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寝返り 自転車事故重傷記5

木曜。

手術の選択肢が消えて今後の予定が未定のまま、初めの病院での入院生活を再開した。顔面骨折と頸椎骨折は保存を選んだので、後は縫合している唇の傷が治れば退院の話が出てくるものだと思っていた。

朝。歯科の男性医師が初めて回診に訪れ、私の口を開いて中を見るなり、「あぁ、だいぶ(右側が)浮いてますね」と言った。さらに、間髪を入れずに治療法として顎間固定(がっかんこてい)が最適だと断じた。

『なにを今さら』

そのあまりに乱暴で無礼な態度に大病院の名医の見解も交えながら反論すると、とりあえず、夕方に診察室に来てくださいと言われた。

夕方。どこの歯科にもある歯科特有の椅子に座ると、頭上からフィルムを口の中に入れて噛んでくださいと指示された。

口の左側。こちらは事故以降、歯の当たりが強くなったと感じる側で、難なくフィルムを噛み締められた。医師がフィルムを引っ張って抜こうとしても動かない。

右側。こちらは名医に「若干」の浮きがあると言われた側で、フィルムを噛みたくても噛めない。目一杯歯を食いしばってみたが、するりとフィルムが抜けていき、『この浮きは放置できないでしょう』という医師の訴えの正しさを無視できなくなった。

しばらく話し合った結果、顎間固定をすることにいったん決まった。名医がまず第一に選択肢から除外し、肉体的、精神的につらいと宣言したものを受け入れようとしていた。

病室に戻った後、いくつか質問したいことが浮かび、看護師を通じて歯科の医師と連絡を取ってもらうと、医師はわざわざ病室に来てくれた。

そして、先ほどの診察後、CT を見直してみて、本当に顎間固定でいいのか考え直したこと。手術の方がいいのじゃなのかと思いが傾いていること。私が先日診察で訪れた大病院の形成外科ではなく、同じ病院の歯科に恩師がいて、CT を見てもらうと、やはり手術だと即断したこと。その人は手術の技量がとても高いこと。もし希望するなら、その大病院で、その医師が手術するまでの手配を全てすると熱っぽく語った。

確かに、あの名医は誠実だが、頼りないところがあった。診察に自信が持てないことを隠し切れないでいた。「知らざるを知らずと為す これ知るなり」。あの医師は賢人でもあったが、私は寝返り、この歯科医の経験値と自信、熱意にかけてみようと思った。

「お願いします」

歯科医師は、あす朝いちで私の主治医にかけ合うことを約束してくれた。

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