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セルフGPテキストカバレージ(DMGP2023-2nd)

 トレーディングカードゲーム、通称TCG。それは決められた数のカードを束にして、与えられた手札の中からリアルタイムで戦略を組み立てながら勝利を目指す、戦略性とアドリブ力が問われるゲーム。

 TCGとはいえ、その数は百を越えるほど様々。その中でもデュエル・マスターズは特に競技性に特化しており、数あるTCGの中で最も激しく熱かりしカードゲームと言っても過言ではない。 

 デュエル・マスターズを決闘の舞台として選び、日夜決闘を繰り広げる各地の決闘者デュエリストが集まる最大規模の戦場。

 その名はデュエル・マスターズグランプリ、人呼んでDMGP。

 大勢の決闘者がそこで有終の美を飾るのを、少なからず目標にしてるのではないだろうか。

 そんな大舞台に挑戦するものがここに一人。

 (当時は)オービーメイカー使い、たこ焼きそば。

  
 まずはそんな彼が頂点を目指すべく選んだデッキ相棒についての経緯を語ろうと思うが、あれからかなり時間が経ったこともあり、当時の環境について覚えてない人も多いのでは無いかと思う。

 そのため、今回は最初に当時の環境について解説していこうと思う。

当時の環境(プロローグ)

 あらゆるプレイヤーをその名の通り絶望色に染め上げた神が眠りにつき、多くのプレイヤーが平穏が訪れたと安堵した事であろう。

 絶望神に苦しめられていた多種多様なデッキが長い眠りから目覚め、ほぼ全てのデッキが“メタカード”という名の重い足枷を外し、それぞれ思い思いに自分の力をぶつけ合う生き生きとした環境になっていた。

 ビート、コントロール、ソリティア。どんなデッキタイプでも勝つ可能性を秘めており、それが自分が好きなファンデッキだとしても勝てるこれ以上ない素晴らしい環境、あるプレイヤーにとってはまさしく楽園そのものだっただろう。
 
 しかし、一人一人の考え方が違うように、全ての人間が納得する世界などありえない。それは平和な楽園でも同じように。

 日本の極道達が警察の力だけじゃ抑えきれない海外マフィアや半グレ集団を暴力で抑えていたように、絶望神も少なからず社会秩序に貢献していたはずである。

 ならば、そんな荒くれ者の達の抑制する役割として必要悪的存在だった極道達が消えてしまったら⋯?

___そう、訪れるのは混沌カオスである。

 そこに広がるのは無法地帯。ありとあらゆるデッキが活躍するその環境はあるプレイヤーにとっては楽園だが、あるプレイヤーによっては地獄そのもの。

 仮想敵のプランニングの調整や対策しようにも数が多すぎて何を対策すればいいのか分からない。それ故に想定するデッキの数も無限、全てを対策するのは困難を極めた。

 
 それに加え、新殿堂で苦楽を分かち合った相棒を失ったプレイヤーがいたことも大きいだろう。絶望の神様とはいえ、崇められるべき存在であったことには変わりない。そんな心の拠り所としていた御神体が消えてしまった事は、多くのプレイヤーにとって耐え難い苦痛だった。

 
 ただいくら必要悪とはいえ、絶望神がやってきた非道は到底許されるものでは無い。極道も一般人に損害を加えてきたから規制の対象になった。いくら警察で抑制しきれない海外マフィアや半グレを抑制していたとはいえ、決して無罪にはならない。きちんと受けるべき裁きを受けて反省するべきなのだ。


___そしてある程度時間が経ったなら、なんでもありな無法地帯の混沌もそろそろ静寂を迎える。

 それは、それぞれが調和を図ったのか?

 ⋯否、新たなる権力者の誕生である!

 突如現れたスターマックスな鬼神が、その圧倒的な力で有象無象の木っ端を制圧してしまったのだ。

 さあ、GPまで残り1週間わずか。

 たこ焼きそば。が選んだデッキは如何に⋯!?

