拙稿『迂闊な月曜日』再録(1)

はじめに

 はじめまして。滝沢(@takizawa_poke)と言います。第6世代ポケモン対戦をやっていました。大した成績は残せていませんが,以前書いていた拙ブログ『迂闊な月曜日』の記事を一部再公開をしたいと思います。もしかしたら今となっては時代遅れの戯言かもわかりませんが,懐かしい気持ちで読んでいただければ幸いです。なお,複数の記事をひとつにまとめているので,ところどころ加筆修正を施していますが,趣旨そのものが逸脱するような書き下ろしはありません。

役割関係の決定とその破壊

 ポケモンのシングルバトルとは3竦みのゲームです。正確には“竦みを作るゲーム”とでも言えばよいでしょうか。

 1vs1の対面では必ずどからかが勝ち,必ずどちらかが負けます。そうであるならば,負ける側はそのまま素直に倒されるわけにはいかないので,勝てる駒に交代して切り返す必要があります。そして,入れ替えが済んだらまた新たな1vs1の対面になり,その対面でもまたどちらかが勝ち,どちらかが負けます(不利なほうは勝てる駒に交代し負けないようにする)。これを繰り返して交代先を削り,ダメージレースを制するゲームであるため,その場に出ている2匹と,その2匹のうちで不利な側が持つ控えの3枚目,これで瞬間瞬間に「3竦みが発生するゲーム」が成り立っていると言えます。

 このシステムはいわゆる「御三家」という形で最初に教えてもらえます。草タイプは炎に弱く水に強い,炎タイプは水に弱く草に強い,水タイプは草に弱く炎に強い。このような「有利不利の関係」を対戦考察の世界(?)では「役割関係」と言い,相性の優劣を示す場合「役割関係がある」「役割を持つ(持たれている)」と表現することが通例となっています。

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 冒頭でも述べたように有利不利を覆すのは「見えざる3匹目」です。御三家ならば,最初に草タイプを選んだ場合ライバルが選ぶ炎タイプに不利になるので,できるだけ早く水タイプを捕まえることが望まれます(「相性補完」という概念)。

 しかしこの役割関係は単体においても覆すことが可能です。その一手こそが「役割破壊」にほかなりません。これは単体同士の優劣関係を逆転させる「役割関係の真逆を突く考え」にも見えますが,「不利なほうが引く」ということが前提であるならば交代先への負荷を考えた場合,役割破壊を交代読みで置くことが合理的であることは言わずもがなであり,寧ろダメージレースという概念に忠実な考えとも言えます。本来カメックスはフシギバナに対して不利をとりますが,炎タイプとの対面で氷技を押すことで後出ししてくるフシギバナに対して負担をかけられます。また,対面からでも行動順や行動保証によっては突っ張る選択肢が生じますし,むしろこれがないと一方的に起点にされるだけなので「切る」という行動すらできなくなってしまいます(トレードオフを迫れない)。同様にカメックスを苦手とするリザードンはソーラービームで対抗し,フシギバナはめざ岩・・・?ともあれ,これが補完であり,また役割破壊です。

 余談ですが,耐久に振る利点のひとつに,このサイクル戦において後出しする回数を増やすこと。素早さに振る利点のひとつに,このサイクル戦において不利対面でも相手の耐久によっては上から縛れることがあります。因みに対面戦においてはどちらも「行動保証」の意味合いがあります。

 閑話休題,「別の役割関係」で3竦みを作ってみましょう。例えば「地面<水<電気<地面…」の関係。

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 この図に違和感を覚える人も少なくないと思います。地面と電気の関係においては,タイプ相性通りに言えば優劣関係≒役割関係は,電気<地面ですが,この図のように竦んでるかと言われると怪しいからです。この正体は,ボルトロスが飛行タイプを有しており,電気タイプとして見たときにこの竦みを克服しているから生じる違和感です。同様に地面タイプとして採用されたガブリアスはドラゴンタイプにより水を等倍に抑え,また水タイプとして扱う場合のウォッシュロトムも電気タイプを持っていることで電気技を等倍に抑えることができます。環境にもよりますが,単体で範囲(攻撃範囲や耐性)を補完できているポケモンは一般的に強いと言われる傾向にあります。炎タイプでありながら水タイプに特定の強さを発揮するリザードンなどもこの性質が強いと思います。一方で複合タイプにおいては弱点を一か所に集中させてることが強いという見方もあります。複合タイプはそれだけ弱点が増えるわけですから,苦手な範囲を一か所にまとめてるのは確かに偉いのかもしれません。

