見出し画像

目上の人、呼び方事件

これは浅草のストリップの関係者と飲んでいた時の出来事だ。
浅草の暴走族の方々で、見るからに昔の残虐性を隠しきれていない。僕はその方々と仲良くなり彼のことをHくんと呼んでいた。
会話も楽しく盛り上がっていると、それを聞いていたYくんが急に「おいおまえHさんだろっと」キレてきた。僕はYくんのことも大好きだったが、少し固い所が前からある。
社会でいう伝統上司みたいな人だ。僕は意見をしてしまった。「Hくんでもいいじゃないですか? 」Yくんは声を強めて「おまえさんだろ目上の人なんだぞ。」「いや仲良くなりたいのでくんを使いたいんです。」と僕も意固地になっていた。彼は次第にヒートアップしていき「おまえよう なめてんのか?さんだろ?」「いやくんです。」僕もムキになってしまい一歩も引かなかった。

その場の雰囲気が徐々に険悪になっていった時、隣のThe極悪人みたいな顔をした人が「どっちでもいいんだよおっっ!」とYくんの頭をビール瓶でいきなりかち割ったのだ。鈍い音がして僕はぎゅっと目を閉じる。Mくんも Yくんに「どちらでもいいだろ。」と宥めるように言い放つ。僕の意地のせいでYくんがビール瓶でやられてしまった。
申し訳ない気持ちでいたたまれなくなった。

あとで謝りにYくんのもとに行くと「大丈夫、気にすんなよ。」と心の広さを見せてくれた。
泣きそうな僕の顔を見てYくんが片眉を上げて肩を優しく叩いた。

空気を読めなかったのは新参者の僕のほうなのだ。空気を呼んで仲間がビール瓶でかち割られるなら、自分が引くこと。
ここでは言葉で話すより、先に手が出る。
所変われば品変わる、常識も変わるのだ。まだ見習いの僕を庇ってくれたことは有難いが、それと同時に皆が楽しい時間を過ごしている時に険悪な雰囲気にしたり、取るに足らないことでやり合うと、こういうことになるんだということを同時に僕にも叩き込みたかったのだろう。
絶対に空気を読み間違えてはいけない、みんなの笑いが取れたことで仲間入りできたような浮かれた感情、奢りを今一度引き締めた夜だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?