 プロローグおわり。

___

 GP直前にダークホースの如く現れたアナカラージャオウガ、通称みみジャ。

 元々アナカラー系統のデッキはアポロのようなアグロ系統に弱かったが、新規カードであるボンキゴの獲得により大幅な耐性を獲得。同じく新規カードの同期の妖精で自分のクリーチャーを守って盤面を固めつつ、頃合いを見てジャオウガで圧殺するシンプル且つ強力なデッキだった。

  
 当時の環境はアナジャがズバ抜けた勝率を誇っており、それに対し細かな盤面処理や5000VTで対策を図る青黒魔導具や赤青マジックなどのデッキがそれに喰いついている環境だったと認識している。

 そんな中、彼が選んだのは青魔導具。

懐かしいね

 新規カードのクロカミが、ストッパー能力で触りづらい盤面を触れるようになりつつ、新世壊に頼らずとも魔導具連打の$スザークでコントロールできることを一早く知り、実際に調整へ。

 アナジャに対してもジャオウガによる4killの直前に出してトリガー一枚で受かる状況をつくったり、かと言って盤面を硬めればクロカミ+魔導具連打+ゼニスザークでコントロールできる点を評価していた。

 当時ボロクソに言われてた記憶

 それ以外にも青魔導具というデッキは雑多耐性が凄まじく、持ち前のデッキパワーと無限EXターンで並大抵のデッキなら簡単に蹴散らせる点もあり、マジックやサムライなど新世壊を直接触ってくるアグロデッキに厳しかったが、それを踏まえても雑多なGP環境では青魔導具があっていると判断した。

 また、新世壊をエアヴォで交互に剥がしつつ2枚のガリュミーズを交互に回すことで、神の試練がなくとも無限EXターンを取れるループも確立したことから使用の線はより太くなる。

 堕呪ウキドゥを一枚採用して相手の山札を削ってEXウィンする戦略も考えたが、無限EXターンを得た時点で負けることはまずありえないし、それで負ける状況の方が稀で、ある程度はプレイングでケアできることから不採用に。

 さぁ、使用デッキも確立し後は対面の調整やプレイングを詰めるだけ。

 そう思った矢先、天地を揺るがす神のカードが現れる。

 煌世主ノ正裁Z。

 
 サバキZ愛好家の彼は、それを見ると同時に青魔導具をデッキケースにしまい込み、代わりに埃を被った裁きの紋章を引っ張り出したのは言うまでもない。

 プレイの確立、構築の洗練、裁きの紋章の枚数配分など。それからGPまでの残り一週間、彼はGPに向けた青魔導具の調整よりもGP後に使う新型サバキZの対面調整に明け暮れた。

 今でも何故こんな馬鹿げた行動をしたのか不思議でならない。ただ一つ言えるのは、GPの調整よりも優先したのはそれ程までにサバキZを『愛していた』に他ならないだろう。

 煌世主ノ正裁Zが登場した新弾発売後の翌日、新型サバキZで優勝するのはまた別のお話__

◇◆◇◆◇

 始まる第一回戦。こんなにも人が集まるのかと、初めて見る景色に思わず息を飲む。

 絶景ともいえる机に敷かれたその景色プレイマットを覆い隠すように、今日の相棒を無作為に並べるその手は、相手にも伝わる程大袈裟に震えていた。

 緊張を紛らわすために対戦相手と軽く談笑する。

 本来なら会うことの無い地域同士でも語り合える場になるのはGPの魅力の一つと言っても過言では無い。試合が始まる五分間の間にお互いの思い思いを語り合う。

 だが、我々は決闘者。

 この会場にいる全ての人間は同じ舞台で共に戦う仲間でもあり、好敵手でもあるのだ。だからこそ敬意を持って、目の前の仲間を倒すのみ。

 司会の「デュエマ・スタート!」の掛け声と同時に、カードを擦り合わせるリズミカルな音が会場内に響き渡る。

 戦いの火蓋が今、切って落とされた。

1回戦 赤青マジック

 
 先攻。5枚の手札の中には新世壊はない。しかし対面によってはクロカミやゼニスザークの盤面コントロールでも戦えるため、そう悲観することはないだろう。

 震える手を力で押さえつけながらエアヴォをマナゾーンに置き、ターンを返す。

 それに対し相手はカクメイジンをマナへ。

 「まずい⋯」心の中でそう呟きながら動揺を隠すも、額を流れ落ちる汗がそれを顕にしてしまう。

 当時の赤青マジックは今とかなり性質が違う。例えば上下ともに有効打になるヒメカットはテンプレに入っておらず、新世壊に触れるのはナポレオンの下面かAQsabbathの下面。尚且つ強力なルーターもコールドフレイムではなくケローラでの4ルック。

