の研究を心がけています。メインのテーマでは後輩を巻き込みつつざっくばらんに互いの進捗を話す場を設けたり、メイン以外でも有志でウェアラブルな人物行動支援システムを作る取り組みを行うなど、成果にフォーカスしつつも自由に楽しく仕事するスタイルを模索しているところです。

面白いことに、サブでやっていた研究が3日前にヒューマンコンピュータインタラクション分野の上位国際会議であるIUIに採択され、晴れて博士1本目の研究がHCI分野から出ることとなりました(概要はこちら)。もう博士課程生活も後半ですが、ようやくスタートラインに立ったような気分がしています。

まとめ

Microsoft Researchインターンを含めた在外研究・訪問は良い意味であなたに強いインパクトを与えてくれます。研究室や会社の中が居心地が良く同質性の高い空間になってしまうことが多い中、全く異なるカルチャーを持つ組織に参加することは、自分の中で何を大事とするか・バックグラウンドが異なる人とどう協同していくかを身をもって知り自身の価値観を大きく更新するチャンスとなります。

現状のコロナ禍にあっては中々外部訪問が厳しいのも事実ですが、インターン・ワークショップ・サマースクール等どんな形態でも良いのでで外に出る機会を設けることをおすすめします。楽しくがんばりましょう。

最後になりますが、インターンの提案をくださった佐藤先生、それを後押ししてくださった米谷さん、受け入れ手続き等親身に行ってくださった鎌倉さんにお礼申し上げます。



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