見出し画像

ディプロマシーにおけるアドバンテージ、及び形勢判断

 最近、Twitterを利用してオンライン上でディプロマシーというボードゲームをやっている。

 優雅にも4日に1度ターンの更新を迎えるというペースであるため、舞台となっている第一次世界大戦の史実の終焉の年である1918年にたどり着くにはプレイヤーが全員急用など入らずに最短で更新を迎えていったとしても約4ヶ月を要する。

 さて、このディプロマシー(外交)というボードゲーム。全てがプレイヤー間の外交で決まり、運の余地がない……というコンセプトだ。初期盤面でこそ中立の補給地(マップに34ある補給地を獲得して軍を増やしながら、過半数の補給地を得ることが目的だ)はあるものの、基本的にはこれらの中立補給地は初年度どこかの国に吸収される。実質的にはゼロサム有限確定ゲームと言ってよいだろう。

 さて、このゲームは7プレイヤーで補給地を争うわけだが、1カ国で複数の国と対立すれば、よほど国力差がない限りすり潰される。逆に複数の国で1つの国を攻撃すれば効率よく補給地を得ることができるわけだ。

 そうしてこのゲームをプレイしていると頻繁にぶつかる問題が「どこと同盟するべきか?」というものである。心情や信頼、同情といった精神的なものも強く影響を及ぼすが、一旦それは棚に上げてフラットに考えた場合、「今、どこが優勢(劣勢)か?」という問いを頻繁に繰り返すことになる。

 最もシンプルなのは補給地の数だろう。補給地から年度末に軍隊を得ることが出来る。多くの軍隊を持っている国は強い。過半数の補給地の獲得、というゲームの勝利条件からしても最も大きいファクターだと言える。

 だが、当然それだけではない。将棋やチェスにおいて駒の損得だけが全てではないように、このゲームにも補給地の多寡以外の評価基準が存在する。そして重要な点として、極論毎回最善手を指せばそれでよい将棋やチェスと比べ、多人数のゲームであるディプロマシーは他の国の形勢を判断し、より自らが有利になる同盟を結ばなければいけないのであるから。常に部分的な最善手を指しても、周囲の国が強大な敵だらけであればあっさりと敗退しうる。

 そこで、ここではディプロマシーにおけるアドバンテージについて、いくつか整理してみた。特に外交上のものではなく、盤面上の分析しやすいものに強く着目している。


ディプロマシーにおける盤面。ドイツやロシアといった国々を担当して制覇を目指す。

1.国力、及び軍の数

 国力(占領済みの補給地の数)及び軍の数は、盤上において最も明快なアドバンテージである。国力と軍の数は多くの場合一致するが、国力に合わせて軍が生産/削減される春の前に包囲殲滅を受けたり、軍を解体したりするとズレが生じる。春に何らかの事情で生産しそこなっても同様だ。

 このズレが生じた際が問題で、実際の国力よりも軍の数が少ない場合、「将来的に軍隊を得るが、現状は少ない軍で多くの領土を守っている」と見られ易い。(つまり、よいエサだ)たとえ1ターンでもそうした状況に陥ることを軽視するべきではないだろう。

 逆に軍隊を失わなかったものの、領土を取られて奪取が困難という状況だと領土に対して多めの軍を1ターン限定で持っていると言えるだろう。領土を失ったとしても悲観的な状況に陥らず、出来る限りこの1軍に高値を付けて売り飛ばすなどを考えるべきだ。他国も、来期になれば消える軍であれば驚異としては割り引いて考えやすく、協力を望みやすいかもしれない。

 国力は最も基本的なアドバンテージではあるし、ゲームの勝利条件に繋がるものでもあるのだが、このゲームは多対多のゲームであり、わかりやすい優位性を得た国はあっさりと包囲され衰退しかねない。このアドバンテージだけを得て勝利するのは不可能だ。

 だが、これは逆にこう言える。他国の警戒心を煽りにくい、別のアドバンテージを得ることが勝利の鍵であると。


2.駒効率

 国力から生産される軍隊は駒である。将棋やチェスで等価の駒をぶつけあっても優劣が付くように、ディプロマシーにおいても常に等価値とはなりえない。下記の図をご覧いただこう。

 ロシアとオーストリアが3軍ずつで対立している。だが、優勢なのは明らかにオーストリアだ。

 ロシアの内陸を脅かすガルシアへの進入に成功し、かつ3軍で肩を並べて連携も可能。あっさりとルーマニアを陥落させるだろう。

 一方ロシアのルーマニアに駐在するのは海軍、ゆえにオーストリアの内陸には攻撃すらも出来ない。かといってセヴァストーポリにいるのは陸軍であるから、重要地点である黒海に入るの支援を得ることもできない。ワルシャワの陸軍に至っては一人孤立している。この差が駒効率である。

 さて、この図は少しズルをしている。初期盤面からこうなることはありえない。なぜならオーストリアが初期に保有している軍隊の3つ目は海軍であるからだ。とはいえ、同じタイプの軍隊が並び立った盤面の効率の良さは理解しやすいと思う。