 ハンドの質が要求されるためゼニスザークのハンデスが有効打になることも少なくない。不利対面であることに変わりは無いが、悲観する対面でも無いのだ。

 落ち着いてバレッドゥを唱えて、手札を整えつつドルスザクを呼び出す準備を進める。引いた2枚の中に新世壊が。

 それに対しアクアビブラートを召喚。相手も順調な滑り出しだ。

 3t目、バレッドゥで引いてきた新世壊を盤面に。続けてゾメンザンを唱えカウントを1進める。次のターンに無月の門を開門するのは難しいが、それだけでも相手には十分な圧がかかっていること間違いないだろう。

 ゾメンザンを唱えた瞬間に相手の顔に焦りが見え始める。しかし、ターンの始めにドローしたカードの中に希望があったのか、先程の表情は一変。

 その目をキラキラと輝かせた。

 3マナ捻って唱えられるのは、どこかのガキ大将が歌ったのだろう、物騒な5 7 5の俳句。

 新世壊を破壊し、追い打ちをかけるかの如くビブラートがカラクリバーシに革命チェンジする。当然のように唱えられるのはパーフェクトファイア。

 祈りながら盾を確認するも、そこにシールドトリガーの姿はない。

 アンタップしたカラクリバーシがカクメイジンに革命チェンジ。増える手札と盤面、革命が革命を巻き起こすその光景はマジックショーそのもの。

 そこから先は言うまでもないだろう。

 5枚もあったシールドはまさにイリュージョンの如く、一瞬で消えてしまった。

0-1

  「割り切ってた対面だし仕方ない、切り替えていこう。まだまだ物語は始まったばかり」心の中でそう問いかけ、気持ちを切り替える。

 2回目の対戦相手の発表、指定の席に向かい即座にかける。初戦を負けた同士の対面。

 少し遅れて対戦相手が着席、特にトラブルなく準備を進める。時間が余ったのでまたもや談笑タイム。

 先程の敗北は気にしていないどころか「ここから8連勝すれば全然大丈夫です!」とにこやかな笑顔で喋っている様子は、あたかもこの会場の雰囲気そのものを楽しんでいるようだ。

 しかし彼はそんな鋼のメンタルは持ち合わせていない。

 傍から見ればそう見えるも、それはとって貼り付けたただの仮面。心の中までは綺麗に着飾れない彼はとにかくネガティブな感情が溢れ出しそうなのを必死に抑え、強がっているだけなのだ。

 今はとにかくこの感情を表に出してはいけない、この動揺が知られたらそれを利用されて『負ける』だけ。ただひたすらこの一心だけだった。

 喜色満面な笑みを浮かべるこの仮面で、最後までその下の表情を隠し通すことを誓った。

2回戦 赤緑ブランドstar.

 ゲーム開始の合図とともに見つめる5枚の手札。その中には特徴的な、一際目立つカードがあった。

 デッキに一枚だけ入ってる高レートの新世壊。「そうそうそうそう♪」と心の中で呟く。

 その奇妙な笑顔の仮面は、手札が良いのか悪いのかすらも分からない。多色であるブラッドゥをチャージしてターンを返す。

 相手がチャージしたのは勝太&カツキング。「まだ、何のデッキか分からないですね〜」と明朗な声が聞こえる。確かにこの情報だけでは何のデッキか判断しづらいが、事前に対戦相手のTwitterを調べた彼は、それが赤緑ブランドstar.だと見抜いていた。

 「4邪ですかね〜」とあたかも分からないフリをする。

 2t目がやってきたなら即座に無月フィールドを展開してターンを返す。しかし、相手もそれだけでは動じずにメンデルスゾーンで2枚マナを増やしてターンを終える。

 やっきた3t目。小考の末、あえて魔導具呪文を唱えずクロカミを出してターン終了。理想的な動きで調子づいたか、手札にある2枚のバレッドゥをパチパチと鳴らす。

 英雄タイムで新世壊を壊したなら減ったハンドをゼニスザークで刈り取る。かといって何もしなければ、軽減された魔導具を連打して卍壊まで目指すという完璧なプランニング。

 事前準備は万全。さぁ、やれるものならやってみろ!

