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北米スタートアップ調査ガイドライン:情報収集方法編

はじめまして、オフィスで筋トレサービスのRepFitというスタートアップをやっております土屋と申します。不定期で若手スタートアップCEO向けに北米スタートアップトレンドの勉強会を小規模で開催しているのですが、最近以前にも増して僕個人の情報収集及び調査の仕方について聞かれることが多くなったので、ノウハウをシリーズで共有していくことにしました。今回は導入編となります。あくまでも僕個人の方法ですが、プロダクトのバリューアップ / バリュークリエーションに活かせて貰えればと思っています。

背景

僕は北米スタートアップの定量的な情報を2010年から、リストにまとめて落とし込む作業を日々の習慣として続けていまして、これまでに約5000社を調べてきました。習慣と言いましたが、僕個人として新しく生まれるスタートアップがどんな価値を提供しているのかを見るのが楽しく、限りなく趣味に近いものです。僕の属性を知っている若手のスタートアップの子達や、経営者、事業サイドの人達から、「こういうサービス、米国にない?」とい問いを受けることが少なからずあるのですが、「その領域だとこういうスタートアップ達がいて、それぞれこういうプロダクトをやっているよ」という領域俯瞰を共有し、ドメイン選定や戦略構築、ピボット時などに関して微力ですがサポートしています。

全てには当てはまらないかもしれませんが、日本においてまだ顕在化していない価値を提供している北米スタートアップを偉大な先人として捉え、彼らの事例を徹底的に学び、守破離で日本の市場に合うように形を変え、チューニングして提供するタイムマシン経営の手法は未だ有効だと僕は信じています。市場領域により差はありますが、北米のスタートアップトレンドはざっくり1〜3年遅れて日本にやってくると個人的には思います。部分部分でもあり文脈的にも差異ある場合もあり、法規制や絶対的な商習慣の違いで更に遅れて来るないし来ないトレンドや、逆に日本が進んでいる領域も存在し得ます。例えば海外にはタイムマシン経営を金融論とSEOを使いこなし、徹底的にやり切るベンチャーキャピタルが$1B以上を運用したりもしています。

大きな成功を目指す日本のスタートアップの人達が、北米の先人達の事例から学び、少しでもプロダクトの中長期的な戦略に活かすことができれば幸いだと思い、僕が行っている情報収集方法に関してまとめることにしました。

著者プロフィール

冒頭で書きましたが、現在はオフィスで筋トレサービスのRepFitというプロダクトを運営しています。米国は過去に計5年住み、サンフランシスコのスタートアップのCo-Founderをやっておりました。現在は自分のスタートアップへの注力の他、VCやスタートアップのBizDev的アドバイザーを適宜しております。

この記事の目的

スタートアップに関わっている、またはこれから関わりたいと考えている人達が、北米スタートアップの大枠のトレンドを情報収集によって俯瞰できるようになること。

情報収集方法:テックブログメディア

ここからが本編となります。僕が北米スタートアップトレンドを追うために行っている事はシンプルで本家TechCrunchをFeedlyでRSSにして追っていっています。具体的なプロセスは以下です。

1. TechCrunchをRSSする(毎日30〜40記事程)
2. GAFAなどテックジャイアントに関しては、彼らによるスタートアップへの出資以外の情報はさらっと見る程度にする(タイトルだけが多いです)
3. トレンドだとされているスタートアップやユニークで若い、コンセプト勝負のスタートアップを記事を実際に開いて、重点的に見る(僕は一応、全領域見ています)
4. それらをスプレッドシートに落とし込み、概要とわかる限りの定量データ(ユーザー数や売上など)をまとめる。追加調達情報なども追い続ける
5. アプリであれば実際にダウンロードして試してみる

なぜAmazonやFacebookなどの大手IT系銘柄の動きはそこまで注視していないかというと、情報が日本語化される事が多く、わざわざ英語で読むのが非効率だからです。その他、設立年数も大分立っていて、調達額も大きく、所謂出来上がっている大型のスタートアップに関しても、再現性がないと判断出来る場合、全ての情報は追いません。個人的には、日本語化される事が少ない傾向にあるシードからシリーズA期の北米スタートアップの情報の価値が高いと信じています。時間があれば有名なテックブログメディアを複数追うのもいいですが、コンテンツが多々重複するので、効率的とは言えません。

上記だけでもやり続けることは趣味じゃない人にとっては難しいので、その場合は自社の領域だけでも追うのが良いでしょう。例えばD2Cを考えているのであれば、EC周辺を追う、等。これに関しては、記事のタイトルから何系のコンテンツかを素早く理解するための慣れは必要です。サービスをこれから作る若い人達は、自分が好きもしくは情熱を注げる領域を追うことから始めるのがいいと思います。英語が弊害になるのであれば、Google翻訳の活用がオススメです(最近の翻訳精度、凄いですよね)。

各プロダクトの体験をより詳しく知るために

モバイルアプリなどは実際にインストールしてユーザー体験をすることを強くオススメします。加えてAppAnnieでダウンロードの推移も見ると、市場感も見えてきたりします。ウェブサービスであればSimilarWebもざっくりとしたユニークの増減の上下が一定期間見え、キーワードや流入経路などユーザーがどのようにそのサービスにたどり着くのがわかります。特に後者はユーザー理解においてとても貴重な情報源なので、SimilarWebは是非ともChromeのエクステンションに入れておきたいところです。