 このアドバンテージの特徴は国力ほどではないが、持続的な面があることだ。今季、しっかりと効率よく駒を並べている国はおそらく次のターンもそうだろう。逆にバラバラに軍隊が散っている国が攻撃を受けた場合、戦線を整理し直すまでにいくらか対価を支払う必要があるかもしれない。

 ポイントは持続性があることから、交渉の題材に使える点だ。まとまった軍は強いが、孤立し迷い込んだ軍が長期間補給地を維持するのは難しい。

 ゆえに、仮に自分よりも国力が大きい国と組む必要があり、相手のさらなる補給地の獲得は避けられない。だが、将来的な決戦に備えなければならない、といった条件のもとで交渉するならばこの駒効率を考えるべきだろう。

 たとえば北方と南方に分裂しがちなロシアに対して交渉するのであれば、自分から離れた側で軍を生産させたり、移動させるよう促すべきだろう。国力はコントロールできない場合でも、これで驚異を大きく減ずることができる。可能ならば、使い道の少ない地点に誘導するべきだ。

 陸軍と海軍も分断に使いやすい。例えばフランスが海軍を生産するにしても、マルセイユで生産する場合とブレストで生産する場合では影響を及ぼせる範囲が大きく変わってくる。イギリスであれば、ベルギーに揚陸させた陸軍は北欧に影響を及ぼせない。国や状況によって効率よくコントロールできる軍隊の種類や位置は異なるが、条件を引き出す場合、引き出される場合において念頭に置いて交渉すべきだろう。


3.選択権

 「手のない時には端歩を突け」という格言が将棋にはある。これが正しいかは別として、遮二無二常に戦争を仕掛けるのがアドバンテージを生むとは限らない。

 イギリスとドイツが争っているのを、フランスが眺めている場面だ。さて、この状況で一番得しているのはどこか? オランダを奪ったイギリスか?それともフランスから背後の急襲が期待できるドイツか。

 どちらでもない。最も得したのは戦争に参加しておらず、形を決めていない故に双方に交渉を持ちかけて、よりよい条件を引き出せるフランスだ。イギリスを急襲してもいいし、ベルギーあたりの譲渡を条件にドイツ攻撃をノーリスクで手伝ってもいい。

 同時に行軍の処理が行われるディプロマシーにおいて、後出しできることは極めて重要だ。「AとB、どちらに付くか選べる」という立場はそれだけで補給地1つをノーリスクで得られるといっても過言ではない。
 後出しでの選択権はかなり幅広い部分で得られる。このゲームでは行軍→撤退→調整(軍の生産、解体)の順番で意思表示と処理が行われるが、撤退は行軍を見てから行えるし、調整は行軍と撤退を見てから行える。つまり、周辺国の動きを確認してから、後出しで意思表示ができるわけだ。

 これは同盟が口約束程度の信頼性しかないこのゲームにおいて非常に大きな抑止効果を持つ。現代将棋においては出来る限り形を決めず保留するのが重要視されているが、ディプロマシーでもそれは同様だ。

 ただし、特徴というか弱点としてはこれはターンの経過とともに消失する傾向にある。瞬間的なアドバンテージであるから、無為に過ごしたり空振りをすればあっさりと虚空に消えるだろう。この移ろいやすいアドバンテージを持続的なものに変換する必要がある。


4.一方的な攻撃

 安全圏から相手を削るのはとても楽しい。リスクなしで利益が得られる、とまでは言わないものの、補給地喪失のリスクを負わないでこちらだけ敵の補給地に対して攻撃が仕掛けられるのは実に素敵だ。

 マップの角に存在し、無類の防御力を誇るトルコであるが、序盤の天敵にイタリアが存在する。そう、イタリアは卑怯にも地中海を速攻で進撃し、トルコの補給地を一方的に攻撃するのだ。

 このレパント定跡は忌々しいことにトルコ側から有効な反撃策がない。イタリアは一方的にスミルナへの攻撃やシリアへの揚陸、オーストリアやロシアとの共同作戦など幅広いレパートリーがあるのに対して、トルコは必死で防戦するのみだ。イタリアの補給地を脅かすのはなかなか難しい。

 その他にも序盤に係争地としてしばしば重要視されるチャネルや黒海、ガルシアへあたりが補給地ではないにも関わらず注視されるのは、これらへの侵入が多くの場合そのまま一方的な攻撃となるからである。

 一方的な攻撃は跳ね除けても補給地というリターンが得られない。跳ね除けるのに駒を使えばおそらく背後に隙ができるし、外交的なリソースを使えば手札が減ることになる。

 ただし、これらの攻撃は非常に意図がわかりやすい。おそらく前述した選択権とのトレードオフになるだろう。どちらを重視するかは個人の好みではあるかもしれないが、一方的な攻撃による奇襲は攻撃先の国の背後のプレイヤーに無条件で選択権という名のアドバンテージを与えてしまうおそれも大きい。選べるのであれば保留したいところだ。


 以上がざっくりとした盤面から読み取れるアドバンテージを示した。以下には意味のある文章はありません。(投げ銭です)


ここから先は

46字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?