 ボルシャックの名を継ぎし英雄から呼び起こされるは、世界を統べる大王。この瞬間、デッキ内のクリーチャーは全て意味をなさなくなってしまった。

 追い打ちをかけるようにボルシャックモモキングが攻撃し栄光ルピアが呼び出される。

 ここでボックドゥを踏めばドラゴ大王を返せる。期待を胸に力強く2枚の盾を確認するも、そこにシールドトリガーは無い。

 ターンが帰ってくる。無月の門は閉門してしまったが、まだ盤面にクロカミが残っている。完全な詰みでは無いはずだ。

 クロカミで軽減された魔導具を連打し、無月の門のカウントがありえない速度で進められる。新世壊の下に魔導具が4枚溜まったなら開門の合図。ガリュミーズを唱え追加ターンを獲得。

 マナは5枚。新世壊と魔導具を3連打してカウントを進める。無月の門は開かれなかったが、クロカミで三体のドラゴンを停止させたなら、少なくとも次のターン負けることはないだろう。

 無事にターンが返ってきて安堵する顔が見える。しかしその手札に有効打はなく魔導具が3枚溜まった新世壊を見ながら、悔しげな表情を浮かべてメンデルスゾーンを唱えるのみ。

 カツキングや英雄タイムでクロカミが壊されないかと内心ビクビクしていたが、無事に生き伸びたことに安堵のため息が盛れる。

 マナは6枚、潤沢な手札の魔導具のコストは全て1。そしてこのピンチを乗り越えろと言わんばかりに、上から駆けつけた神の試練。勝つための材料は全て揃っている。勝利を確信しながら魔導具を唱え続ける。

 危機的状況からの逆転劇。相手にとっては正しく絶望の物語だが、これこそ熱血の物語だろう。

 一人の可愛げな少女、それは数多の魔導具と世界を創り変えしドルスザクをも従わせ、神の試練すらも易々と乗り越える。

 
 やれることは全てやった。神の試練ループによる無限EXターンを証明してもなお念には念を入れ、クロカミで毎ターン盤面を捌きながら一枚ずつシールドを詰めていく。

 一枚。二枚。三枚。四枚。そして勝利を確信しながら最後のシールドを一枚、ブレイクする。



 危機的状況からの逆転劇。相手にとっては正しく絶望の物語だが、これこそ熱血の物語だろう。

 この言葉を覚えているだろうか。そう、その言葉が文字通りそのまま返ってくる。

 最後の最後で出てきてしまったシールドトリガー、勝太&カツキング。勝利の要のクロカミが手札に返り、ドラゴ大王でバトルゾーンに出すことを咎められる。

 無限のターンを取得したとはいえ勝ち筋が消えて、何も進展しないのなら大人しくターンを返さねばならない。

 手打ちでドラゴ大王を触れるカードは入っていない。しかし、まだ希望の光は残っている。

 山札は全て確認済みで、残ったシールド3枚の中にボックドゥとエアヴォがある事が確定している。つまり、相手の攻撃に合わせてST+のボックドゥでドラゴ大王を手札に返せばまだまだ勝機はあるのだ。

 せっかく手にした無限のターンをこのターンで終わらせる旨を伝え、ボックドゥ2枚でボルシャックモモキングとカツキングを止める。殴れるクリーチャーをドラゴ大王と栄光ルピアに調整したなら、手にした無限の時間をその場で手放した。


 SA2体ならボックドゥ+エアヴォで止められる範囲。マナは10マナあるが要求値はそれなりにある。一か八かの勝負に全てを賭けた。

 

 

 突如現れた巨大な改造ドラゴンに意表を突かれたか、思わず苦笑する。

 「3点からいきますか?」と笑顔で話しかけてみる。その余裕っぷりはまるで、自身の盾にギャプドゥがある事を確信してるかのように。

 しかし、そんな苦し紛れのハッタリで殴り方を変えるほど相手も甘くない。ドラゴ大王が残った盾を一気に叩き割る。

 予想通り現れるエアヴォとボックドゥ。しかしそれは、殿堂の称号を合わせし禁断の無双竜機の前にはただの小道具に過ぎなかった。

0-2

 『無限EXターンを得た時点で負けることはまずありえないし、それで負ける状況の方が稀だろう』

 その“稀”が今まさに到来してしまった。

 しかし3t目にドラゴ大王が出てくるデッキを考慮するだろうか?いやしないはずだ。

 今回は運が悪かった、それだけ。

 不運な事故に苛まれたと分かっていても、どこかスッキリしない自分がいる。ネガティブ思考な彼には耐え難い苦痛だ。

 
 「はぁ」と溢れる小さくて大きなため息。それと同時にスマホの画面に映し出されるのは3回目の対戦相手の名前。


 このままやっても予選突破する確率なんて1%もないだろうな。

 スマホの画面をそっと閉じると大きく息を吸い、プレイマットとスロースタートな相棒を机から持ち上げる。


「さ〜〜〜て!ここから7連勝すれば、わんちゃんオポ上がり狙えるんじゃね!?まだ全然いけるじゃん!?」

 ここで諦める訳にはいかないし、0.01%でも希望があるなら選べる選択肢は『進む』一択。

 新しい仮面を取り出した。

3回戦 5Cザーディ

 ジャンケンだけは強い。またまた先攻。

 手札を見て小考する。

 これはバレッドゥ連打でゼニスザークのコントロールを狙うか。ボックドゥはアグロ対面や墓地に置く魔導具として使うことも考慮するなら、マナに置くのはガリュミーズだろう。

