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「ナインティナインのオールナイトニッポン」と私

4月30日

地獄のような数日間だった。

岡村さんが生放送で失言をした。
失言はネットニュースになり瞬く間に大炎上した。
人格を否定され、ボロクソに叩かれ、テレビ番組の降板を求める署名活動までされていた。

この状況は一体なんなんだ。

十年以上聴いている番組だ。イベントに参加した事もある。
そんな番組が最低最悪のラジオとして罵詈雑言を浴びている。

悔しかった。
秘密基地に土足で上がり込まれメチャクチャにされている気分だった。
それでも本人の言葉を聴くまでリスナーは耐えるしかないと思った。
明らかな失言。できる事は番組に叱咤激励のメールを送る事だけだった。

木曜深夜。
【岡村隆史のオールナイトニッポン】が始まる。
放送開始直前、ポケットラジオ片手に家を出る。
じっとしていられず散歩しながら聴く事にした。

一時の時報。
岡村さんの謝罪。
ひたすら重いトーン。
何度も言葉を詰まらせる。
絞り出すような声でただただ謝罪を繰り返す。

聴いていられない。辛すぎる。

何かにすがりたくてツイッターを開く。
リスナー達の実況ツイートが並んでいた。
皆、同じ気持ちだ。逃げずに放送を聴こうと思った。

突然、物音。

『やったなお前!』

心臓が止まるかと思った。
矢部さんの声だ。

『もう、もたんやろ。二時間』

心のどこかで来てくれると信じていた。
涙が出た。

『公開説教しようと思って。今日は』

岡村さんへの説教が始まった。
リスナーにも酷くショッキングな内容だった。
ただ、優しく叱るような口調に愛を感じた。

更にまさかの展開。
「オカムセンター試験」を二人でやる。

岡村『ごめんなホンマに』
矢部『かまへん』

国道沿いを歩きながら爆笑した。
胸がいっぱいになる。

エンディング。
矢部さんは最後までいてくれた。

矢部『わーわー言うております』
岡村『お時間です』
二人『さようなら』

うわ。思わず声が漏れた。
5年半ぶりの締め挨拶だった。

軽い放心状態のまま帰路につく。
楽しいラジオでは決してなかった。
でも不思議と気分は清々しかった。

騒動がこれからどうなるのかは分からない。
だけど岡村さんには矢部さんがいる。
何とかなるだろうと思った。

実際、翌週の放送にも矢部さんは来てくれた。
仲直りしようとする友達同時みたいな雰囲気。
ニヤニヤしたしホッとした。

そして、その翌週。

5月14日

番組冒頭から声が明るい岡村さん。矢部さんもいる。
大事なお知らせがあるという。
またソワソワしてしまい家を出た。

岡村さんが嬉しそうに喋る。

(このラジオを変えるには)矢部浩之しかいないと』
『電話して、「頼む」という話をさせて貰ったんですけど』
『そしたら相方も、「分かった」と言うてくれたんですよ』

ナイナイのオールナイトが復活する。
実感が沸かない。

『改めて、2人で、再スタートさせて頂く事になりました』
『そのスタートの日なんですが……』
『5月14日、つまりは、今日と!いう事でございます!』

この言葉と拍手の音で「あ、マジなんだ」と理解した。
慌ててツイッターを開く。
リスナーも皆、驚いている。驚かない訳がない。

タイトルコールの話。
怒鳴りの話。
心臓がどんどん早くなる。

岡村『それじゃ行きますか……』
矢部『じゃあ行きましょう……』

二人『オッケーイ!ナインティナインのオールナイトニッポン!!』

こんな事が……。

矢部浩之でHOWEVER。
懐かしいフィラー。
新しい番組ハッシュタグ。
矢部さんの点取り占い。

夢でも見てるんじゃないかと思った。

正直、このラジオは終わってしまうと思っていた。
勿論ナインティナインは終わらない。
だけどラジオを立て直す事はできないだろうと。

ところが矢部さんは帰ってくるしラジオも続く。
こんなの夢としか思えない。

そしてエンディング。
「月夜の星空」が流れ始めた。

その時、僕は一回目の岡村歌謡祭の事を思い出していた。
イベントの最後、ホブルディーズが「月夜の星空」を演奏する。
スクリーンには岡村さんと矢部さんの写真が次々映し出されていた。

『君が夜空の星ならば 僕はそこまで飛んで行く』
『きっといつかは きっといつかは 二人で』
『二人で あの道を歩こう』

そんな日が来るといいな、と思いながら客席で泣いたのを覚えている。

深夜三時の公園。星がキラキラと輝く夜にナイナイのラジオが帰ってきた。

7月16日

さて。
【ナインティナインのオールナイトニッポン】だ。
再出発から二か月が経った。

面白い。今一番楽しみなラジオかも知れない。

矢部さんのトークゾーンが新鮮だ。
「せーーーの!」のコーナーが意外と興味深い。
桑田ヤベスケ、タカシオカムラ、リスナーのミニコントが楽しい。
なにより、2人でラジオを作っているという空気が心地いい。

いつの間にか「いい感じ」ではなくなってしまった二人。
そんな二人が再び手を組み笑いを届けるラジオ番組だ。
つくづくドキュメントが似合うコンビだなと思う。

今でも時々あの失言をネタにしたネットニュースが現れる。
アップデートした番組内容に思う所あるリスナーもいるかも知れない。
僕もこの記事に書ききれない思いがある。

それでも、僕はナイナイのオールナイトが好きだと言いたい。

楽しそうに笑う岡村さんと矢部さんの声を聴く。
やっぱりラジオっていいな、と思う。