 さて,実は「タイプ相性」以外にも役割関係を形成するものがあります。その1つが「数値」です。極論ですが,レベル1のヒトカゲは炎タイプにもかかわらず,レベル100のフシギバナには勝てません。これは数値の差による有利不利の関係です。このように,数値によって生じる役割関係はタイプ相性さえ覆すことがあります。身近なところだと第7世代における鋼タイプのメタグロスvsエスパータイプのクレセリアや,第5世代における水タイプのキングドラvs炎タイプのバシャーモなどはその典型でしょうか。他にも,水タイプでありながら電気が等倍,電気タイプでありながら地面が無効と極めて優秀な耐性を持っているに拘わらず使用率が芳しくない水ロトムは,この「数値」が不足しているからと言えるでしょう。

 そんな数値による役割関係を3竦み化した一例がコチラ。

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 数値はタイプに比べると一般化しにくいため,私はこの関係を,原型こそとどめていませんが第2世代に体系化された役割理論に則って「潰し」「受け」「崩し」と抽象してきました。

 一番わかりやすい「受け」から見ていきます。大前提としてシングルバトルは交代戦です。不利な相手に対しては,有利なポケモンに交代しなければそのまま倒されてしまうし,そのまま倒されたらそのポケモンが本来倒すはずだったポケモンが倒せなくなってしまう⇒試合に負けてしまうからです。ここは覆りません。火力がインフレしていた第6世代ですらここは不変でした。この前提があるならば「受け」という概念が生まれるのはごく自然なことです。「受け」はそのまんま「受ける」ことを意味します。「後出しする」ことではなく,「後出しできる」こと,つまり後出ししてからもう1回動けること(狭義では「被ダメージに回復量が勝っている状態)です。これが「受けが成立している状態」になります(確定3発以下)。後出ししてもそのまま追撃で突破されてしまっては交代そのものの意味が無くなってしまいますから当然ですね。逆の概念が「切る」であることの説明もいらないかと思います。役割理論を知らない人でさえ何気なく使っている言葉で,それくらい浸透しているのがこの「受け」です。

 そして「受けが成立する」とき,それはつまり「攻撃側のポケモンは受けポケモンの突破が不可能である」ことを意味します。回復技をもっていれば突破不可能で膠着,回復技をもっていなくても受け側は切り返す三段があるからこそ受け出ししているからです。「攻撃側が突破不可能な状況のとき”受けが成立している状態”としたのだから,これはただの言い換えになります。

 そこで,「受け」を「崩す」ための概念が生まれます。それが「崩し」です。突破できない=受け側の勝ちなので,これも自然な発想と言えるでしょう。しかし,崩しには当然相応のパワーが要求されます。ただ,それだけのパワーを引き出すには,そのぶん他の性能を犠牲にする必要が出てきます。行動保証の欠落(火力アップアイテム)や,隙(積み技),命中率(一撃必殺など)などです。そうすると耐久を崩すことに長けていても単純な殴り合いに弱くなってしまいます。ここまでの論理に比べ,多少の飛躍はありますが,これも少し考えればわかることかと思います。

 なお,崩しという言葉はその意味する範囲が広く,ここでは「受け(単体)を崩すこと」に限定しましたが,広義では「サイクルを崩す」や「調整を崩す」など様々な意味をとることができます(極端な話,ステルスロックなんかも調整や襷に対する崩しとなりえます)。

 さて「崩し」に対して,行動保証を確立したり隙や命中率のリスクを軽くした「純粋な殴り合いに強いポケモン(種族でも型でも行動でも)」こそが「潰し」になります。いわゆる対面性能と呼ばれがちな役割で,崩しを,潰せるポケモンです。(1)上から殴る,(2)(確定2発で1発耐え)下から殴る(+先制技)の2パターンありますが,いずれにしてもそもそも崩しは受けができない火力なので基本的に後出しは想定していない=対面からの殴り合いに強い=対面性能が高いことを意味します。そして対面での行動保証を確保するために火力は崩しに比べて控えめで,受けを崩せるほどのパワーはありません。

 要約すると,「潰し」は崩し性能の高いポケモンを対面から突破する。「崩し」は耐久性能の高いポケモンを突破する。「受け」は耐久力を活かして潰しを止めるとなり,ここに「受け<崩し<対面の3竦み」が顕在化します。そして「強いポケモン」とはこの3つの性能の総合値が高い=数値が高いポケモンということになります(むろんタイプや技や特性や環境などの要素も無視できない)。後付け的な理論ですが,以上のように段階を経て成立している考え方であって,決して恣意的なものではありません。そして赤緑から現在に至るまで,世代を超えてシングルバトルの原理となっているものです。

