橋本治と巨人の星4

橋本治の著作ばかりを追いかけていたとはいえ、さすがにすべての文章を把握しているわけではないのではっきりと断定はできないが、90年代以降、
彼がモチーフとしてマンガ作品をとりあげることは、ほとんどなくなっていったようである。だから80年代後半に書かれたバタアシ金魚についての論考は、橋本マンガ評論の再末期に属するものと考えられる。        この作品はヤングマガジンに掲載されたものであって、少年マンガというカテゴリーからはやや外れたところにあるのかも知れないが、橋本はこの作品を”おれは鉄兵”との比較において論じている。端的に述べるならば、バタアシ金魚の主人公は上杉鉄兵(すなわち少年マンガの主人公)のマネをして失敗を繰り返して地団太をふむ存在である、と。そして橋本はそのようなキャラクターである彼を「新しい少年マンガの主人公」として大絶賛している。82年に構想された熱血シュークリーム下巻に、当時存在していなかったこの作品がはいっているはずもないのだが、もしも80年代後半に再構成が行われていたならば、おそらくは全編中の中核をになう文章になっていたのかもしれない。
さて問題の巨人の星だが、現在入手可能な書籍からは、雑誌掲載時に存在した巨人の星に関するほんのちょっとした記述は削除されている。それは
”大リーグボール養成ギブス”のような特殊なアイテムに頼らずに成長していく主人公を称賛しているというものなのだが、自分が問題にしたいのは大リーグボール養成ギブスなどという固有名詞がいきなり登場してきたことである。今回の文章はその長さに比してほとんど内容がないものでわざわざ読んでくれたかたにはいささか申し訳なく思うが、前回「巨人の星見たいな」と言っていた橋本は、この時点で明らかに巨人の星を読んでいる、という、まあそれだけのハナシであった。そして次に彼が巨人の星に言及するのは、主人公の星飛雄馬ではなく、この作品で重要な位置を占めるある人物に関してなのであった。
まだつづく。

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