 チャージしたマナを見て対戦相手の顔が若干歪む。マナに置かれたのはブレインスラッシュ。その表情と雰囲気から察するに5Cザーディだろうか。少なくとも相手が不利と感じている“何か”であることには変わりない。 

 ゴンパドゥで手札を整えて次なる新世壊を探しに行く。それに対し、相手も多色をマナに置き、次のアクションのための準備を着々と進める。

 まだお互いに出方を伺っているようだ。

 バレッドゥを唱えて手札を回す。まだ新世壊は見つからないがゼニスザークでコントロールする線も考えたら、この動きは悪いスタートではないはずだ。

 それに対し、相手はデドダムを召喚して次なる動きのための基礎を固める。デドダムの振り分け先を見るに次ターンでのロストRe:ソウルは間違いないだろう。

 トップから駆けつけた新世壊を迷わず設置。続けてバレッドゥを唱えて無月の門のカウントを1進める。

 いよいよ運命の時か。フェアリーミラクルをチャージしたなら迷うことなく捻られる5枚のマナゾーン。


 手札を全て捨てる覚悟を決めた。



 しかし唱えられたのはボルカニック。喜びのためか、思わず安堵のため息を漏らす。

 満を持した5t目。ブラッドゥを唱えて相手の墓地を洗いつつ無月の門を半分開けてみる。

 「勝て」と言わんばかりにゾメンザンが姿を見せた。

 2、1、2で一気に開門の準備が出来たならいよいよ開門⋯のはずだがガリュミーズの姿が見えない。

 堕呪エアヴォで新世壊を剥がしてゼニスザークを呼び出すことも考えたが、クロカミが居ない現状、新世壊を貼り直して再び門を開くのには早くても2tかかる。しかも下手に新世壊を剥がしてしまったら今度こそロストでテンポを取られかねない。

 さらには相手は5C。このままターンを返しても即死まで届くとは思えない。今は待っても大丈夫だろう。

 長考の末、ターン終了の宣言をした。

 満を持して現れるザーディクリカ。今度こそくるであろうロスト・Re:ソウルに思わず身構える。しかし予想に反して唱えられるはまたもやボルカニック。

 相手の引きが予想以上に噛み合わず、動きが芳しくない。この隙をつくなら今のうちだ。

 6枚のマナをフルで使い魔導具を3連打。山札をありえない速度で掘り進める。しかしガリュミーズはおろか、2枚目の新世壊やクロカミさえも見当たらない。

 最後に唱えるブラッドゥに目一杯力を込めるが、手札にくるのは完全に出てくるタイミングを間違えた新世壊が2枚。

 使えるマナを全て消費したなら再びエアヴォで新世壊を剥がし、ゼニスザーク出すか考える時間になる。

 しかし彼はそれを考えることもせずターン終了の宣言をする。

 自分だけでなく相手も手札が悪い姿に、5C側も唖然とするがこのチャンスを逃さんとばかりにプレイを進める。

 今度こそ始まる逆襲。

 満を持して唱えられたのはブレイン・スラッシュ。出てくるのは勿論ザーディクリカだろう。

 一枚のブレインスラッシュがブレインスラッシュを呼び、更なるブレインスラッシュが嵐を巻き起こす。そして締めくくりに相応しいのは必殺呪文ロスト・Re:ソウル。

 手札を全て墓地に置く。墓地に置かれたのは、今か今かと出番を伺っていた大量のゼニスザーク達。 それを見下ろすように覆い囲むのは増えに増えたザーディクリカ。

 ここで無月の門:絶でカウンターのゼニスザークを投げれたらいいものの、魔導具の数はギリギリ5枚。

 ゼニスザークを埋めてでも魔導具を抱え、魔導具が6枚になるように調整しておけばよかったと後悔する。

 「まだ、諦めるな!勝て!」という声と共に再び上から引いたのはブラッドゥ。考える暇もなくそれを叩きつけた。

 1枚、2枚、3枚、4枚。魔導具を連鎖させ消えた手札を一瞬で回復させる。

 さぁ、今度こそ!ここから勝って勝って勝ちまくって奇跡の予選突破を目指すんだ!