 そして,詳しくは後述しますが,構築の軸を潰しに寄せた構築には「対面構築」,崩しに寄せた構築には「積み構築」,受けに寄せた構築には「受け回し(受けループ)」などがあります。また,潰し・崩し・受けのバランスが「スタンダード」と定義します。対面構築は受け回しに弱いので崩し性能を仕込み,受け回しは崩しに弱いので潰し要素(第5世代であればスカーフバンギラス,第6世代であればメガゲンガー,第7世代であればミミッキュ)をいれて補完し,展開構築は襷やスカーフに殴り負けないようにステルスロックや壁などを採用します。

 また,この数値による役割関係もまた「役割破壊」ができます。上図で言えば,メガガルーラのグロウパンチが最たる例でしょう。同様のケースとして,ガブリアスの拘り鉢巻や,メタグロス・ライボルトなどの毒々もまた「指数受け」を破壊しうるものとなります。ウルガモスはどうでしょう。ガルーラより安定性に欠けてしまうのはメガストーンのスペックのため仕方ないとして,方向性としては,羽休めによってガルーラの詰ませを狙う「アッキウルガモス」などはこれに通じる部分がありますし,ガブリアスの岩技を耐えるウルガモスや,気合いの襷+サイコキネシスによってバシャーモに殴り勝とうとするウルガモスもそれに該当するでしょう。残念ながらクレセリアがウルガモスを役割破壊することは難しいですが,それでも状態異常技や三日月の舞などで隙を減らしています(ポイズンヒールによる崩しにはスキルスワップで対抗できたりしますね)。瞑想+サイコショックを先に展開するというのも役割破壊の例になりますが,この場合,本来クレセリアが行うはずだった役割(指数受け)は担うことが難しくなる点に留意したいです。役割破壊において“意表を突く”ことは確かに大事ですが,汎用性の低下には常に気を配らなければいけません。構築全体そのものの改変も視野に入ります。並びや環境を配慮したうえで,どのように役割破壊する範囲を設定するというのは1つ腕の見せ所かと思います。メタ性能(特定の戦術に対する一方的な強さ)と汎用性(有象無象に対する柔軟な対応力)は反比例するので(いわゆる「トップメタ(汎用性)<トップメタに強い駒<トップメタに強い駒に強い駒」の三竦み)。


戦術分類

 シングルバトルの基本的な原理として「対面(潰し)ー耐久(受け)ー崩し」の三要素を熱心に提唱している私ですが,「対面ーサイクルー積み」の三竦みはあまり支持していません。後者でも確かに竦んではいるし,実質的には言ってることはさほど変わらないんですが,あまり基礎的ではない気がするので,これを「原理」とするのは嫌いというだけ。

 論拠としては
・「サイクル」という概念を「耐久」とは別に位置付けている
・「崩し」は「積み」に限らない
の二点です。

 言うなれば私の戦術観は,(1)「対面ー耐久ー崩し」,(2)「サイクル(役割重視)ー非サイクル(遂行重視)」と2つの観点から成り立っていると言っても過言ではありません。繰り返しになりますが,確かに対面は非サイクルになりやすく,耐久はサイクルになりやすい傾向がありますが,それはあくまで傾向の話であって,別次元の概念体系だと思っているということです。わかりにくいので具体的に見ていきましょう。

・対面志向における「サイクル志向」と「非サイクル志向」
 対面構築は,傾向としてあまりサイクルを回すことを好まない構築ですが,サイクルを回す思考もあります。それは対面操作技(主にとんぼがえりとボルトチェンジ)です。まず前提として対面操作技は遂行しながら相手の交代にも対応できる技であり,対応範囲を広げる技=対面志向の技です(詳しくは後述)。しかしこれは明らかにサイクルを回しています。というのも対面操作技とは,自身のスペックでサイクルをほぼ無限に回すことができる耐久ポケモン同士によるサイクル(いわゆる受けループ)から見れば採用されにくい技で,本来サイクルを回すことが難しい(=後続が受け出しできる耐久力を持っていない)対面構築だからこそ採用される技,つまり“サイクルを回すための技”なのです。ですから対面操作技は「対面志向でサイクル志向の技」ということになります。一見矛盾しているようですが,「対面」と「サイクル」はそもそも対立概念でもなければ並列概念でもないというのがボクの考えなので,この表現で一応は辻褄は合っています。