興味を持ち始めた又は起業準備中の方へのオススメソース

まだまだ知識量的にこれからとお考えの方は、日本のテックブログを読むのを習慣とするところから始めるのをオススメします。具体的にはTHE BRIDGEやTechCrunch Japanです。もしこれから本当に本気で成功を目指したいのであれば、Linkedin創設者のリード・ホフマンの参謀長であったBen Casnocha氏がリードから学んだ事として執筆した記事を読み解き、自分のものにする事をオススメします。英語かつとても長いですが、価値のあるキャリア形成のために確かなバリュー・方法が書かれています。Google翻訳でも良いと思います。

より詳しくなるためには

既にサービスインしていたり、ご自身の中で何らかの情報収集方法をお持ちの方向けに、追加でトライできる情報ソース・アクション方法を下に提示します。

■ 英語のReadingに慣れること:
* 効率が上がります。頑張りましょう。
■ 各記者に得意領域があることを知ること:
* 一つのテックブログを追い続けると各記者の執筆領域が見えてきます。得意領域である場合、競合などとの違いもわかりやすく書いてくれていたりと記事のレピュテーションの度合いが変わってきます。
■ ランドスケープからドメインを俯瞰する:
* CB Insightsがオススメです。ランドスケープに関しては「領域調査編」として別記事でまとめたいと思います。
■ 各専門テックメディアを見に行く:
* 例えばトラベルテックはPhocusWire、不動産テックであればinmanなど、各領域に専門メディアが存在している場合があります。より詳細なインサイトを手に入れたい場合、自分の領域のメディアを追うことをオススメします。
■Twitterの連続ツイートに関して:
* 北米のスタートアップCEO及びVCパートナーは自分の得意領域において、質の高い情報を連ツイする事があります。パターンとしてはブログコンテンツの補足説明や、連ツイのみがあります。例:プロダクト / グロースに詳しいa16zパートナーのAndrew Chen氏のスレッド
* D2Cならこの人、フィットネスならこの人、などありますので、自分の領域の第一人者を探してフォローすることをオススメします。
■ SF在住起業家がオススメする米国のトレンドやスタートアップの情報収集ソース:
* フードエクスペリエンスアプリのChompファウンダー Kiyo / 小林 清剛‏氏がオススメする厳選ニュース記事のLaunch Tickerとさらに濃い内容の有料メルマガThe Information。※Kiyo氏の日本語アカウントも有用な情報が多いのでフォローしたいところ。
* ラーメンD2CのRamen Heroファウンダー Hiro氏がオススメのD2Cスタートアップに関する有料のレポート / メルマガを輩出している2PM
* 月極定額ホテルサービス Anyplaceファウンダーの内藤氏がオススメするトラベル領域テックメディアのSkift

専門家へのヒアリング

上記をある程度習慣化出来たら、各領域の専門家(詳しいと言われている人)にヒアリングする方法はさらに有効です。無知から無知の知へとグレードアップできます。エンタープライズ、EC、ヘルスケア、不動産、その他様々な領域がありますが、やはり餅は餅屋です。例えば自分で1週間調べてクオリティの低い情報しか調べられないのに対し、彼らは5分で教えてくれる可能性があります。なぜなら専門家には標準知識があり判断基準があるからです。ただし、効率をあげるため、そして礼儀として必ず自分で最初は調べることを推奨します。

更に成功確率を高めたい場合、ITの栄枯盛衰を知っているドン的な人達に教えて貰うことも価値がとても高いです。歴史を知っているので、「そのサービスって昔の◯◯で、その時はXXという理由で失敗or成功したんだよ」という「ストーリー」を教えてくれます。個人的にとても好きな話であり、ワクワクします。つまるところ、彼らは日米のITの先人の成功例、失敗例の知識を大量に保有しており、それにアクセスさせて貰えるのは非常にありがたいことです。

考察を自ら出すことの大切さ

情報収集を習慣としてものに出来れば、考察を出せるようになってきますし、これがこの記事としては最もわかりやすいゴールであると断言します。「米国のこのサービスのユーザーへのコアバリューは◯◯かもしれないが日本だったら◯◯の層に向けて◯◯風に少し形を変えたらいけるかもしれない」といった考察や洞察をする癖をつけると良いでしょう。それらは行えば行うほど、パターン認識の分類も増え、精度とスピードも向上していくと思います。

危険なアクションとして、日米関係なくTwitterで共有されている記事のタイトルだけ無意識に目に入れ、知った風になるのは避けたいです。中身をちゃんと読んでもないのに共有することはもっと危険です。なぜならその話題を聞かれた時に答えられず、レピュテーションを損失させてしまう可能性があるからです。起業家とはある意味時間との戦いなので、戦略策定に重要な情報収集はとても大事であり、日々のインプットを折角なら100%プラスにしていきたいです。もう一つティップスとして挙げるのであれば、目の前の情報を捉える際に、定量・定性 / 感情・論理の4つをきちんと切り分けることをオススメしたいです。あくまで僕の見解ですが、上記4つを切り分けて本質を見極め、49%常に自分を疑い、 51%自分を信じて意思決定することができる起業家は、正しい方向への事業推進に長けている人達だと感じます。

最後になりますが長々と読んで頂きありがとうございます。少しでも学びがあれば嬉しいです。今後のシリーズとしては以下を予定しています。

北米スタートアップ調査ガイドライン
* 情報収集方法(導入編)← 本稿
* スタートアップ分類及び対策と傾向(初級編)
* 領域調査(中級編)
* 銘柄調査(上級編)

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