 

 そうして新世壊に向けて手を伸ばす…が。……無い。

この状況を卍回する挽回札が手札にないのだ。


 残り見てない部分は山札上5枚と盾の5枚。30枚掘り進めてもなお、2枚目のガリュミーズは見当たらない。

 自分を守る5枚のシールド。薄くなった山札。一つの新世壊にこれでもかと敷かれた夥しい数の魔導具、それらを交互に見つめる。

 ここで思考回路が全てシャットダウンした。

 

 シャカシャカシャカ、パチン。シャカシャカシャカ、パチン。

 会場内に響くリズミカルなその音は今までと何も変わらないはずなのに、この瞬間だけいつもより大きく、それも鮮明に聞こえるような気がした。

 門は未だに固く閉ざされたままだった。

 そして泥沼化した小競り合いもいよいよCRYMAX。黒いボルバルザークとも呼ばれたスターマックスな鬼神のお出ましだ。

 己を守る盾が2枚消し飛ぶ。しかしその2枚にもガリュミーズの姿はない。

 盤面にはザーディクリカ3体とデドダム、そしてこちらを嘲笑うように見下ろす黒い鬼神。


 絶対絶命の状況だが諦めるにはまだ早い。


 暗雲の隙間から光が差し込むように、希望の光が見え始めた。

 そう、ガリュミーズ以外にも堕呪ボックドゥもこれまでを通して一枚しか見えていないのだ。

 あれ…ということは?ここで殴り方を間違えてくれたならば…?

 ジャオウガ3点からならボックドゥ2枚踏みでも耐えられないが、ザーディ2点ならボックドゥ2枚踏みで耐えられるぞ…?


 余裕たっぷりの笑みを浮かべながら口を開く。それは先程通用しなかった苦し紛れのハッタリ。

「3点からいきます?」


 その言葉を耳にした瞬間、手が止まる。悩みに悩んだ末に相手が出した回答はザーディクリカ2点。




 大勝利だ。

 



 しかし、確認する盾の中にボックドゥはおろか行方不明のガリュミーズさえ見当たらない。

 予想外な盾の中身に唖然とした表情を浮かべるが、残った最後の一枚に向かって容赦なくデドダムが突っ込んでくる。


 シールドトリガーの大逆転……なんてドラマはないらしい。

0-3

 目の前で即座に片付けられるカードとプレイマット。どこかやり切れない気持ちを抱えながら、まだ確認していない山札の上の5枚を確認する。

 「ずっと下で見守っててくれたんだね。お疲れ様、今日はありがとう」

 初めてのGPは0-3となんとも言えないCRYSHICな結末となってしまった。

◇◆◇◆◇

 飛行機の中で仮面が外される。

 言葉だけにしてみれば『マジックに3killされた』『3盾目にドラゴ大王が飛んできた』『ガリュミーズ欠損』どれも運が絡まなかったどうしようもない負け方だろう。

 しかし、それでもプレイの分岐を大きく間違えてた可能性もあるし、デッキ選択そのものから間違えてたかもしれない。

 それもこれも直前の一週間はほとんどサバキZの調整で時間を使ってたからだろう。もしかしたらその一週間でより良い選択ができたかもしれない。飛行機の中で一人反省する。

 ……でも、こうして振り返れるならこの0-3は決して無駄になったわけでは無いはずだ。いや、無駄にしたくないからこそ、これからはこの思いを忘れずに励むのみ。

 変えられない昨日があっても、今日は変えていける。

 イヤホンから流れる曲に耳を傾ける頃、飛行機の中で「間もなく着陸します」のアナウンスが流れる。

 
 飛行機から降りて友人達と再開し、3日ぶりの福岡の空気を吸う。その顔は何もかも捨ててスッキリしたような、満面の笑みが浮かんでいた。

 貼り付けた仮面の顔じゃない、正真正銘の心からの笑顔だ。

___

 用意した仮面は全て座席シートに置き忘れていた。

 いや…。忘れたのではなく、必要なくなったからおいてきたのだろうか。



 どちらせよ。今の彼にとっては、もう必要のないものであることに変わりない。

 






 「あれ!?飛行機の中で書いてた振り返りの記事、保存されてなくて全部消えてるんだけど!?また書くのかよぉおぉおぉおぉ」


 ……仮面を捨てるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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