・耐久志向における「サイクル志向」と「非サイクル志向」
 耐久志向と言えばまず思い浮かぶのが「受けループ」です。受けループは基本的に数値や耐性によってサイクルを繰り返し,回復技をメインに試合を組み立て,スリップダメージ(6世代以前であれば制限時間切れ)で勝利条件を満たそうとする戦術を指します。このように,耐久志向は基本的にサイクルに寄る傾向(対面構築と真逆の性質)がありますが,単体で「詰ませ(いわゆる要塞化)」や「嵌め」を狙う動きは「耐久志向で非サイクル志向」と言えます。追加効果や急所の存在,滅びの歌などの特定の対策があるため実践においてはあまり有用性はありませんが,瞑想スイクンや鉄壁エアームドはこれに近い着想だと考えられます。

・崩し志向における「サイクル志向」と「非サイクル志向」
 これは二極化が難しいところですが,わかりやすいのは積み構築だと思います。あれは紛れもなく「非サイクル志向の崩し構築」と言えます。対して毒々を利用した崩しですが,これは比較的サイクルを前提としやすい性質を持っています。一撃必殺は両方の性質があるような気がしますけど,有利対面で交代先まで負荷をかけられるという点で,どちらかと言えばサイクル志向と言えるでしょうか。また拘りアイテムもサイクルを前提とした崩し志向の傾向があると思います。なお積み技に関してですが,剣の舞や悪だくみといった火力上昇系の積み技は崩し志向で間違いありませんが,前述した鉄壁やどわすれといった耐久上昇系の積み技は耐久志向,そして高速移動やニトロチャージのような素早さ上昇系の積み技は対面志向と位置付けられます。ですので,積みが必ずしも受けに強いという認識は,火力上昇の積み技を暗黙としていることを踏まえても,誤解を招きそうなので嫌です。あくまで三竦みに入るのは「積み」ではなく「崩し」(屁理屈)。

・バランス志向における「サイクル志向」と「非サイクル志向」(余談)
 私は「対面・耐久・崩し」をバランスよく組み込んだ構築をスタンダードと定義していますが,こういった構築は「相手の対面(例えばガルーラ)」と「こちらの崩し(例えばウルガモス)」の対面のとき,ウルガモスを「耐久(例えばクレセリア)」に下げることができますが,「相手の崩し(例えばウルガモス)」と「こちらの耐久(例えばクレセリア)」の対面においては,「対面(この場合,ウルガモスを潰すために用意したガルーラ)」を後出しすることは難しいです。こういう場合ウルガモスに対して後出しできる駒(ガブリアス・カイリュー・マリルリなど)を選出しておくことが望ましいですが,耐久ポケモンに対面操作技を仕込ませることでこれを解決できたりします。形としては,バルジーナやサンダー,ハッサムなどは,クレセリアやカバルドンに比べて数値こそ不足しがちですがスタンダードにおいて「耐久」を熟しながら,対面操作によって「対面」を演じることができるポケモンの代表的な例だと思います。

 「サイクル」の逆,つまりこの記事で言う「非サイクル」は,既存の語句だと「展開」に該当するような気がします(諸説ある)。

 以上を踏まえたうえで本題となる戦術分類について見ていきます。

戦術分類

 本題に入る前にまず「なぜ分類をするのか」を述べておきます。結論から言えば「コミュニケーションのため」です。持論ですが,分類に基づいて構築を組み立てるのには消極的で,あくまで観察した結果を整理するために分類は行います。というのも残念ながら現段階では,分類が実践に還元できるとは到底思えないからです。ですが,並び以外に“特定の共通点”を持つ構築を指す『名札(タグ)』がないのは不便ではないでしょうか?例えば,第6世代において「ガルーラスタン」という言葉をよく耳にしましたが,私はこの語句にずっと違和感を持っていました。第6世代においてガルーラ入りの構築をすべて「ガルーラスタン」で理解・共有し,諸問題を解決できるならそれほど簡単なゲームはないと思います。せめて「ガルクレセ軸のガルーラ@5」と「厨パベースのガルーラ@5」だけでも,分けて認識するべきでしょう。勉強熱心な識者諸君であれば,この2つを例えば「(攻撃的な)サイクル」と「対面」というふうに理解をしているのではないでしょうか?

 以上でも述べたように,「対面(潰し)・耐久(受け)・崩し」と「サイクル・非サイクル(=展開?)」はまったく別次元の概念体系であり,対面志向・耐久志向・崩し志向のそれぞれにサイクル志向と展開志向があると述べました。わかりすく図にすると以下のようになります。

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 正直『分類』についてはこれで完成していますが,次に具体的にこの表に該当する戦術がどのようなものなのかを簡単に説明し直したものが以下になります。

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 そして,それぞれ縦軸と横軸の組み合わせで,その戦術の“便宜上の『名札』”にしてみます。

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 以上になります。不本意ながら「受けサイクル」という語句が既存の語句と重なってしまいましたが,まったく関係ありません。わかりにくいので本稿では「耐久サイクル」のほうを使います。

 余談ですが,既存の語句の流用について私見を述べます。たまに「積みサイクル・積み展開」や「受けループ・受け回し」をはじめ,既存の用語の分類・定義に一生懸命な人を見かけますが,そもそものところ,そういった既存の語句の多くは体系的・大局的・総合的な視点から名づけられていることが少ない=構築名由来の語句が多いため,その「違い」を考えることは不毛だと思います。例えば「積みサイクル・積みリレー・積みループ」の違いを考えたり,或いは「受けループ・受け回し」の違いを考えたり,最初に違いを明確にするために作られた単語ならまだしも,何と何が並列概念で,何と何が対立概念で,何と何が上位体系-下位体系なのかを意識されていない状態で作られている単語の違いを考え出すのは分類博士のエゴに終始しがちです。
 勿論既存の語句を借りることは悪いことではありません。場合によっては寧ろ有用です。自分の体系的な見方において,既存の語句に相当する概念があるのであればその単語を流用し,再定義することも1つの手段となります。というのも,既存の語句は定着しているため扱いやすく,とくに分類の目的にコミュニケーションを前提とするのであれば認知度の高い単語を引っ張ってきたほうが便宜を得られるからことが多いからです。但し,その時々に必要に応じて出会いがしらで作られてきた既存の用語を,今の視点から体系的に整理することが目的になってしまうのは本末転倒ということです。参考までに,私の分類体系に既存の語句(構築分類)を流用するとこのようになります。

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 ここまでの思考過程を整理してみると次のようになります(いままの図と上下逆になってしまいました。ごめんなさい。)

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 一応戦術の分類はここまでになります。以下では少し発展させてもう少し実践的に考えていこうと思います。

 先の「既存の語句の流用」のくだりで示した図において,『対面構築』が「対面サイクル」と「対面展開」の両方に含まれていることにお気づきでしょうか?これはつまり,現在我々は,『対面構築』において「対面操作アリ」と「対面操作ナシ」の構築を呼び分ける必要をないと考えているからに他なりません。これはおそらく構築の差というより,単体や立ち回りの差の域であるためでしょう(蜻蛉帰りを採用した霊獣ランドロスは蜻蛉帰りしか押せないわけではない=居座りもできるから当然と言えば当然ですね)。同様に,『耐久展開』が空白ですが,そもそも耐久ポケモンとは相手のポケモンを倒すのではなく自分のポケモンが倒されないことで勝利条件を満たそうとする構築であるため,相手のHPを削る手段に乏しいです。そのため,例えば壁+起き土産から要塞化を展開する構築は,数的不利をとってTODで負けになるため,そもそも戦術から破綻しています。単体として見れば,小さくなるラッキーや鉄壁エアームドがこれに該当しますが,これらのポケモンもサイクルを回して勝てるときは,通常通りサイクルを回しています。言うなれば「耐久サイクル」と「耐久展開」のハイブリッドで,それをどっちかに決定するのはやはり立ち回りの段階ということになります。そのため,形式としては「耐久展開」の分類は存在しても,そこに実質はなく,用語としての有用性が薄い=用語が存在しないのです。つまり『対面構築』においては「サイクル志向」と「展開志向」を区分する必要はなく,また『耐久構築』においては「耐久サイクル」を示す語句(構築分類なら例えば「受けループ」など)があれば十分だと言えるでしょう(そもそも耐久はその性質上サイクルに寄りやすく,対面は展開に寄りやすいですからね)

 拘り鉢巻や拘り眼鏡を利用した崩しは単体として見ればサイクル志向ですが,構築としてみると役割論理が該当し,それは縛りと化している側面が強いため,実質的には「対面ーサイクル(受け)-積み」という構築の三竦みが見えてきます。ただあくまでそれは実質的な話であって,原理的な話をすれば「潰しー受けー崩し」の三竦みのほうが正確だと考えます。


 最後になりますが, 簡単な思考実験(?)をしてみます。「茶色いもの売り場」「ジュース売り場」「ソフトドリンク売り場」「飲み物売り場」「甘いもの売り場」がそれぞれ独立しているお店を想像してみてください。そのお店で『コーラ』を探すのってすごく難しくないですか?分類はそれぞれの定義よりも,全体をしっかり分けられる指標を抽象できるかがなにより大事だと考えます。流石にそんなお店は現実にはありえませんが,ちょっとマイナーなものを買いに行くとき売り場を迷ったりしますよね。ですのでお店側もわかりやすく売り場を設定します(飲み物売り場があって,その下にジュースコーナーがある。茶色いもの売り場なんて設置しない)。ポケモンにおいてもそれは同じで,構築はおろか単体でさえ複合的な要素で構成されているため,合理的に整理するのは中々難しいものです。ことポケモンに関して言えば,ブログ・SNS文化が盛んで,情報の力が強いゲームであるため,検索の精度を上げるためにも表記揺れさえ許したくないというのが個人的な所感です。


おまけ:対面構築についての所見

第6世代対面構築「厨パ」が強いワケ

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 第6世代後半に,化身ボルトロス・ガブリアス・ガルーラ・ゲンガー・バシャーモ・スイクンの並び(いわゆる「厨パ」)が爆発的に流行したことは記憶に新しいと思います。ここでは,なぜこの並びが強いのかについて考察していきます。結論を言ってしまえば「個々の対応範囲が広く,型の多様性が認められるから」に終始するわけですが,それは具体的にどういうことなのか,迫りたいと思います。

 さて,先にも述べたように,前提として役割は「対面(潰し)>崩し(流し)>受け(耐久)>対面…」に竦みやすい傾向があります。(勿論単体性能・タイプ相性・S関係によっていくらでも覆りますが、あくまで役割としての性質です)

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 いわゆる対面構築は、潰し性能の高い対面型ポケモンで固められており,耐久をいかにして崩すかが課題になります。ここまで敢えて「潰し・受け・崩し」とそれぞれを独立させて、便宜的に3つの役割に明確に線引きしてみましたが、単体としては、実際のイメージは次の画像のように一周あり、対面と崩しの間をとるような中間分類もできると考えています。例えば、偏に崩し型のポケモンといっても、役割論理に見られる耐久に近い「サイクル志向(耐久振りして行動保証をかける)」と、積みサイクルに見られる対面に近い「非サイクル志向(S振りして行動保証をかける)」とがあると思います。

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 またこれらは型によっても異なり、より細分化できます。次の画像を参照されたいです。

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 ガブリアスの「珠剣舞」や「鉢巻」は崩しの性質に特化し、「スカーフ」は対面の性質に特化しています。「襷剣舞」や「ヤチェ剣舞」は両方を実現している型になります(万能とは裏を返せばどっちつかずの器用貧乏になりかねませんが)。意図したところではありませんが,奇しくもガブリアスは竜が弱点のため、ミラーにおける有利不利関係がこのまま出てきます。

 厨パと呼ばれた対面構築の構成員は、化身ボルトロス・ガブリアス・ガルーラ・ゲンガー・バシャーモ・スイクンですが,この6匹は対面性能が高いだけでなく,崩しが行える対面型ポケモンであるということです。つまり,(対面型のポケモンは役割の竦みにおいては,耐久に弱くなりがちな傾向ですが,)対面構築にしてどこから崩しが飛んでくるかわかりにくいのです。下手に受けようものなら役割破壊されかねないというわけです。

 前述したガブリアスの型からもわかるように、単体考察段階で,対面に寄せれば崩し性能が劣り,逆に崩しに寄せれば対面性能が劣る。また,単体考察段階では対面と崩しの両立を実現している襷ガブリアスでも,立ち回り段階では,対面の動きをすれば崩しが行えず,崩しの動きを行えば対面的行動がとりにくくなります。ガルーラのグロウパンチもわかりやすいでしょうか。これこそが厨パにおける「型の多様性」であり強さの真髄と言えます。「対面」構築にして非常に「受け」が困難なのです。

 そして「崩し」として,もう1つ重要なファクターがあります。「急所」や「追加効果」などの不確定要素です。対面型のポケモンでも時に急所で耐久を崩すことができます。そしてガルーラはそれを引き寄せやすいです。崩し技であるグロウパンチを押さずとも、クレセリアを押し切ったガルーラを幾度も見たことがあるでしょう。化身ボルトロスにおいて、悪巧みをせずとも電磁波による痺れ(≠S操作)で勝ちを拾ったことがあるでしょう。耐久型は本来詰ませによる勝利を理念としますが、それはつまり受け出しして回復技をしてるだけでは一切相手削れないということを意味します(実践においては定数ダメージで削りきる)。しかしガルーラは容易にはそれを許しません。サイクルを回す行為自体を評価しない声もあるくらいです。第6世代における受けの難しさは、対面行動で無自覚にも易々と受けを崩してくる、いや対面行動に崩し性能が付与される、あるいはその2つが一致しやすいガルーラとかげふみゲンガー(とあとバトンバシャーモ)のせいだと思います。その一方でガルーラは,耐久を崩そうとするとミラーに隙を見せやすいジレンマに陥ります。厨パ最盛期のあとクレセリアが復権したメタメカニズムによる環境の循環も理解できます。

 結論を急ぎます。極端な話,対面構築の選出を単純化すると、①とにかく出し敗けしない初手,②相手の受けを崩せる駒,③相手の受けを崩したあとに詰められる駒となっています。厨パの構成員は基本的にこの3つのうち2つ以上を行えるポケモンが多く,どのように試合を組み立てていくかが選出画面で問われます。

対面構築の試合の組み立てについて

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 対面構築は基本的に対面操作以外でのサイクルを回すことを想定していません。そのうえで選出の組み方とゲームメイクについて見ていきます。

①先発:出し敗けしないこと
 指数受けが効きにくいので、交代は考えずとにかく対応範囲を重視。対面構築は2タテ3タテを狙う構築とは違い、先発で殴り勝ち、相手が死に出ししたポケモンに裏2枚から有利なほうを出す。これを繰り返して残数でリードしながら逃げ切りの形で試合を運んでいく構築なので、先発で出し敗けしないことは重要です(残数リードの考えに則れば、死に際に相手の後続に不意打ちや電磁波を打ち込めるポケモンの強さがわかります)。行動保証かつ火力のある対面操作技はこれを満足します。先発で殴り負けて、こちらが先に死に出しした場合、相手に有利なほうを出されて、引き先がいない=サイクルが回らないというのが最悪の事態(勿論対応範囲には限界があるので、最低限補完や数値などでサイクルは回るようにできています)

・弱点が炎しかなく、無効タイプ無しの対面操作技をタイプ一致で撃てるハッサム
・先制電磁波+電磁波の通らない相手と撃ちあえるHBボルト
・加速+バトンタッチで数値上昇による役割関係の逆転を創造することで疑似的にサイクルを実現するバシャーモ
・多くの場合に非役割対象を突破できるが、非役割対象を突破した際に役割対象に対する遂行ができなくなる気合いの襷
・そしてなにより全ポケモンでもっとも強いガルーラ。殴り勝てる範囲は他の追随を許さない
などは出し負けしにくい、出し敗けしても仕事がしやすいなどの要素ないし性質が強いでしょう。とくに出し負けしないことを意識しすぎると、相手の指数受けの後出しへの対応が困難であるため、そこへの回答も必要になってきます(自身が崩しを担うか、後述の②へスムーズに切り返す)。

 一般的に理解される「対面構築」とは異なりますが、やはりサイクルを回すことを意識してない対面志向の展開系構築にいれられるHDステロカバルドンもまた多方面に行動保証があり 出し敗けしにくく、欠伸+ステルスロックを確実に遂行できます。ただ,他に比べると単体に勝つ能力が低い=単体に負ける能力が高いため、裏には数的不利を補う催眠ゲンガーや積み技ポケモンが採用される傾向にあります。逆に崩しに特化した積み技ポケモンはカバルドンの展開補助のおかげで高い対面性能を獲得できる相互依存の関係にある(主に気合いの襷を潰したあとのメガルカリオなどが典型的)。上から壁を張るポケモンも同様。サイクルを回したくない構築はいずれもこの性質を持つ。ガルクレセも先発ガルーラの対応範囲は重要ですが、他方でクレセリアがあらゆる方面への数値受けを行うので、リカバリーが効きやすいです(数値もさながら唯一の弱点である格闘にはタイプ面でも補完がとれています)。

②次発:崩し
 「対面(潰し)」は役割の関係上は「耐久(受け)」に弱いため,相手の数値受けに強い崩し手段を用意したいです。積み技やZ技もそうだし、対面操作技+後出しを許さないメガシンカの決定力も該当します。とくにガルーラのグロウパンチやメガゲンガーのかげふみ、バシャーモのバトンタッチは崩し性能が非常に高いです。5世代においては竜の通りが良かった+めざパ以外で変なところから炎技がとんでこないので「ハッサムの蜻蛉+ラティオスの流星群orカイリューの逆鱗」の制圧力が凄まじいです。第6世代はバシャーモに対する出し敗けのリカバリーやガルーラの炎技のケアが難しいため評価が落ちます。

③後発:詰め、抜き
 崩しに寄せると対面に弱くなってしまうので、最後に対面に強い対面ポケモンが要請されます。基本的には相手のパーティに通りの良いポケモンを選出することになると思います。上から詰めていくことになるので、スカーフガブリアスやバシャーモなどが該当しやすいです。勿論崩しを剣舞ガブリアス等で行う場合は、メガシンカ枠で詰めを行うことも可能。ハッサムは先発の対応を蜻蛉でしたあと、バレットが強い詰め筋にもなれます。

 繰り返しになりますが,第6世代厨パは、どのポケモンも①〜③になれる組み立ての自由度があります。対面操作+決定力や加速バトンタッチは単体というよりパーティ全体の対面性能を底上げするまさに潤滑油とも言える動き。トリックルームもこれに近いです(ゲンガー+ニョロトノやDLポリゴン2or珠ブルンゲル+クチート)。

 受けを行わない=殴りつづけることで常に遂行側にあり、運勝ちを誘発しやすいのが特徴です。一方で、1試合あたりの行動回数は耐久志向の構築よりも少なく、1回の行動に背負うリスクは大きいです。受け志向の構築よりも敗因がプレイングに寄りやすく、勝因が運に寄りやすいです。

 この枠組みから組むこと自体には反対で、対応範囲の広いポケモン6匹が集まったときにこれが完成するものだと考える。

対面操作技について

 一部では対面操作技は,サイクル志向と認知されやすいですが,正確には対面志向且つサイクル志向の技です。

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 例えばハッサム(裏ガルーラ)vsクレセリア(裏ヒードラン)対面における「蜻蛉帰り」は,相手のクレセリアに対する遂行技でありながら,相手のクレセリアの「交換にまで“対応”できた」ということになります。裏からヒードランが出てきこようものなら,ガルーラのグロウパンチで素早くサイクルを崩しにいけばよいでしょう。同様にボルトロスvsファイアロー対面におけるボルトチェンジもまた相手の指数受けを許さない遂行技となり,結果的にサイクルが回りこそすれど,対面構築の真髄を満足する動きに他なりません(HDファイアローはこれをメタしたもの)。バシャーモの加速+バトンタッチに関しては遂行力が無く少し変則的になりますが,例えばバシャーモvs化身ボルトロス対面で霊獣ボルトロスにバトンすることで,霊獣ボルトロスが相手の後続に控えるガブリアスの上をとることができ,本来勝てない霊獣ボルトロスガブリアス対面の役割関係が逆転,つまりパーティ全体としての対応範囲が底上げされたと言うことができます。勿論,対面操作技を思考停止で採用しても対応範囲は広がらず,対面操作技は火力や範囲などかなり控えめな調整がされているので,使い手を選びます。例えば,ハッサムは弱点の少ないので行動保証がかかりやすく,鉢巻を持たせながら無効タイプが無い一致対面操作技を打つことができ,バレットパンチが詰め筋にもなれることから5世代対面構築においては構築の中枢をなしました。ともあれ,スカーフを持たせて上から対面操作するにせよ,あるいは行動保証をかけて下から対面操作するにせよ,出し敗けをしないという考え方が根幹にあります。

積み技=崩しではない

 積み=崩しを嫌う理由としてもうひとつあるのが,積み技の種類によっては崩しになりえないと考えているからです。火力上昇系の積み技はもちろん崩し志向となりますが,S上昇系は潰し志向,耐久上昇系は受け志向となります。回避上昇系に関してはすべてを伸ばすことができますが,運要素が非常に強いため運用に工夫が必要です。
 同様にアイテムに関しても,拘り眼鏡や拘り鉢巻は崩し志向となりますが,拘りスカーフは潰し志向のアイテムということができます。気合いのタスキは足が速いが耐久が低いポケモンに持たせて2回殴ることを実現させ,拘りスカーフは比較的足が遅いが耐久が高いポケモンに持たせて2回殴ることを主とするアイテムです。極端に足の速いポケモンにこだわりスカーフを持たせる例が多くありますが,それに関してはストッパー性能(潰し性能)を極限まで高めたものということができます。
 状態異常に関しても麻痺は潰し志向,火傷は受け志向,猛毒は崩し志向の性質が強いです。眠りの状態異常に関してはその後の展開次第で変わってくる技ですが,基本的には崩し志向と考えます。

おわりに

 ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。尻切れトンボになりますが以上です。参考文献に関しては載せることは控えたいと思います。また,拙稿「第6世代の環境の変遷と考察」についても近日中に再公開する予定ですので,暫くお待ちください。

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